約 541,864 件
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1917.html
御坂美琴の幸せ生活 AM6 00『1日の始まり』「ん……」まだ少し寒さが残る季節、美琴はゆっくりと目を覚ました。ベッド上でもぞもぞ動きながら目の前のものを抱きしめる力を強める。寒くても大丈夫、なぜならば―――「えへへ~……当麻あったか~い……」いつも側に上条がいるから―――御坂美琴20歳、ただいま婚約者上条当麻との幸せ同棲生活を満喫中。そして美琴は上条の胸に顔を埋め上条の感触、匂い、暖かさを堪能する。毎朝このためだけにこの時間に起きている。AM6 30『美琴起床』30分間たっぷり上条を堪能した後ようやくベッドから降りて洗面所に向かった。顔を洗い、軽く髪を整え今度は台所へと足を進める。今から朝食とお弁当を作らなくてならない。「今日の朝は……和食にしよっと♪」作らなくてはならない、と言ったが美琴にとって上条に料理を作ることは1つの楽しみだ。上条を起こさないように静かに、それでも手際よく料理を進めていく。そしてこの住まい、上条の寮ではない。5LDKの超高級マンションの1室である。AM7 00『上条起床』「ほら当麻?朝よ起きて!!」そう言いながら美琴は上条をゆすって起こそうとしていた。しかし上条は「う~ん……」とだけ言って起きようとしない。だが起きれないのも無理はない。最近仕事が忙しすぎてなかなか眠れていないのだ。一向に起きようとしない上条だが、こんなときの為に美琴には必殺技があった。『全くしょうがないわね……」そして美琴は寝ている上条の耳元に近づいていき……「ねえ起きて、もう朝食できてるわよ?あ・な・た♪」それが聞こえたのか上条はすごいスピードで体を起こした。「み、美琴!い、今なんて……?」「え~?だから朝食できてるわよ?って言ったのよ。」それだけ言って美琴は顔を赤くしている上条に背を向け台所へと戻る。これが美琴の超必殺技である。AM7 10『2人で朝食』「「いただきます!!」元気な声が部屋に響き渡った。2人は向かい合って座っている。「今日は和食か~、……うん美味い!さすが美琴の料理だ。」「ほんと!?えへ、嬉しいな……」美琴は上条に笑顔を見せる。ちなみにこの会話、毎日している。AM7 45『上条出社』「最近毎日帰りが遅いけど体は大丈夫なの?」美琴は玄関で靴を履こうとしている上条に向かって言った。「ああ大丈夫さ、それに今日は久しぶりに早く帰れそうだな。」「ほんと!?やったぁ!じゃあ夕飯は豪華に作っておくね!」「ああ、よろしく頼むよ。」美琴は無邪気に喜んだ。そんな美琴を見て上条も笑顔になる。そして上条の職業だが会社員などではない。統括理事会に勤めている。高校卒業後わずか18歳という若さで理事会入りして早4年。今では若くして学園都市トップクラスの権力者である上、魔術サイドとの重要なパイプ役でもある。そのため毎日超が何個もつくほど多忙なのだ。靴も履き終わり今にも出て行こうとしている上条を美琴は引き止める。まだやってもらってないことがある。「あ、その……いつものしてほしいなぁ……って思ったり…」美琴はもじもじとして顔を赤らめ上条を上目使いで見つめる。そんな美琴に上条は近寄り、「わかってますよ姫?ん―――」チュ、と行ってきますのキスをした。「それじゃ行ってきます!!」そう言って上条は元気よく出て行った。そんな上条を美琴はポーっと眺めていた。「うん…いってらっしゃい……」美琴は幸せだった。このキスがあるからこそ夜まで上条に会わなくてもやっていける。AM8 30『家事』「え~と……次は洗濯ね。」上条が出て行ったあとにはいろいろとやるべきことがある。掃除、洗濯、大学のレポートもそろそろやらなくてはならない。だが今はとりあえず洗濯、美琴は再び洗面所へと向かった。が、「きゃっ!」なんと転んでしまった。普段ならありえないが上条が早く帰ってくることもあって幸せ妄想で頭がいっぱいになり足下がおろそかになってしまった。幸い転んだ先には洗濯物の山があり、怪我はない。「いたた……ってこれ当麻の洗濯物…えへ、こんなところでも助けられ……」そこまで言って美琴の言葉は途切れた。なぜならば、上条の洗濯物に頭から突っ込んだため上条に包まれている感じがしたからだ。「……うにゅ…とーまの匂い……」美琴は洗濯物まみれのまま動けなくなってしまった。AM10 30『美琴大学へ』「ち、遅刻、遅刻する~!!」美琴は走っていた。あの後美琴は30分も洗濯物に埋もれたままになっていた。さらに上条が着ていた上着やYシャツを着るという行動にでた。最初は少しだけ、とか考えていたがたっぷり1時間も着たままでいた。さらにいつもなら別に遅刻してもかまわないが今日は違う。重要な実験があるため遅刻すると単位を落としかねない。そんなわけで美琴は大急ぎで大学へと走っていった。PM1 00『喫茶店でお茶』「全く……大学生にまでなって何で遅刻しそうになったのですの?」「ご、ごめん……この埋め合わせはちゃんとするから……」結果から言うと美琴はなんとか講義に間に合った。もう間に合わないという時間になってしまったので黒子を電話で呼んで大学まで連れて来てもらったわけだ。ちなみに2人は同じ大学に通っている。そして今は2限目も終わり美琴と黒子は喫茶店で初春と佐天を待っていた。この日4人全員が2限目までに講義が終わるということで久々に集合する予定だ。最近は大学の友達と遊ぶことも多いがやはりこの3人とは特別な絆で結ばれているような気がする。「埋め合わせはいいから理由を教えてくれませんかお姉様?まさかあの上条さんが関係しているのではないでしょうね?」ギクッ!っと美琴は反応してしまった。実際上条の洗濯物が原因なのだから関係していないと言えば嘘になる。「え、そ、そんなことないわよ!?ちょっと支度に手間取っちゃってさ!今日は実験の日だったから!!」かなり怪しい。黒子はさらに聞き出そうとしたが「おっ待たせしました~!」「お、遅れてすみません!佐天さんも謝ってくださいよ!」初春と佐天が登場。美琴はほっと一息ついた。PM1 10『4人で食事&雑談』「それでアイツったら全然起きないのよ!」美琴ただいま上条との生活を絶賛自慢中。ちなみにこの話題をふったのは佐天だ。黒子は興味がないといった表情で、初春と佐天は実に楽しそうに話しを聞いていた。「それにしても御坂さんなんだかご機嫌ですね。何かあったんですか?」「え?わかる?今日はアイツが久しぶりに早く帰ってくるのよ!それがもう嬉しくて嬉しくて……」美琴は満面の笑みを見せる。未だにこのメンバーの時は上条のことを当麻ではなく『アイツ』と呼んでいる。するとパフェを食べていた初春が「あー、あの人も今日は早く終わるって言ってましたね。」「でた……リア充発言……いいよね初春も彼氏いてさ!」佐天はギロリと初春を睨む。どうやら美琴はよくても同級生の初春に彼氏がいることは悔しいらしい。「そういや初春の彼氏って上条さんと一緒に仕事してるのでしたわね。」「いや佐天さんも白井さんも……あの人は別に彼氏ってわけじゃ……」「いや彼氏でしょ、休みの日はいつも一緒にいるじゃん!いい加減認めなって!」「そういえば初春さんって高校時代からずっと否定してるわね。」初春は意外と素直ではなかった。PM2 00『4人でショッピング』大学生ともなると今まで以上に服がいる。そういうわけで4人は服を買いに来ていた。「初春!これなんかいいんじゃない?」「いやそれはちょっと……子どもっぽくないですか?」「初春には丁度いいじゃありませんの。」4人でわいわいショッピング、こういうのは久しぶりなのでとても楽しい。すると今度は標的が美琴に変わった。「御坂さ~ん!これとかどうですか!?上条さん喜ぶんじゃないですか?」そういう佐天が持っていたのはすけすけのネグリジェ、少しエロい。にやにやする初春と佐天に対し美琴は「……もう持ってる……」目を合わさずにボソッと答えた。その言葉に1番に驚いたのは黒子。「お、お姉様!?今のお姉様がこんなの着たらとんでもない破壊力じゃありませんか!」実際すごかった。これで上条は完全ノックアウト、鼻血を出して倒れた。「み、御坂さん大胆……」「じゃ、じゃあこれは!?これは持ってますか!?」どこから持って来たのかはわからないが今度佐天は布面積の狭い水着を持っていた。「さ、流石にそれは……」持っていなかった。そんなもの着れるわけがないからだ。というか着たくない。しかし目の前の後輩2人はおかまい無しだ。「じゃあ買っちゃいましょうよ!」「か、買わないわよ!?そんなのどこで着るっていうのよ!」海でもプールでも着られるわけがない、そう思っていたが……「じゃあ室内で着ればいいじゃないですか、上条さん喜びますよ?」初春は冗談でそう言った。が、「お姉様…?なんでそんなに凝視なさってるんですの?」美琴は食い入るように佐天の持っている水着を見ていた。これを着れば上条は喜んでくれる……?「……ま、まさか買うつもりですの!?」「え!?か、買うわけないじゃないこんなの!こんなの……」そんなこんなで楽しいショッピングだった。PM4 00『夕飯の食材』3人と別れた美琴はスーパーに夕飯の食材を買いに来ていた。「今日は豪華にするからあれとそれと……それからこれも……」次々と食材や足りない調味料を買い物かごに入れていく。『おお!ずっごいごちそうだな!それに美味そうだ。』『でしょ?まあ食べてみて♪』『どれ……美味い!いつもより美味い!何か特別な調味料でも使ってるのか?』『そりゃ……当麻への愛がいっぱい入ってるわよ。///』『み、美琴……』『当麻……』「そ、それで一気にあんなことやこんなことを……へ、へへ……」妄想が暴走した。店内ということも忘れ不気味な笑みを見せ笑い声を出す。……その後不信に思った店員に声をかけられるまで5分はその状態が続いた。PM6 30『上条帰宅』「味は……よし!完璧!当麻喜んでくれるかな……」晩ご飯は完璧に完成した。あとは上条が帰ってくるのを待つだけだ。美琴としては早く妄想のように上条といちゃいちゃ過ごしたい。今か今かとリビングで待っていると……「美琴ー?だだいまー!」その声を聞いた美琴はダッシュで玄関へ向かった。そして「おかえりなさい!ねぇ、ご飯にする?お風呂にする?それとも~……わ・た・し?」かわいらしく笑顔で王道のセリフを上条に向けて言いはなった。これは美琴の上条に甘えたいという合図だ。これを聞いた上条はいつも抱きしめてくれる。ちなみにお風呂はマジでわかしてある。「それじゃあ……」美琴は早く抱きしめてオーラを全力で出す。そんな美琴を見て上条はほんの一瞬考えるそぶりを見せたのち「―――美琴をもらおうかな。」「へ?ん―――」上条は持っていた鞄を横に置くと美琴の腕をひっぱり抱き寄せ強引にキスをした。いつもの反応と違う、いつもなら“美琴をもらおうかな”など言わずに抱きしめて終わりだ。この不意打ちに美琴はなす術もなかった。それも長い、30秒ほど経ってようやく上条のほうから離れた。「ふえ…いきな―――」だが休む暇もなく再び上条は美琴の唇を奪う。上条は漏電対策のため右手で美琴の左手を握っている。それも恋人繋ぎだ。もう美琴はどうしようもない。ただただ上条に身を任せる。その後さらにもう1回キスをされそれを終えた上条は美琴から離れようとしたが……「?美琴?」美琴が上条から離れようとしなかった。左手は上条の右手を握ったまま、右手で上条にガッチリしがみついている。思考がうまく働かない。それほど今の上条の行動には威力があった。「全く……困ったお姫様だな…」美琴は倒れかけていたので上条にしがみついていたがヒョイっとだっこされた。もちろんお姫様だっこだ。そしてそのままリビングのソファーまで運ばれた。その間も美琴は上条にしっかりしがみついていた。PM7 00「夕食」「ほら当麻!いっぱい食べてね♪」復活した美琴は上条に手料理を振る舞っていた。「おお!ほんとに豪華だな!」テーブルの上に並べられた美琴特性の超豪華な料理。朝言ったことをみごと有言実行してみせた。「そりゃ朝約束したしね、それに当麻も仕事頑張ってるし私はこれくらいしないと!」「美琴たん……上条さんは感動して泣いてしまいそうですよ……」上条は目に涙を浮かべた。ちなみに今の上条の収入はものすごいのでこれくらいの贅沢は家計に痛くも痒くもない。「そんなことで泣かないの!ほら早く食べよ?」「おう!」2人は朝とは違い隣合って座る。「じゃあ…はい当麻!あ~ん♪」「ん……うん美味い!!」「そ、そ、そりゃ私の当麻への愛がいっぱい入ってるから!」「なるほど!そりゃ美味いわけだ!!」こうして夕食もいちゃいちゃしながら過ごす2人だった。PM7 45「団欒」後片付けも終わり2人でテレビを見ていた。美琴は上条座椅子を堪能している。上条は上条でもたれてくる美琴をしっかり抱きしめその感触を楽しんでいるようだ。……テレビなど見ていないに等しい。「そうだ、なんでいきなりキスしたのよ、びっくりしたじゃない。」「え?嫌だった?」「嫌じゃないけどさ……」嫌なわけがない。嬉しいに決まっている。美琴は顔を少し赤くした。「それで何があったのよ。仕事がうまくいかなかったの?」「いや仕事は順調なんだ、もうすぐ魔術サイドと科学サイドとで友好条約が締結できそうだしな。」「じゃあなんなの?」「それはだな……単純に美琴たんが可愛かったんです!」そして上条はギュー、っと美琴を抱きしめる力を強めた。「わわっ!か、可愛かったって……えへへ…」PM8 00『引き続き団欒』「それでね、今日は遅刻しかけて黒子に助けてもらったのよ。」「そりゃ大変だったな……なんで遅刻しかけたんだ?」「え…………あぅ…(言えない…)」PM8 30『まだまだ団欒』「友好条約だって言ってるのにシェリーとヴェントが喧嘩売るような発言してさ……しかも麦野さんに。」「麦野に……そんなんでほんとに条約結べるの?」「ああ、オルソラと絹旗がなんとか場を修めてくれたしな。ただローラがなかなか話しを進めようとしないから神裂が苦労してさ。」「あははっ!」PM8 40『ひたすら団欒』「そしたら会議中だってのにキャーリサが他ごとをしだして……」「ちょっと当麻……」「なんだ?」「さっきからなんで話に女の人しか出てこないのかしら?」「!?ぐ、偶然だ!偶然!!」「全く……当麻がそんなんだと私もどっか他の男のとこにいっちゃうわよ?」「み、美琴ー!!?嘘だろ!?」「ちょ、抱きしめる力強すぎ……(でもこれはこれでいいわね……)」PM9 00『デートの計画中』「じゃあ朝に映画行ってから遊園地に行くか?」「う~ん……それもいいけどこっちの『ネコランド』も捨てがたいわね…あ、水族館も……」「とりあえず映画は決定だよな?何見る?」「え~と……(恋愛系を見ていい雰囲気に……それともアクションを見て後から語りあったほうがいい……?いやいやそれともホラー系を観て当麻にしがみつくって手も……)」「……さっきからいろいろ悩みすぎだろ…」PM10 30『上条風呂へ』「じゃあ先に風呂もらうぞ。」「うん、ゆっくり入ってきてね!」美琴は上条が風呂に入って行くのを見届けるとすぐさまある行動にでる。そして……PM10 35『???』上条は風呂場でまず体を洗おうとしてした。すると……ガチャ…「はい?……え」「当麻~背中流してあげる!」なんと美琴が風呂場に入ってきた。それもバスタオル1枚で。「ちょ、おま、前も言ったけど一緒に入るのはダメだって!」そんなこと美琴は気にしない。持っていたスポンジを泡立て上条を洗う体制に入っている。「ほら観念しなさい!キスのお返しよ!!」そう言って美琴は上条の背中を洗い始めた。優しく丁寧に洗っていく。上条の警戒が少し解けたところで少しいじわるをする。「あ、前も洗ってあげよっか?」「!!?」上条は驚いた様子で美琴のほうを振り返った。だがその際に手が美琴のバスタオルに引っかかり……「「あ」」パサリ、とバスタオルは下に落ちた。が、「ま、こんなこともあろうかと思って水着着てたんだけどね。」確実にこういうことになると美琴はよんでいた。そして上条はほっとしたような残念なような顔をしていた。が、「っ!!?その水着なんだよ!!」「!!な、何って…ただの水着じゃないの。……怒ってる?」美琴の着ている水着に気づいたようだ。しかも何やら機嫌が悪くなっている。実はこの水着、昼間に買い物をしたとき見ていたあの水着だ。正直結構恥ずかしい。「お前……そんなもん外で着ていいと思ってんのか!?」「ッ!それなら大丈夫よ!当麻の前でしか着ないから♪」「………」上条は黙ってしまった。何か真剣に考えているようだ。PM10 50『2人でお風呂』「ん~気持ちいい~……」そんなこんなで結局上条と美琴は2人で一緒にお風呂に入っていた。お風呂の中でも美琴は上条の上に座っている。ちなみのこのお風呂、足を思いっきりのばすことができる大きさだ。「美琴……ちょっとくっつきすぎ…」「え~嫌なの~?さっきバスタオルが落ちた時は残念そうな顔してたのに~?」「うぇい!?し、紳士上条さんはそんなことありませんことよ!?」上条の焦っている反応がおもしろい。おもしろい上に心地いいので美琴はさらに上条にくっつく。背中を上条の前にぴったりくっつけ顔は上条の顔の横に。ちなみに今上条はタオルを腰にまいているだけ、美琴はビキニの水着だ。「み、みこ、みこ、美琴、いろいろまずい、まずいから!」まずいと言われればもっとしたくなる。調子に乗った美琴はさらに攻める。体を横にひねってから腕を上条の首にまわしさらにぴったりくっついた。これにより美琴の大きな胸が上条に当たる。(あ~いい気持ち、幸せ幸せ……)そしてとどめとばかり上条の頬にキスをした。朝のような口にキスは恥ずかしくても頬なら大丈夫だ。この一連の行動、美琴としては上条に甘えたい一心(+多少のいたずら心)からの行動だったが……「み、みこっ!………」「あ、あれ?当麻?」上条は動かなくなった。どうやらのぼせたようだ。いろんな意味で。PM11 00『お風呂の後の……』「ねぇ大丈夫?」「だ、大丈夫だ。多分……」美琴はのぼせた上条を膝枕してうちわであおいでいた。ちょっと悪いことをしたような気がする。「ごめんね……もうあんなことしないから……」美琴は少し涙目になった。と、いきなり上条がむくりと起き上がった。「え、もう大丈夫なの―――」「美琴、俺は大丈夫だからそんな悲しそうな顔するなよ。」上条は美琴を優しく抱きしめていた。「……うん…」「やっぱり美琴には笑顔が一番だしな、それと……」上条は一旦言葉を切り美琴から離れた。そしてそこそこ真剣な表情で「あの水着はまた着てください。」「それが目的か!!」PM11 30『就寝』「明日は久々のデートだし少し早いけど寝るか。」「うん、今日はいろいろあって疲れたし丁度いいわね。」そして2人は寝室へと向かう。着いた寝室には大きなダブルベッドが置かれている。「よっと。ほら」上条が先にベッドへあがり美琴を迎える。「おやすみ、当麻。」「おやすみ、美琴。」その言葉の後に軽くキスをしてから美琴は上条に寄り添い、上条は美琴を抱きしめる。。(明日も……今日みたいに幸せでありますように……)美琴はそう祈って上条の胸の中で眠りについた。これが今の御坂美琴の1日。それはとても、とても幸せな生活。御坂美琴は上条当麻と一緒にいれることによって通常の何倍にも幸せになれる。明日はデート、美琴の幸せな生活はまだまだ終わらない―――――
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/661.html
信じた先に・後日談 御坂美鈴は目を覚ました。 見慣れない天井。 見慣れない部屋。 寝慣れないベッド。「あー…昨日泊めてもらったんだっけ」 昨日4月1日に上条詩菜宅に夕飯を共にした。 しかしついつい酒が進み、そのまま寝てしまったらしい。 後で詩菜さんに謝らないとと思い携帯を探す。「えっと、あったあった。―――8時20分か」「もう詩菜さん起きてるわよね」 そう思いベッドからでる美鈴。 その時メールが一通受信してることに気付いた。「お? 誰からだろ…って美琴ちゃん?」 美鈴は美琴からのメールを開くと、ふふっと笑って携帯をポケットにしまい背伸びをしてその部屋を後にした。 台所に向かうとそこには料理している詩菜の姿があった。「あ、おはようございます。美鈴さん」「おはようございます。詩菜さん。すみません、リビングからの記憶が無くて…」「いいえ。やはりお布団の方が気持ちよく寝れるでしょう?」「おかげさまで頭以外なら痛くないです」「ふふふ。……? 美鈴さん? 何かいい事でもあったんですか?」「えぇ。 詩菜さん? どうやら私は恋のキューピットだったみたいですね♪」 Time 10/04/02 02 11 From 美琴ちゃん Sub------------------------------------ ありがとう4/2 AM8 47 上条当麻はカーテンから差し込む日の光で目を覚ます。 昨日はインデックスがいなかったため久しぶりのふかふかベットだ! …ったのだが、実のところあまり寝れていない。 家に帰ってきたのは深夜2時を回っていたし、何より寝る時に美琴が「今日は一緒に寝て!」とか言うもんだから。 美琴は上条に抱き枕のごとく抱きついて幸せそうに眠りに落ちた。 しかし、当の上条はそうも行かなく、 美琴の柔らかさと匂いにより目が冴えに冴えて日が昇ったくらいにやっと寝ることが出来た。 正確には睡魔で意識が飛んだと言った方が正しいのだが。 上条は眠そうに寝返りをうつ。 しかし、そこに美琴の姿はなく変わりに何か良い匂いがしてきた。「ん? あれ…み、こと?」 そこには可愛いエプロン(以前上条宅に料理をしに来た時に置いていった)姿の御坂美琴が楽しそうに料理をしている。 その後ろ姿はとても愛くるしく、その後姿だけで自分は幸せになってしまったのだと実感できるほどだ。 そしてそんな愛しの天使が上条の声に気付き、「あ。おはよう当麻。よく寝れた? もうすぐご飯できるから待っててね♪」 などど言うもんだから上条は、もうそれはそれは泣きそうな顔になったのと同時に前屈みになった。 そんな上条の姿に美琴は?の表情をしたが、 何かを思い出したように料理の手を休め上条のいるベッドへと小走りで近づいてきた。 そして、「忘れてた♪ 恋人の寝起きの特権――」「ん? ―――っん」 おはようのちゅうをされた。 美琴は頬を赤く染めて、えへへと笑いながら台所へ戻っていった。 その場に残された上条は、…その、もう、何か、ダメになった。 しばらくすると美琴が、出来たよーとお盆に乗せて朝食を持ってきた。 そこにあったのは上条では作れないようなこったメニューだった。「ぅお。なにこの食い物、あまり物でこんなの作ったのか?」「そうよ。勝手に使っちゃったけどいいわよね? 朝食分くらいしか冷蔵庫に入ってなかったし」「うぅ…。ありがとうございます、美琴様。こんな…こんな朝食は今まで見たことがないですよ」「ふふ。出来る女だと惚れ直した?」「もうぞっこんですよ、美琴様」「えへへー。じゃあさじゃあさ。撫でて撫でてー」「なでなで」「ふにゃー」「(超電磁砲ファンがみたら殺されるようなシチュだぜ…)」「じゃあ冷めないうちに食べよっか?」「おう。うんまそーだな、おい」「朝だから食べやすく味付けしたんだけど…はい、あーん♪」「じ~~~~~~ん…」「ど、どうしたのよ」「俺は今確信した。もしこの世界が小説や漫画の世界ならば主人公は俺だという事に」「そ、そうなんだ。ま、まぁとりあえず。どうぞ?」「あむ」ピピッ「「へ?――――」」 何か電子音がした。 2人は音のする方に視線だけ向けるとそこには、「つつつつつつつつつつつつつ土御門ッ!!???」「ままままままままままままま舞夏!!???」「おいっすカミやん! はいチーズ♪」「いい絵だぞーみさかー。笑って笑ってー」 デジカメとデジタルビデオカメラを持った土御門兄妹がいた。 どこから入ったのか部屋の隅に立っており、そのすぐ後に「とうまー。ただいまなんだ、よ…」「おはよう。この子送りに来、た…。」「上条ちゃーん?春休みは宿題がないからってだらけてないです、よ………ね?」「お姉さま! こんな時間までお戻りにならないと思ったらやはりここでし…た、か」 …と色々来た。 舞夏と黒子は美琴に 「いつから? なんで? どこまで?」「何故ですの? 黒子のどこがお気に召さなかったんですの?」などと詰め寄り、 上条はまずインデックスで数箇所噛み付かれ、 姫神と小萌に同時にげんこつをもらい、 床に倒れたところを土御門にボコボコに脚蹴りされた。 もちろんインデックスは上条を噛んだ後ちゃっかり美琴お手製の朝食をおいしく頂いた。 しかしこんな出来事は序章に過ぎない。 上条当麻と御坂美琴のドタバタラブコメディは始まったばかりなのだから―――
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1361.html
とある妹達編の後日談(アナザーストーリー) 1 絶対能力進化-学園都市において表にされることなく秘密裏に行われ、一人の少女を絶望の淵に追い込んだその実験は、8月21日夜に行われた実験-絶対能力進化第10032次実験、被験者・一方通行、戦闘相手・ミサカ10032号、実験条件・反射を適用できない戦闘における対処法-の最中に第三者の予期せぬ介入により失敗に終わり、計画自体が中止される事となった。この実験を中止に追いやったとも言える第三者-上条当麻-は戦いの直後に気絶したまま、第七学区にあるとある病院へと運ばれ、冥土返しの治療を受けた。冥土返しの治療は的確で、上条当麻はいたって健康な状態…になったはずであった。しかし、見舞いに訪る人間も当初は数多くいたが、個室のドアが開くたびに、皆同じように暗い表情を浮かべるしかなく、徐々にその数も減っていった。一歩外に出れば、大覇星祭や一旦覧祭、クリスマスや正月といったイベントが行われたにも関わらず、である。なぜなら、上条当麻の姿はこの病院に搬送されたその日、その時から病室以外で見ることはなく、その声も聞く事もない。-上条当麻は、まるで毒林檎を食べた白雪姫の様に、眠りについたまま目を覚ましていないのだ- ☆キーンコーンカーンコーン「起立、礼、着席」ガラガラと椅子が動く音が聞こえ、建物一体に女性特有の甲高い、かしましい会話が聞こえはじめた。ここは第七学区の一角、学舎の園内にある常盤台中学。その2年生の教室である。もうすぐ3年生が卒業し、新しい一歩を踏み出そうとしている時期でもあり、彼女達を送り、新しく自分達が最上級生になるための準備が着々と進められていた。そんな周囲の喧騒をよそに、今日も一人の少女が足早に教室を後にした。そのこと自体は今に始まった事ではなく、もう半年近くも続いている事なのだ。「御坂様…今日もお早いご帰宅ですね」「また本日も病院の方へ行かれるのでしょうか?」「2学期からでしたか…御坂様を街中で見かけることがなくなったのは」「一体どうされたのでしょうか…こうも毎日毎日ですと、流石に心配ですわ」足早に教室を去った少女-御坂美琴-は、今日も今日とてとある病院へと足を向けるのだろう。美琴が足早に教室を去るようになったこと、そのことに最初に気づいたのは誰だったであろうか…。常盤台外部学生寮への帰宅時刻が毎日ほぼ同じで、そこから逆算すると病院の面会終了時間とピッタリと一致するということを見つけたのは誰だっただろうか…。盛夏祭から夏休み終了までの間に美琴に何やら重大な出来事が起きたということは誰の目にも明らかなのだが、その理由は誰も掴めないし、美琴も喋ろうとしない。ポルダーガイスト事件で、仲間で協力することの大切さについては知ってはいたし、実際話せば手伝ってくれるであろう友達は少なからず居た。しかし、美琴は上条がこうなってしまった理由も含め、「あの実験」については誰かに話すつもりは毛頭ない。あまりにも強烈で、過酷で、凄惨で、そして何よりも学園都市を敵に回すかもしれないというその内容は、俄かには信じがたい出来事であるし、他人に預けるにはあまりにも重過ぎるのだ。-あの実験は、永遠に私(とアイツ)の中にしかいちゃいけないのよ-美琴は、いつの間にかそう考えるようになっていた。だからこそ、感付いていたかもしれないが、それでも何も聞かずに、何も言わずに、以前と変わらぬように接してくれる友達の存在が有り難かった。そして、以前と同じように対等な立場で接しようとしない常盤台の生徒にも救われていたのかもしれない。-対等な立場で接されると、アイツを思い出してしまうかもしれない-そういう考えを、美琴自身全く持っていないというわけではなかったのだから…。美琴が病院に通うようになってからしばらくしたある日、いつものように足早に学校を去る美琴を見て、誰かがこう言った。「御坂様に何が起こっているのか私達には知る由もありませんが、また御坂様がお元気に学校に来られるお姿を、街中を闊歩される姿を見たいものですわ…。時間が解決してくれれば、それで良いのかもしれませんし…。とにかく、今の御坂様は見るに耐えられません…」その言葉にその場にいた誰もが首を縦に振った。そして誰もが、御坂美琴という少女に平穏が戻ることを願った。しかし、その思いに神が応えることはなく、時だけは無常にも流れすぎていった…。コンコンキイッ…ガチャ……ピッ…ピッ…ピッ…ここは、第七学区にあるとある病院の一室。半年もの間、上条当麻がこの個室のベッドの上で、規則正しい呼吸をし、平日の夕方と休日の面会時間の間だけ、御坂美琴の話し声が聞こえるだけの、物寂しい病室である。「今日、久しぶりにシステムスキャンがあったのよね」「黒子には大能力者の中でも上位になれば一日くらい付き合ってあげるって言ってあったんだけど、結果が良くなかったみたいでへこんでたわ」今日も、御坂美琴の声だけが病室の壁に反射し、虚しく虚空に消えていく。話の内容自体は何も分からなくても面白く感じるように仕立ててあり、それを伝える顔には笑顔が見えている。しかし、彼女の本当を知っている人間から見れば、その笑顔はまやかしのものであるのは一目瞭然で、痛々しさが伝わってくる物であった。「私もね、一応システムスキャンはしたの。でも、本気を出しちゃうとまずいから、やっぱり手加減しなくちゃいけなくて…」そこまで言うと、美琴は言葉を詰まらせ、視線は徐々に下がりその表情は徐々に曇っていった。幾ばくかの後、それまでからは考えられないほどの弱弱しい声で、頬を伝う涙を拭おうともせずに、美琴は言葉を紡いだ。「…もう、あれから半年経つんだよね…私、半年も…本気出して…無いんだな…って…」-病室に備え付けられているデジタル時計は、今日が2月21日であるという事を示していた-時をさかのぼる事半年、絶対能力進化実験の悪夢が終わってから数日たったある日。第七学区のとある病院では、カエル顔の医者が美琴に事の推移を説明していた。あの実験で殺されるはずだった妹達が全員確保され、10名前後が学園都市に残り、他の妹達は世界各地に送られ、平和利用に用いられるという事。実験に参加していた研究所や研究員は学園都市の直轄となり、元々実験そのものが無かったかのように扱われていくだろうとの事。美琴にとって、それは吉報以外の何物でもなかった。美琴は、事が良い方向に進むのを理解し、自然と顔を綻ぶのを抑えながら、上条の眠る病室に足を進めていた。しかし、万事が吉報だとは限らないのかなとも美琴は思う。人間、死んだように眠る事はあっても、こう何日も目を覚まさないというのは果たしてどうなのだろうかと。上条の眠る病室に入ると、美琴は部屋においてある花瓶の花を入れ替えたりしながら、上条の様子を伺っていたのだが、上条に変化は見られなかった。「全く…私だって暇じゃないんだからね…早く起きなさいよ、馬鹿」時折上条に向けて悪態をついたりして、美琴は素直になれない自分の嫌気がさし、上条が目を覚ました時には素直になって、真っ直ぐな自分の気持ちを伝えようと思った。そして、その手始めとして、上条が目を覚ました暁には、まず最初に、私を、妹達を助けてくれてありがとうと言おう、と。「でも、その前に」と思いながら、美琴は上条の顔を見て、そのまま視線を唇に落とした。暫しの静寂の後、周囲に誰も居ないことを確認して、「これは、ただのお礼だから…」と、美琴は上条の顔に自分の顔を近づけた。もう少しで、美琴と上条の距離は0になるはずだった。その時、病室のドアが開き、誰かが入ってきた。入ってきた人間、それはこの病院の中でもトップの腕を誇るカエル顔の医者-人は彼を冥土帰しと呼ぶ-だった。美琴はこれでもかと言わんばかりに顔を赤くし、わたわたと慌てふためいた様子を見せた。カエル顔の医者は上条と美琴を一瞥して、何やら物言いたげな顔を一瞬だけ見せた後、少々真面目な顔をして、「まだ居てくれたか。ちょっと大事な話があるんだけれども、時間はあるかね?」と切り出した。「残念ながら、彼は…ここに運ばれてから目を覚ました事が無いんだ」その一言目は、美琴を浸りかけていた甘い夢から現実に引き戻すのに十分すぎる説得力を秘めていた。そんな美琴の動揺をさらに増幅させるかのように、カエル顔の医者は話を続けた。一つ、上条当麻に目立った外傷及び致命的な内臓の負傷は見受けられないということ。二つ、呼吸は安定しており、刺激に対しても反応が見られ、脳波にも異常が感知されないということ。三つ、意識だけが戻っておらず、いつ意識を取り戻すのか、いつ目を覚ますのかだけが分からないということ。美琴は、口を開く事はおろか、手の指一本動かす事ができなかった。顔は表情を失い、瞬く間に青ざめ、焦点の合わない虚ろな目で、まるで自分だけが時間に取り残されたかのような状態に陥っていた。ミサカ9982号を失った時、20日に上条とあった公園で妹達から実験が終わってない事を聞かされた時、原子崩しや一方通行と対峙した時、それら以上の衝撃を、美琴は受けていた。上条がどう思ったとしても、上条をこのような状態にしたのは自分自身なのだ、自分のせいで上条が二度と目覚めない可能性があるのだ、いくら甘い妄想に浸れても、現実はそう甘くはないのだと美琴はほんの少し前まで舞い上がっていた自分自身を責めた。結果として、美琴の精神状態は21日に鉄橋の上で上条と会ったときと同等かそれ以上の絶望でもって、周囲の力ではどうしようもない程の無力感に包まれていた。おもむろにイスから立ち上がろうとするのだが、足に力が上手く入らずに踏ん張れず、そのまま上条の眠るベッドの方へよろけてしまう。意識は今にも飛びそうで、そもそもそんなものは存在しないのだと言わんばかりの勢いで心の平静は崩れていき、美琴は昏倒寸前の非常に危険な状態に陥っていた。美琴は傍から見ても危険な状態に陥っていた。普段であればただの笑い話で済むかもしれないが、今日に限っては何があってもおかしくなかった。外に出れば常盤台の制服を着た不審者扱いは間違い無し、一歩間違えば周辺が大惨事になる可能性が捨てきれないほどの状態は到底放っておけるような状態ではなかった。カエル顔の医者は一度美琴をイスに座らせ、気持ちを落ち着かせながら、何処でその情報を知ったのか、美琴の住んでいる常盤台外部寮へと電話を入れた。『超電磁砲を猛烈に慕う空間移動』を呼ぶために。美琴の日常が完膚なきまでに叩きのめされた、その事実を寮長に伝えるために。「お姉様…どうされたのでしょうか?」白井黒子は過去最大級とも言える疑念だけをもって、寮長から指定された第七学区のとある病院、その一室へ向けて自身の持つ能力をフル活用していた。待機任務とは言え、風紀委員の仕事中ではあったのだが、寮長から直々のお達しであること、非常事態であることなどから特別に任務として動いて良いという事になったのだ。-空間移動-大能力者である彼女の能力をもってすれば、瞬時に短距離の移動が可能となる。もちろん、連続で使ったりするとそれだけ能力の精度が落ちるわけだが、こと『お姉さま』が絡むと黒子の能力が疲れを知ることは無いといっても過言ではない。黒子にとって、お姉さま、つまり御坂美琴その人は、それだけ大切で、かけがえなくて、常に慕っている、自分の理想そのものなのだ。『御坂美琴が精神的に動揺している状態にある。至急第七学区のとある病院の指定された病室まで行き、彼女を誰の目にも認めさせる事なく常盤台寮の自室まで連れてくること。寮内での能力使用は原則として禁止だが、今回についてのみ寮の出入りでの能力の使用を特別に許可する』寮長から黒子に来た指示は簡単に纏めると、こういうことになる。黒子にとっては、美琴が非常事態に陥っているというのがそもそも考えられないのだが、美琴が誰の目にも見せてはいけないほどの状態である、そして搬送では特別に寮内での能力使用を許可するということ、それを伝える寮長の様子が明らかに常軌を逸しており、事の重大性を薄っすらとではあるが黒子へと伝えていた。それでもまだ、この時の黒子は事態を深刻な方向で捉えてはいなかった。確かに一大事ではあるが、すぐに何とかなるだろう…と、そう考えていたのだ。この時、黒子は失念していた。つい2,3日前まで、美琴に元気がなかったことを。元気を取り戻した後の美琴は、何か吹っ切れたような表情を見せていたことを。「お姉様…お迎えに…!?」病院内の指定された場所に到着した黒子を待っていたのは、体中から微弱な電磁波が漏れ出し、焦点を合わせることも忘れ、顔面は蒼白で表情も無く、全身からは生気でさえも失ってしまった廃人同然の美琴の姿だった。黒子にとって、その姿はあまりにも衝撃的だった。幻想触手事件で(間接的にではあるが)友人を追い詰めた時の姿も、乱雑開放事件で敵の襲撃に逢い(周りの存在に縋る余裕も無いほど)精神的に追い詰められた時の姿も、見たはずだった。でも、それらの時とは、美琴の様子があまりにも違いすぎた。黒子は、ただただ呆然と、指一本動かす事も出来ずに、真っ白で思考が纏まらない頭でもって、美琴の身に何があったのかを考える他なかった。外傷は見当たらない。着衣の乱れも見当たらない。内臓器官に異常があるというわけでも無さそうだ。では、最愛のお姉様に一体何が?纏まらない頭で考え続ける黒子に、そのヒントは思わぬところから現れた。「彼女がどうしてこうなったか…気になるかね?」黒子は、話しかけてきたカエル顔の医者に誘われるがままに、彼の診察室と思しき所へ入っていった。向かう途中、彼が話した内容は、美琴はここ数日間とある事情から病院に通い続けている、という事だった。黒子はカエル顔の医者と会話をしながら、その内容から更に日を遡った時のことを思い出しつつあった。美琴の生活はどうだっただろうか?美琴はおかしな行動をしていなかっただろうか?そして、美琴はその時どんな顔をしていただろうか?カエル顔の医者は、診察室に黒子を招きいれる際、彼女の顔色の変化に気付いていた。先ほどの美琴までとはいかないものの、それでも最初に見たときとは様子が異なっていた。連れてくる時には難しい顔をしていたのに、今となってはもう真っ青な顔で、何か取り返しの付かない事をしてしまったとでも言わんばかりであった。カエル顔の医者から話された内容は黒子にとって衝撃的だった。あくまでも僕が聞いた範囲内で話をするとの前置きがあった上で聞かされたものだったが、それでも、途中で耳を覆いたくなるような強烈な話だった。曰く、美琴に関連して、壮絶で、過酷で、陰鬱な出来事が起こっていたこと。曰く、美琴は、肉体的にも精神的にも追い詰められ、打ちひしがれ、絶望感で胸が一杯になり、死をも覚悟したこと。曰く、誰にも悟られないように隠し続けていたのに、ある一人の人間にそれを知られ、その人がその難事件を解決、美琴を救ったこと。曰く、そんな命の恩人が、その事件の解決を最後に倒れ、未だに意識を戻す気配すら無いということ。途中までの話は、黒子にも心当たりがあった。夜な夜な寮を抜け出す姿を薄目に見かけたのは一度や二度ではないし、ここ二週間ほどの美琴の様子は、共通の友人である佐天涙子や初春飾利でさえも薄々感付けるほどおかしかった。しかしそれも、ほんの数日前には元に戻ったように見えた…はずだったし、復調してきた美琴を見て、佐天や初春とも喜んでいたのだ。それがどうだろう。実際には美琴の悩みは解決するどころか更に泥沼に嵌っていき、答えの見えない迷宮の中へと入ってしまったのだ。或いは、一旦は迷宮を抜け出したのにも関わらず、その手助けをした道案内人が居なくなって、それ以上の深みに嵌ってしまったと考えても良い。その事実は、黒子でさえも立ち直るのに相当の時間を要した。病院に来た時にはまだ陽が高かったのに、空間移動に必要な演算が出来るようになったときには既に暮れかけていたのだから、その動揺は計り知れないものだった。ならば、と黒子は思う。自分でもこれだけの衝撃を受けたのだ。美琴の受けた衝撃はこんなものではないだろう。度重なる絶望の淵から、幾多の困難を乗り越えてきた美琴をも飲み込むほどの泥沼から引きずり出した、そんな命の恩人なのだ。もしかしたら、今の美琴は自分だけの現実を構築できないのかもしれないのだ。救いようのないほどの悲惨な現実は、時として残酷な運命しか指し示す事が出来ないのだ。その前に、一つだけ確認しておかなければならない事があった。美琴を助けた人物、その人。数日前、美琴がとある公園のベンチに居たのを、黒子は知っている。あの時美琴の傍に居た、翌日には常盤台の寮まで乗り込んできたとある殿方、その人でないことを黒子は願うほか無かった。少なくとも自分の知る限りにおいて、美琴とあそこまで接触できる殿方は彼しか居ないのだ。しかし、現実は、想像以上に残酷だった。その名前と、医者に見せられた昏睡状態のその人間の写真。それらが指し示す人物は、あの時の殿方-上条当麻-その人だったのだから。「それでは、失礼します、ですの」黒子は一人、病院を後にした。向かう先は寮ではなく、風紀委員第一七七支部である。本来の任務では美琴を連れて帰らなければならないのだが、ショックが大きく未だ能力制御の効かない美琴を寮まで連れて帰る余裕は今の黒子には無かった。そのため、美琴が漏電している事を理由にして、寮監に連絡後、風紀委員の仕事に戻る事を選んだ。ただでさえ自身にも少なからずショックはある。これだけなら演算に支障が出ることはあまり無いが、美琴の漏電次第では大惨事につながりかねない。一晩経っても漏電が収まらなければ別だが、その時はその時、まずは様子を見なければとの思いが強かった。また、同じ様に美琴を心配していた初春や佐天にもこの事を伝えておきたい。三人揃えば文殊の知恵ではないが、今の自分達が美琴に出来る事は何なのか、それを考える時間が欲しいと心の底で考えていたことも、その一因であるのだが。暫くして、風紀委員第一七七支部。任務中に一休みを貰う事の出来た初春飾利とたまたま遊びに来ていた佐天涙子は、病院から戻ってきた白井黒子から聞かされた事実を、ただ呆然と聞く事しか出来なかった。ショックの大きさは黒子のソレと何ら変わりなく、ただ違う事があるとするならば、一歩退いた目線で見ることが出来た、ということだけだろうか。だからこそ、自分がその身になった時にどう接して欲しいのか。二人にはそれを考える余裕が僅かではあるがあったのが幸いだった。時として、親切が凶器になる場合もあるのだということを、彼女達は知っていた。甘い誘惑に頼り、一時の慰めに縋り、自分の望んだ結末だけを信じさせる事で深い傷を背負う可能性があることを、彼女達は知っていた。ほとぼりが冷めるまで、美琴を一人にさせてあげよう。少し落ち着いて、それでも苦しんでいたら、いつもの様に、何も知らないフリをしていよう。それが、三人で話し合った結論だった。それ以上に、自分がその立場なら声をかけられることを望むだろうか、ということも一つの要因となった。いくら、困難な問題は仲間で力を合わせて解決すべき、が心情であったとしても、今回はあまりにも状況が状況で、きっと自分達がどれだけ言葉を贈り、態度を示したとしても、それはきっと無用の産物であって、きっと何の慰めにもならないだろう。それならいっそ、何も知らなかったさまを装い、あくまでも「御坂美琴の友達」として接していこう。例え理解ある友人であったとしても、人には詮索してはいけない領域がある。その事を彼女達は身をもって知っていた。その奥には、美琴にかける言葉が見つからない、という意味が含まれているのだが、それは決して表に出さないし、出してはいけない。今後どうなるにせよ、変に美琴に気を遣わせてはいけないのだ。だからこそ、彼女達にとっても辛く、苦しいであろう選択をしなければならなかった。気分転換に、と先輩の固法美偉がやってきて、近くの窓を開けた。空はもう闇に包まれていて、丁度のタイミングで数多の流れ星が学園都市の漆黒の空に流れた。彼女達は願う。御坂美琴の命の恩人が無事に意識を取り戻す事を。御坂美琴の一転の曇りの無い笑顔がまた見れることを。御坂美琴の迷いの感じられない元気な姿が学園都市で再び見られることを。そして何より、御坂美琴が平穏な生活を取り戻すことが出来ることを。 とある妹達編の後日談(アナザーストーリー) 2 「…う、ん…?…こ、ここ、は…?」御坂美琴は、病院のとある一室、そのソファーで目を覚ました。辺りは暗く、どうやらその病室にある時計を見る限りでは、深夜三時頃のようだ。ふと、美琴は周囲を見渡した。「…あっ…」元からあったであろうベッドの上に、とある少年が寝ていた。その姿を見た瞬間、美琴は何があったのかを瞬時に思い出した。あの浮かれていた瞬間から、突き落とされた奈落の底。思い出したくもない、その理由と原因。そして何故、自分が今こんなところで寝ていたのか。「…アハハ…柄にも…無い…コト…しちゃった…な…」それは、誰に、何に、向けた物だったのか。確固とした自分だけの現実を持ちながら、能力の制御を自分の意思で出来なかった事なのか。自分を尊敬し、慕い、気持ち悪いほどの愛を投げかけてくる後輩に晒してしまった醜態に関してなのか。それとも、自分の中ですら認めていない感情に、気づきたく無い感情に気付かされつつあるが故なのか。呟いた美琴にでさえ、その答えとなる道筋は見えていない。少し頭を落ち着かせてから、美琴は上条の前へと足を運んだ。その顔は本当にただ寝ているだけの様に見えて、昏睡状態であるという事実がウソであるかのようだった。「ん…」なんとなく、美琴は頭を撫でようとした。…したが、手はピクリとも動かなかった。「…どう…して…?…」あの日、あの時、あの場所でやったように、自分の膝に上条の頭を乗せ、その頭をゆっくりと撫で、涙の一つでも流せれば目は覚めるかもしれない。そんな悠長な事を考えたのが拙かったのか、それとも、自分が上条を今の状態に追いやったという罪悪感でも心のどこかにあるのか。とにかく、美琴の手は動かなかった。「…うご…いて…動いて…動いてよ…!」幾ら念じても、どれだけ声に出そうと、嗚咽が混じった涙声で言っても、何も変わりはしなかった。美琴の手は動かない。上条の目も開かない。その、届きそうで届かない、一メートルにも満たない空間が、まるで何十キロとある途方も無く長くて大きな壁の様に思えてきて、美琴はその場に泣き崩れるしかなかった。美琴の中の悪魔が囁く。「妹達を10031人も殺して、つい二、三ヶ月前まで全く見ず知らずだった男までも昏睡状態にして…。もう君は人を幸せにする、人と幸せになるなんてことは出来ないんだ」次に美琴が落ち着くことが出来た時、空はすでに明るくなっていた。美琴は泣き腫らした顔を洗おうと思い、一旦病室を出ようとした。そのとき、パタパタパタと足音が聞こえてきたかと思うと、次いでドンと、病室のドアを開ける音がした。「とうま、またせすぎなんだよ!いつになったらかえってくるの!?」美琴は目を見開いた。いきなり入ってきたのは銀髪でシスターの格好をした少女。上条のことを「とうま」と呼び、会話の端々にはなにやら只ならぬ台詞も聞こえる。「えっと…その…」「!?」美琴の声で、ようやくシスターの格好をした少女は病室に美琴が居た事に気付いたらしい。しかし、それは関係ないと言わんばかりに、少女は上条の頭に噛み付いていた。それでも、上条は目を覚まさない。それどころか、まるで死んだかのように、ピクリとも動かない。「…とう…ま…?」ようやく少女も異変に気付いたのか、上条を見る瞳が不安を映し出していた。その流れを静観しようと決めていた美琴だったが、その意に反して、口は言葉を紡いでいく。「この人はね…ここに入院してから、目を覚ましてないの。そして、これからも…」美琴の口から発せられた言葉は、冷たくて、そして重かった。「そんなことはありえないんだよ!とうまはとうまなんだよ!だから…!」少女の言葉に、美琴の頭は理解をしようとする。けれど、口は黙っていなかった。「やめて」という心の叫びも虚しく、美琴の口は淡々と、己の心にも刻み付けるように、言葉を連ねていく。「この人があなたにとってどんな存在だったかなんて知らない。けど、そんなことは知った事じゃない。ここにある事実は一つだけ。上条当麻というこの男は原因不明のまま、何時目覚めるかも分からない夢の世界に居る。もしかしたら、このまま死ぬまで一生このままかもしれないわね」締めにはアハハ…と乾ききった笑いまでつけて、美琴の口はまるで鋭いナイフのような切れ味で、その場に居る少女二人の言葉に刃を突き立てる。美琴自身、制御できない感情に振り回され、自分ではどうする事も出来ない状態になっていた。「!?」異常事態を察知したのか、それとも耐え切れなくなったのか。シスターの格好をした少女が病室を飛び出した。その場に残された常盤台の制服を着た少女は、ただ呆然と立ち尽くしていた。戻りかけていた表情はその色を再び無くし、色の灯っていたその瞳はただただ濁り…。その目に宿っていたはずの光は、跡形も無く消え去っていた。「…というわけなんだよ!だから…」「なるほどね。魔術、というのは良く分からないけれど、言いたい事は分かったよ」「…!」「でもね、君が思っている以上に彼の容態は深刻だし、学園都市では魔術はあり得ないものだとされている。僕だって実際に見たわけではないからね。君が彼とどういう関係かは分からないが、今の彼には付ける薬は何も無いんだ。それが事実だということは分かって欲しいね」冥土返しは落ち着いて、シスター姿の少女の話を聞き、そして少女を落ち着いて行動させるべく、言葉を選びながら会話をした。彼女の言い分によると、彼-上条当麻-の昏睡状態の理由はこうだ。3週間ほど前に彼が担ぎこまれてきたとき、彼は記憶喪失に陥った。どうやら、その前後で竜王の殺息と呼ばれるものの光の羽が頭部に入り込んだことがあり、その際に羽の一部が幻想殺しの消す力で包み込まれていたらしい。この時、体内での幻想殺しの力と羽根の一部の力が均等化され、羽は消滅せずに幻想殺しでコーティングされる感じになっており、この前までは頭の中に異物がある状態だった、というのだ。つい先日までは脳への障害がない位置にあったそれが、先日の戦闘で移動してしまい脳への障害となり、昏睡状態になった、と少女は考えているようだ。確かに、最初に少年を診た段階では外傷も多くあったし、軽い脳震盪を起こしていた形跡もあった。また、感電でもしたのか、脳に多少電撃が流れていた影響が見受けられた。そういう解釈になっても不自然ではない。この調子なら、原因は後ででも調べていけば分かるかもしれないなと、冥土返しは思った。しかし、今はそれよりも成すべきことがあった。それは、医者にとって最も大事な事で、何よりも最優先でやらなければいけないこと。「それで、君は彼を治す方法を知っているのかい?」「ううん。私の知ってる情報の中には解決策は無いよ。魔術で羽のみを消すことは出来るけど、当麻の場合は幻想殺しが邪魔で不可能だし、仮に幻想殺しを無効化できたとしても、今度は羽が活発化して脳を攻撃してしまって今より悪い状態になるかもしれないし、一歩間違えたらとうまは死んじゃうかも」「つまり、幻想殺しと羽を消す作業を同時にしなければいけない、と?」「そういうことなんだよ」冥土返しは考える。もしその話が本当だとするのならば、少なくとも現時点では上条当麻が目覚める可能性は限りなく0に近い。それに、今も居るであろう常盤台の少女。彼女にこんな話をしても、恐らく彼女は受け入れないだろう。それどころか、話す内容を間違えれば、彼女の方も危ないかもしれない。ハッキリとした自分だけの現実を持つ彼女があそこまで取り乱している。その事が上層部に知れてしまえば、彼女に影響が及ぶ可能性だって捨てきれない。ならば、自分が一つ一つ解決の道筋を見つけていかなければならないだろう。まずは目の前の少女に事実を伝える。次に病室に居るであろう常盤台の少女に可能性を伝える。その上で、二人に選択をさせるのだ。彼女達自身の、身の振り方を。「えっと、インデックス…と言ったかね?」「…?…そうだけど…」「彼…上条君は、二度と目覚めないかもしれない」「…!」「自分でも薄々気付いているんだろう?先ほど君のしてくれた話には治療となるヒントがあったかもしれない。けれど、そういう意味なのだと捉えることもできるからね」「…じゃ、じゃあ…」「君と彼の関係は知らないけれど、君は彼から距離を置くべきだと思うね。僕が見る限り、彼は他人のために自分が傷つくことがあっても、自分のために他人が傷つくことは許さないタイプだ。今の君を彼が見たら、きっと悲しむだろうね」「…そう…だよね…とうまはとうまだよね…」「そう。彼は彼、君は君、だ」「…ありがとう。私、イギリスに帰ることにするんだよ。今は当麻が保護者代わりなんだけど、この状態じゃどうなるか分からないし、私が来てから当麻は入院ばかりで…イギリスに帰って、当麻の回復を祈るんだよ。そして、当麻の幸せを祈るんだよ」「そうか…」「そうと決めたらすぐに動くんだよ。お医者さん、ありがとうなんだよ!」少女は、嵐の様にやってきて、嵐の様に去っていった。冥土返しは、少女の微かに潤む瞳に、それをねじ伏せた感情の強さ、シスターとしての誇りに、少女に幸あらん事を願わずに入られなかった。それから少し時が流れ、上条当麻の寝ているベッドの横では、冥土返しから美琴に先ほどのやり取りの一部始終が伝えられていた。記憶喪失の件、魔術の件、脳に見られた電撃の痕。この三つを隠して話そうとすると一気に難易度が上がる難しい話ではあったが、それでも冥土返しは話を一つのストーリーに組み立てた。結局の所、状況は違えど脳障害に陥りかけていた事は事実で、先日の戦闘の影響が少なからずあった、という話にしか持っていけなかったのは、流石の冥土返しでもどうすることも出来なかったのだが。やはり、というべきだろうか。美琴の様子は人の話を聞いているようには見られなかった。容態は昨日と比べて変わっておらず、むしろ悪化している印象を受ける。生気をなくしたその姿は、話をするにつれてなお元気をなくし、最早なんの慰めも効かないようにみえた。冥土返しは、一通り話したいことを話し終わると、美琴を病室の外へと出した。もしかしたら、外に出て何か変わるかもしれない。変わらなかったとしても、自分の心ともう一回向き合って欲しい。恐らく、この少女が少年に対して持っている感情は、自分自身でしか見つけられないものだから。このまま少年を見て、どれだけ負の感情を溜め込んだとしても、それは泥沼に歩を進めていく自殺志願兵そのものなのだ。嵌ったドツボからの抜け道が何処にあるのかさえ分からないけれど、その抜け道への道しるべを示すのもまた、医者の仕事だ。そう、自分に言い聞かせて。美琴を病室から出した冥土返しは、一人そのまま庭へと出た。空は青く、澄み切っている。「そういえば、今日はあの子の検診日だったね…もしかしたら、彼女を外に出したのは失敗だったかな?」もう検診が終わっていて、友達と仲良く遊びにでも行っていればただの杞憂なのだが…、と冥土返しは呟くと、その歩を病院内へと進めた。まだお昼にもなっていない。既にいろんな事が起こっていたが、本来の医者としての仕事は、まだまだ始まったばかりなのだ。★ ☆ ★ ☆ ★初春飾利と佐天涙子は定期健診に訪れたとある共通の友人を迎えにいくために、第七学区のとある病院、そのロビーに居た。「しかし、お見舞いでも何でもないのに病院に行くなんて何だか不思議だね、初春」「そう…ですかね?確かにそういったことってあまり無いですけれど…。あ、春上さーん!」友人の名は春上衿衣。乱雑開放事件の鍵となった異能力者である。「ごめんなの。絆理ちゃんとお話してたら夢中になっちゃって…」「ううん、全然オッケーだよ。友達は大事にしなきゃ、ね!そう思うでしょ、初…は…る…?」そう言いながら佐天が初春の方を見ると、初春がどこか一点に視点を集中させたまま、身動き一つ取れなくなっている事に気付いた。いや、正確には初春の両手が、佐天の腕に縋るような形になるように、僅かではあるが動いていたのだが。佐天は何事かと思いながら、初春が凝視している方向を見た。そこには、御坂美琴が居た。髪はほつれ、全身の締まりが一切無く、その視線は虚ろで何かが見えているのかさえ分からないような、憔悴しきった、感情の「か」の字すら忘れてしまったかのような痛々しい姿。詳細を知らない人から見れば、武装無能力集団に襲われ、心に深い傷を負ってしまった、と取られてもおかしく無いようなその姿。その様子は、精神的なショックが今でも抜け切れていないことをはっきりと写し出していた。佐天は、無意識の内に目線をそこから外していたことも分からないほどに、衝撃を受けていた。昨日の黒子の話である程度耐性は付けていたはずだったのに、いざその姿を見たとき、見るに耐えられなくなってしまったのだ。ならば、昨日、黒子が見たという美琴の状態は、最早想像に難くなかった。一晩経ってもこの状態なのだ。暫く復活には時間がかかるだろうし、今後の事の運びによっては二度と元には戻らないのかもしれない。そんな最悪の想像をしながら、ショックで言葉すら発する事の出来ない初春と、自身の能力で異常を察知し不安げな目線でこちらを見てくる春上の二人を引き連れ、佐天は病院を後にした。とにかく、今はこの場から離れて、落ち着ける場所へ行こう。白井さんには後で連絡を入れて、電流が漏れている様子が無かった事だけでも伝えよう。春上さんには掻い摘んで事情を説明して、なるべく平静を装うようにしよう。そして、先ほどの最悪の想像を、初春に伝えよう、と。『もしもし、白井ですの』「あ、白井さん、私です。佐天です」『あら、佐天さん、どうかされましたか?』「実は…さっき春上さんを迎えに初春と第七学区の病院に行ったのですが…」『もしかして…お姉さまを…?』「はい。…漏電?ですかね…それは無さそうだったのですが…」『根本的な状態は変わってない、と』「はい。昨日を見て無いので何とも言えないですけど、あれはちょっと…」『…初春は?』「ショックで言葉も出ないみたいです。さっきからずっと私の腕に縋ってて…」『…でしょうね。お姉さまを知ってる人間からすると、あんなお姿は誰も見た事が無いはずですし』「ですね。私も、自分が思っていた以上に御坂さんが憔悴していて、ショックです」『…お二人の気持ちは痛いほど分かりますわ…それで…?』「ああ、すいません。連絡と確認があって…」『連絡の方は言われなくても了解ですの。私も今日は落ち着いていますし、お姉さまを寮までお連れしますわ。それで、確認とは?』「実は、私と初春の様子から、春上さんが何かを感じ取っちゃったみたいで…」『そういえば、春上さんは精神感応でしたわね…』「はい。それで、大雑把にでも私と初春に何が起こっているのか、話をしたいと思うのですが…」『構いませんわよ。精神感応で繋がっている枝先さん…でしたわね?彼女までの口外秘と言うことであれば』「すみません。そこら辺は重々伝えておきますし、なるべくその話をしないように出来ればとは思ってますし」『それなら何の問題も無いですわ。佐天さん。初春をよろしくお願いします、ですわ』「オッケーです。白井さん」ピッと携帯の通話が切れる音がして、佐天は携帯を耳から離し、大きく息を吐きながら、青く澄んだ空を見上げた。結局、静かで落ち着けそうな場所、として佐天がチョイスしたのは第七学区内にある小さな公園だった。そこにある木製の長イスに、彼女を中心として、右に春上、左に初春が座る形をとっている。「次は…っと」と言いながら、佐天はおもむろに春上のほうを向き、笑みを作って、「枝先さんと私達、四人だけの秘密だよ?」と優しく語り掛けてから、更に空に一息吐き出してから、ゆっくりと喋りだした。「春上さんは、御坂さんは…知ってるよね」「実は、ね…御坂さんがちょっと大変な事に巻き込まれちゃったみたいなんだ…」「みたい…っていうのは、私も何があったかまでは分からないからなんだけど…」「とにかく、御坂さんは、心も体もボロボロになってるみたいなんだ…」「だから…私と初春、それに白井さんは…ちょっと距離を置いてみようって決めたの…」「私達じゃ…ボロボロの御坂さんを…どうすることも…出来ないから…」「…私達じゃ…本当の意味で…御坂さんを救うことは…出来ないから…」そこまで言って、佐天は視線を定める事が出来なくなった。自分でもどうする事も出来ないほどに、涙がとめどなく、溢れ出てきたのだ。あの美琴の姿を見たとき、本能的に悟ってしまった美琴の感情。それは、本当に自分の大切な人が居なくなりそうな時の、悲愴感。それは、自分では何もする事が出来ない、無力感。それは、自分の望みが、思いが断たれたときに感じる、絶望感。苦しみが、悲しみが痛いほどに伝わったあの姿は、思い出すだけでも耐え切れないものがあった。やるせない悲しみが、体を、心を蝕んでいた。そっと、柔らかい感触が押し付けられる。瞬時に、春上に抱きしめられていることに、佐天は気付いた。「我慢しなくても良いの。よく分からないけど、大変な事だけは分かるの。それに私は…ずっとここに居るの…」佐天は泣いた。その横で何時の間にか抱きしめられていた初春も、泣いていた。春上は思う。どうして、自分を含めて自分の周りの人間はこんなにも苦しまなくてもならないのか、と。少しだけ、二人を抱きしめる力を強くすると、二人はとうとう声を上げて泣き出した。春上は願う。神様、もし見ているのなら、もっと優しい世界を見せて下さい。私も含めて、周りの人たちが皆、皆、笑顔で居続けることが出来るように。そして、こんなにも友達思いの二人が、このまま儚く壊れてしまいませんように。★ ☆ ★ ☆ ★ジリジリと照り付ける日差しを浴び、額から止め処なく流れる汗を拭いながら、白井黒子は例の病院へとやってきた。昨日、黒子はこの中で一種のトラウマを見せ付けられたも同然だった。-目も当てられないほどに痛々しく傷ついた、最愛のお姉さまの姿-その姿は、黒子の生活の中で最上級に衝撃的な出来事だった。無論、超能力者を赤子の様に操る現・常盤台外部寮寮監との初対面以上だったのは言うまでも無い。そしてそれは、さも当然の様に一晩中黒子の頭から離れず、それは同時に、黒子に不十分な睡眠と、不十分なエネルギー充電という形を与えた。結果として、黒子は行きの道中での能力使用を禁じられたも同然だった。今日こそは、美琴を常盤台寮まで連れて帰る必要性がある上、後々風紀委員の仕事も入っている。風紀委員中の能力使用はさほど無いが、それでも移動時などには効力を発揮する能力であり、その重要性は黒子も十分に理解していた。また、美琴を送り届けるにしても、道中は全行程で能力使用が必須であり、必要に応じて全開で突き抜けなければいけない場面もあるだろう。それに、昨日の美琴の様子。あれから改善されていれば…と淡い期待を抱いたりもしたのだが、午前中にたまたま病院に居たという佐天からの連絡を聞く限りでは、それも望めないだろう。となると、自身に心理的な影響が生じて能力使用が上手くいかないかもしれないのだ。どれだけ確固として、優れた自分だけの現実を持っていたとしても、壊れる時は儚く、あっけなく壊れてしまう。それを回復する手立てを、自分は持っていない。知ってしまったその事実が、黒子にはずしりと重い枷になって、圧し掛かっていた。しかし、それ以上に、黒子には知らなければいけないことがあった。彼は美琴にとってどんな存在なのか。そして、今後美琴はどうするつもりなのか。他にも聞きたい事はあるけれど、最低でもこの二つは聞いておかなければならない。自分の与り知らないところで美琴とあの彼は急速に近付いていた。それだけでも黒子には納得の出来ないことなのに、更に距離を置かれるようでは拙いと、黒子の心は訴えていた。-どれだけ美琴が口を閉ざしても、必ず口を開かせて見せる-その為には拳を交える事も、最愛のお姉さまに疎まれることも厭わない。どんな手を使ってでも、と黒子は固く誓う。「お姉さま、お迎えに上がりましたの」「…黒…子…?」「しっかりしてくださいまし。私の見初めたお姉様はそんなやわな方ではありませんでしてよ?」「…放っておいてよ…別にどうだっていいじゃない…」昨日も話をした医者と、美琴の容態について一言二言会話をした黒子は、いつもと同じように接してみた。しかし、その感触は良くなく、むしろ悪化したような印象さえ受けるものであった。自暴自棄になっているなんて想像以上に深刻だ、と黒子は思う。美琴の彼への依存度は自分が予想していたよりも遥かに根強い物であるらしい。まさか、彼の傍に居ることだけが心の拠り所、はありえないだろうが、昨日からの美琴を考えるに、誰も気付かない内にそうなっていたとしてもおかしくは無い。それに、この場が美琴の思考をネガティブなものにしているのかもしれない。『この調子ならば…。お姉様を連れて、一刻も早くこの場を離れるべきですわね』起こったことは別にして、少しでも距離を置いて見れば意外とあっさりとしている、というのは犯罪などでもよくありがちであって、決して軽視することはできないものだ。ならば、その可能性に賭けてみよう、と、黒子は思った。どのみち今のままでは一進一退どころか二歩進んで三歩下がっているのだ。他に手早く打てそうな手は思い浮かばなかった。そこが一番良いだろうと黒子は考え、やや強引に美琴の手をとると能力を使おうとした。目指す先は常盤台女子寮、その一室。その刹那、黒子の頭の中に、一箇所だけ美琴が口を開いてくれそうな場所が思い浮かんだ。8/20の昼、黒子がはじめて上条を認識した場所。そう、美琴がよく自販機を蹴る、あの公園。もしかしたら、美琴の心境に変化があるかもしれないという、一縷の望みをもって、黒子は空間移動を開始した。 とある妹達編の後日談(アナザーストーリー) 3 「さて、と。着きましたわよ。お姉様」目的地に到着した美琴と黒子は、自販機の傍にある一脚の長椅子に腰を下ろした。相変わらず美琴の表情には生気がなく、感情にも乏しい。それでも、少しばかり、美琴の心境にも変化が表れたようだった。それは、初春や佐天のような友達でも気付かないであろうほどの、ほんの些細な変化だった。それはまさしく、白井黒子という存在が御坂美琴という存在に四六時中スキンシップを試みていた故の、結果だった。それでもまだ、つい先日までの様子と見比べると大差ないというのが、黒子の心を締め付け、痛めつける。解決する為の明確な方法を、黒子は持ち合わせていない。黒子は何も言わずに、ただただ、美琴が口を開くのを待った。10分とも、1時間とも取れるような、長く長く感じた空白の時間を経て、ようやく美琴が口を開いた。「…わ、私…」「…」「…どうしたらいいのか…分からないよ…」「…」「…アイツが、目を覚ましたことがないって知った時…目の前が真っ暗になって…何も考える事ができない…」「お姉様…」「…アイツと私の間に起こったことは…例え相手が黒子であったとしても、話せないようなことなの…」「そうでしょうね…。あれだけ初春や佐天さんと一緒に戦っておきながら、今更一人で抱え込んだという事は、それだけお姉様にとっても、私達にとっても危険な事。立場や力、のせいにはしたくありませんが、やむを得ませんわ」「…ありがとう、黒子…」「…」「…」「…」「…それでね、その一件で…私は、この世界に、学園都市に、裏切られた…」「…!!」「…自分の力で何とかしようとしても、その都度邪魔が入ってね…鼬ごっこ、とでも言うべきかしら…。…とにかく、私一人ではどうしようもなかった…」「そんな…」「…黒子には信じられない話かも信じられないけれど…。私ね、死のうって思ってたんだ」「…え…?」「…もう、この状態を解決するには自分がこの世から居なくなるしかないって、そう、思ったんだ」「…」「…そんな時にね、アイツが、私を助けてくれたのよ」「…」「…ヤメテって、こっちに来ないで、って言ったのに、私には救いなんて無いんだから、そんなに事を終わらせたければ戦えって、戦わないならアンタなんか殺してやるって言って、本気の雷撃を何発も何発も直撃させたのに、さ…。その度に立ち上がって、戦わないって、何で私が死ななきゃいけないのかって、そんなのおかしいって言ったんだ…。それでさ、心臓が止まってたかもしれないような雷撃をまともに受けて、気を失って…。私、もうアイツは死んだって、そう思ったの」「…」「だけど、アイツは立ち上がった。私の考えもしないようなところから答えを示して、ね…」「成功、したんですの?」「ええ、それ自体は…。だから、今こうやって私は生きてるわけだし」「と、いう事は…」「…そう。私を闇の中から引っ張り出すだけ引っ張り出しておいて、一人で深みに嵌っちゃったのよ、アイツ…」「…そ、そんな…」「…私ね…まだ…『ありがとう』も、言えてないの…」「…」「…『ありがとう』って言って、またアイツと勝負したり、売り言葉に買い言葉でケンカしたり、したかったのにな…」黒子にとって、衝撃的な会話であった。美琴が死をも覚悟した、上条が美琴を助けた、そういった言葉が耳に流れてくるたびに、黒子の心は痛み、歯痒く思った。また、美琴の中に居る上条の存在感が、最早自分ではどうしようもないくらいに大きなモノになっていたことも、黒子の心を掻き乱した。前々から、美琴との会話を上条が占めるようにはなっていたが、流石にここまで来るともうどうしようもなかった。時が立てば解決するだろう、という甘い目論見は、脆くも崩れ去る事となった。何故なら、上条に対して敵対心を持っている黒子でさえも、上条の存在が美琴にとってのヒーローに映ったのだから。状況は既に八方塞、自分ではどうすることも出来ない状態に陥り、自らに残った選択肢は『死』のみ。そんな状況のところに颯爽と現れて、自分の能力の持てる力全てを解き放った一撃を受けてもなお立ち上がり、事態を収束させたのだ。こんなのはご都合主義的に仕組まれたモノと相場は決まっているはずなのに、それを平然とやってのけたのだ。ただでさえ少女趣味な美琴が惹かれないわけがない。ましてや、その相手はかねてから美琴が話題にするアイツこと上条当麻だ。これは最早、運命と言う名の赤い糸で結ばれているなんてロマンチックな事を言ったとしても、誰も疑う余地は無いだろう。黒子は思う。もしかして、いや、もしかしなくても、美琴は上条に恋をしているのであろう。でも、恐らく美琴は気付いていないし、黒子もそれを気付かせるつもりはなかった。この感情は、人を縛り付けるものになりかねないということを、黒子は知っている。この感情は、人によって様々な模様を描く事も、黒子は知っている。そして何よりも、この感情は、人に言われて気付くものではないと、黒子は知っている。「お姉様…それは、とても辛いですわね…「黒子…」「まだまだ、あの殿方とお姉様にしか分からない事の方が多いのでしょうけれど、それも仕方ない事、なのでしょうし」「…」「ですが、お姉様、夏休みはあと一週間ありますの。その間に、しっかりと殿方…上条さんとの思い出に浸り、上条さんが何時目覚められてもおかしくないように、目覚められた時にはいつものお姉様が見せられるように、ご尽力下さいまし」「…」「九月に入れば、学舎の園も通常営業に戻ります。きっと、様々な方がお姉様をご心配になられると思いますの」「そう、よね…」「ですから、学舎の園ではいつものお姉様であって欲しい、と黒子は思いますの。その代わり、学び舎の園を一歩出れば、そこから先はお姉様の動きたいように動いてもらって結構ですの」「…!!!」「私から事情を掻い摘んで初春や佐天さん達にはお話しておきますわ。きっと、初春たちなら協力してくれると思いますの。ですから、日常生活の範囲では、私達が精一杯をお姉様をサポートしますの」これが、黒子に出来る、精一杯の約束だった。それでも、美琴の涙腺は我慢の限界を突破してしまったらしい。黒子は、顔を両手で押さえて大声を上げて泣く美琴の正面に回り、その華奢な体を力強く抱きしめた。黒子のサマーセーターが、まるで大雨が降っているかの如き勢いで濡れていく。しかし、今の黒子にとって、そんな事はほんの些細な出来事にしか過ぎなかった。どれ程の時間が経っただろうか。黒子がふと、空を見上げると、既に太陽は完全に昇りきっていた。美琴は一頻り泣きじゃくった後、今に至るまでてグッスリと眠っている。精神的な疲労も重なっているのだろうか、時折苦しそうな表情を浮かべる顔に、黒子の心は痛んだ。黒子は自身の膝の上に美琴を寝かしていた。いつもなら、こんな降って沸いた状況を逃がすわけが無いのだが、流石に今日ばかりはそうもいかなかった。相変わらず人通りの少ない公園ではあるが、それでも何時何が起こるか分からないことに変わりは無い。今、自分は何をするべきなのか。美琴に対してどう振る舞い、接していくべきか。そして何より、今、この状態を打破する為には、どうするべきか。黒子の導き出した答えは、単純だった。今のお姉様を街中に出すのは賭けに近い。あれだけ上条の事を気にしているのだ、自然と足が病院に向かうはずだし、その後の展開は最早想像に難くない。それならばいっそのこと、暫く寮内で隔離の方が良いのではないか、と黒子は思う。割とアウトドア志向の強い美琴を寮内で拘束し続けるのは難しいかもしれないが、現状との選択であれば止むを得ない、といったところだろうか。そうと決まれば話は早い。黒子は、直ぐに寮監に電話を入れ、美琴と共に寮に戻る旨を告げた後、自分の持てる能力を最大限に活用して、寮へと歩を進めた。寮へ戻った黒子はその足で美琴を自室へと送り、そのまま事情を説明する為に寮監室へ。美琴はその覚束ない足取りのまま自分のベッドへと倒れこむと、そのまま頭から布団を被り、その中で体を丸めた。美琴は、その後の夏休みの間、一度も自室から出ることは無かった。ただただ、布団の中で体を丸めて、無力感や虚脱感に絶望感といった負の感情に支配された自分の心に、ひたすらに苛まれ続けていた。~経過報告~~さる8月21日より当院に入院している患者、上条当麻であるが、依然として意識は回復していない。脈拍や呼吸などは非常に規則的であり、特に目立った外的損傷は見られないため、回復には時間の経過を見守るしかないものと思われる。尚、数日後に一時データの取れなかった時間帯が存在しているが、これは患者を見舞いに来た後、一時的に精神に変調をきたした能力者の影響であるものと思われる。その能力者であるが、精神に偏重をきたした翌日、同居人の手を借りて帰宅した後、消息が掴めておらず、学園都市内での目撃情報も一度として無い。寮の自室に篭りきりになっていると思われるが、詳細は不明。~月が変わった。今日は9月1日。学生にとっては夢のようだった夏休みが終わり、いよいよ二学期が始まるのだ。時期、の話をするのならば、うだるような暑さから開放され、身を縮こまらせるしかなくなる冬へと向かう、そんな時期。もっとも、学園都市に居る大多数の生徒は、能力者で有る無いを別にして、新学期に胸を膨らませていた。そう、二学期といえば、行事である。今月の大覇星祭を皮切りに、(誰もが嫌がる中間試験を挟んで)11月には一端覧祭、(これまた嫌がる期末試験を挟んで)12月にはクリスマスが待っている。そういった個別の用事を抜きにしても、部活動を嗜む生徒は最上級生が去った後の新体制のスタートでもあるし、最上級生は最上級生で自分の輝かしい未来を切り開く為の努力を始める時期でもある。学園都市のあちらこちらで、生徒が一生懸命に何かに取り組む姿が次第に目に付くようになる。そんな時期なのだ。しかし、そんな学園都市の青々とした空に似た明るい展望を持った生徒達の中で、一人極寒の地へと心を飛ばされたままその心が戻ってきていない少女が居た。御坂美琴、その人である。結論から言えば、美琴の心は、約一週間の回復期間をもってしても一向に回復しなかった。流石に能力制御が出来るくらいには回復しているのだが、如何せんそれも諸刃の剣。黒子が美琴の望むがままにゲコ太グッズの大人買いをしてみたり(お財布は勿論美琴から)、初春、佐天らが遊びに来たりしたのだが、結果は決して芳しいとは言えなかった。というか、寧ろ悪化の一途を辿っていた。流石にゲコ太グッズではそうではなかったものの、美琴の思考の中心が上条一色になっているがゆえに、結局の所、どんな話をしても「アイツなら…」と美琴が考えてしまい、「あ、そうだった」と思ってドツボに嵌る、悪の無限ループに陥っていたのだ。次第に会話での解決は困難と言うよりも不可能に近い状態にあり、時が経つか上条が意識を戻して元気になるかという、全く先の見えない二択を選ばざるを得ない状況になっていったのだ。そんな精神状態である。夏休み中に、黒子は美琴と自分が本来行く予定だったアメリカ・学芸都市行きのキャンセルを申請したのだが、それは受け付けてもらえなかった。といっても、実際にキャンセルが認められなかったのは黒子だけである。美琴に関しては常盤台外部寮長からも同様の申請があったことがあり認められたのだが、黒子に関してはわざわざその看病の為に残るというのは出来ない、不安であるのならば一時的に精神病院にでも隔離させれば良いだけだとの通知が来た。当然黒子はそれに反発しようとしたのだが、その過程で初春と佐天が一緒に学芸都市に行くということを知り、何やら予感めいた不安を感じたことも手伝って、渋々学芸都市行きを決めている。黒子としては、夏休み明けすぐに学芸都市に行かなければならないということが不安で不安でしょうがなかった。何せよ美琴が精神に変調をきたして以来、自分の知っているお姉さまな美琴を見ていないのである。出来れば出発前の二日間位、外面的にでも良いから元に戻ったお姉さまを見ておきたい。そう思っていた。しかし、神は美琴に残酷であり、非情だった。常盤台の始業式のイベントとして、超能力者によるデモンストレーションが行われることとなったのである。外面は常盤台生の学習・開発意欲向上のためだが、実際には休みボケで気合が入っていなかったり、無駄に浮かれていたりする生徒を引き締める目的がある。常盤台生といえど、所詮は子供。どうしても始業式には浮かれてしまうのだ。だからこそ、教師が怒るよりも強烈な一撃で生徒の目を覚まさせよう…と考えていたわけだ。勿論、その役目を任されたのは心理掌握ではなく、美琴である。目に見えない心理掌握とは違い、超電磁砲は目に見える。単純では有るが、分かりやすい理由である。美琴は体面を繕い、スッと超電磁砲を放つ体勢を取った。後はコインを指で一旦真上に弾き、落ちてきたところで正面に向かって放つだけ。いつもと同じ様に標的に視線を向け、コインを右手の親指と人差し指で挟んだ。その時だった。「…え…う、嘘…」美琴の視界の中の標的が消え、その位置に上条当麻の姿が見えたのは。8月21日の夜、大の字を作り、美琴の電撃を正面から受け止めたあの体勢。その姿のまま、凛とした顔で立つ上条の姿が、はっきりと美琴の目に見えたのだ。「…そ、そんな…そんなこと…」刹那、美琴の動きが止まった。微かに手が震えたかと思うと、コインがその手が滑り落ちていった。そして、コインが地面に落ちたのを一つの合図として、美琴は泣き崩れた。突然美琴を襲った異変に、その場に居た誰もが身動きを取る事もできないまま、ただただ呆然としていた。美琴の現状を知っている、黒子一人を除いて。「まさかの事態、ですの」黒子は即座に美琴を回収すると、保健室へと駆け込み、そのままベッドで横にした。まだショックが有るのか、今は少し気を失っている状態である。「しかし、あんなことになるなんて…」一頻り落ち着いた頃合いを確認して、黒子は思う。多少威力に変化はあるかもしれないが、それでも何とか大役はこなせるだろう、と考えていたのだ。事実、今日ここまでの美琴は見事なまでに今までの御坂美琴を演じきっていたのだ。「ここまで完璧でしたのに…どうされたのでしょうか…?」黒子ですらも美琴を襲った謎の感情の変化に、戸惑いが隠せなかった。しかし、黒子の心を支配したのは、そんな事ではなかった。お姉様が周りから慕われなくなるのでは、とかそんな事でもなかった。美琴の心は、もう元に戻れないのではないか?その疑念だけが、黒子の心を掻き乱していた…。そんな黒子の不安をよそに、時は流れていく。常盤台中で精神に変調をきたした美琴を連れて帰った黒子は、美琴に無期限静養が通達された事を知った。当然ながら、翌日に予定されていたシステムスキャンの無期限延期も、である。黒子は仕方ないと思う反面、僅か10日間ほどの間に現れた美琴の『異変』に、今まで自分の知らなかった美琴を見た気がして、ショックを隠せなかった。同時に、美琴の全てを見た気になっていた自分に対して、恥ずかしさや悔しさ、憤りなどの混ざった複雑な感情をぶつける事しか、出来なかった。舞台は半年間進んで、上条が寝ている病室へと戻る。美琴は、涙でぐしゃぐしゃになった顔をそのままに、半年間の出来事を思い出していた。この半年間、様々なイベントがあった。広域社会見学に始まり、大覇星祭、一端覧祭、クリスマス、正月、そしてバレンタイン…。イベントは多々あれど、その毛色は前三つと後三つで大きく異なる。公私で分けるとすれば、前三つは『公』、後三つは『私』と取る事が出来るからだ。広域社会見学は『学園都市の代表』として派遣されたわけで、大覇星祭や一端覧祭では『常盤台中のエース』、『超能力者の超電磁砲』といった看板を背負っていく必要がある。逆にクリスマスやバレンタインは、『寮監の監視の目を如何にして潜り抜けるか』になる上、正月は届けさえ出せば帰省を含めて一切の自由が利く。勿論、黒子や柵川中組をはじめとする、学園都市に住む大多数の人間は、(ジャッジメントの仕事など、一部を除けば)そういう縛りも皆無であり、充実した半年間を過ごしていた。ただし、こと美琴に関しては話が異なっていた。9月1日、常盤台中学から無期限静養を言い渡されたあの日から、美琴の足は寮の自室と上条の眠る病室を行き来するだけのものと化してしまった。朝、皆が登校準備をしている間に寮を出て、寮に帰ってくるのは寮の門限2,3分前。誰も、何も言わず、ただその美琴の行動を黙ってみている他無かったのだが、思いの外事態は良い方向へと転がった。黒子達が広域社会見学から帰ってきた時には、どことなく影を感じるのは否めなかったが、それでもお盆前位までの時期の、あの美琴が戻ってきていた。本人のやりたいようにやらせること、その重要さが、少しずつ形となって『御坂美琴』を取り戻しつつあった。そんな中で迎えた大覇星祭。初日から美鈴・旅掛と合流した美琴は、ひょんな事から上条刀夜・詩菜夫妻と遭遇する。「おや、御坂さんではないですか」「上条さんですか。こんにちは」「え?ママ、知り合い?」「ええ、そうよ、美琴ちゃん。こちらは、上条詩菜さん。同じフィットネスクラブに通ってて、子供さんを学園都市に預けたってところから意気投合しちゃって」「そうでしたわね。あ、上条詩菜といいます。貴女が噂の美琴さん…」「はい。御坂美琴と言います。よろしくお願いします」「礼儀正しいお嬢さんだな。私は、詩菜の夫の上条刀夜という者です。よろしく」「上条…刀夜…?…!ああ、イギリスの時の!」「ん?そういう貴方は、もしかして…」「ああ、御坂旅掛と言うものだ。あの時は世話になったな」「いえいえ。こちらこそ」「え?…う、嘘、パパも知り合いなの?」「ああ、酒場で色々とあって、な。私とあそこまで意気投合できた漢は刀夜さん以外に知らないな」「そ、そうなんだ…」目の前で色々と起こる事態を飲み込めず、軽く混乱する美琴。しかし、その美琴を現実に引き戻る一言が、刀夜の口から出た。「御坂さんのお宅は早くもお嬢さんと合流できて何よりですね。ウチなんて、当麻の姿を見かけないんですよ。ま、色んなことに首を突っ込みたがる子ですし、中々見つけられないのも納得ですが」その瞬間、美琴の顔色が変わった。上条当麻、その名前には心当たりがある、どころの話では済まされない。同姓同名と言う線も考えられるが、性格まで近いものを持った同姓同名の人間がもう一人居るとは考えられなかった。「美琴ちゃん?どうかしたの?」美鈴がそう尋ねてきて、美琴ははっと我に帰った。しかし、時既に遅し。旅掛の視線は鋭くなり、家族サービスをする父親のそれではなくなっていた。他の三人も、例外なくこちらを心配そうに見ている。美琴の豊な感情表現は、既に上条夫妻にも伝わってしまったようだ。美琴は一瞬誤魔化そうかとも考えたが、旅掛が居るという事情もあり、ありのままを正直に話すことにした。「あのね、私、学園都市に利用されてたの」「私のクローンを作られて、それを実験材料として利用されてた。私一人で止めようとしたけど、出来なかった」「でも今はもう、その実験は行われてない。その実験を中止させる為に、私の代わりに敵と戦ってくれた人が居るの」「私を一人の『中学生の女の子』として見てくれた。そんな人は学園都市では初めてで、凄く嬉しかった」「実験を中止させた時だって、死ぬしかないって思って、絶望してた私の前に現れて、来ないでって、構わないでって、助けようなんて思わないでって叫ぶ私の前に立ちはだかって、私の持てる全力を出した電撃をその身で受け止めて、それでも私を地獄から引っ張り上げてくれた」「それが、私の知ってる上条当麻君」「当麻君は、実験を終わらせる戦いが終わった後からずっと寝たきり。ただ単に意識が戻っていないだけなのだけれど、何時戻るかも分からないって、お医者さんは言ってる」「私ね、その事を知ってから、「自分だけの現実」が確立できないの。心の制御が出来なくなって、友達や後輩に迷惑ばかりかけてて…」そこまで言って、美鈴が美琴の口を塞いだ。ふと周りを見てみると、詩菜は何がなんだかといった表情をしており、旅掛は怒りを身に纏っていた。美鈴や刀夜は、なにやら思案顔だったが、二人の頭の中は似たような物で、美琴が当麻の事を好きなのではないか?と言う事を考えていた。ただ、まだその感情を出来ていないであろう美琴には、それを話すのは拙いというのも察していた。美琴が、幼くして学園都市に預けられ、努力で超能力者にのし上がった学園都市唯一無二の存在だということは有名な話であり、この二人も当然ながら、それを知っている。だからこそ、の思案であった。人間の感情は人によって異なる。100人中99人が同じ考えだったとしても、残りの1人が違うといえば、それは感情としては万人に共通と言い切れる訳ではないということを意味するのだ。だからこそ、美鈴は思う。『当麻君の事で何か思いつめているとしても、「自分だけの現実」の確立が出来なくなるというのは、美琴ちゃん的には考えにくいのよね…。一時的に取り乱すことで、心の制御が難しいというのはあるかもしれないけど、予め確立できてる物を崩されるまではいかないはず。無意識の内に当麻君のことを好きになっているのに、それを認めることが出来ない、と言ったところかな?それなら、美琴ちゃんには『好き』って言う感情を身をもって知ってもらわないとね』『当麻がそこまでやるとは、恋愛感情とかそういうのは一切抜きにしても、美琴さんの事を好意的に見ていたのかもしれないな。ただ、当麻は万人に対して優しい反面、自分に向けられる愛情や好意にはかなり疎い。美琴さんも似てるのかもしれないし、私が口を挟む必要は無いだろう』と、刀夜も漫然と考えていた。そんな感じで、一時的に重苦しい雰囲気になってしまったものの、その後は皆で当麻の病室に見舞いに行き、当麻の分までと言わんばかりに、一週間にも及ぶ祭りを満喫した。後日、学園都市上層部と日本政府の間に緊張が走った事は、公然の秘密である。一端覧祭については特記することがない。単純に御坂・上条両家とも学園都市に来なかったのだ。美琴も、ほぼ上条の傍に付きっ切りの状態であったし、周囲の喧騒を他所に、普段と何も変わらない空間を作り上げていた。年末、クリスマスから正月にかけても同様である。美琴は帰省申請を出さなかったし、美鈴が学園都市に来るということもなかった。美鈴や詩菜は美琴の及び知らぬ所で将来の伴侶を決める大事な話し合いを行ったていたのだ大覇星祭の一週間の間に急激に加速した両家の関係や美琴の感情、学園都市を囲む環境など、色々な事を考えた結果として、先に外堀を埋めるだけ埋めてしまっておいて、後は本人達の自由に任せよう、というスタンスを取ることにしたわけである。勿論、話がトントン拍子に進んだことは言うまでも無い。「…」現実に戻ってきた美琴、しかし、一言も言葉を発しない。そして、自分の右手を見る。超電磁砲、結局今日行われたシステムスキャンでも本気で使用できなかった能力。全力を出したいという葛藤と、全力を出せる相手が居ないという現状が、美琴を苦しめていた。今、目の前で寝ている少年が健在であったなら、そんな事考えなくても良かったのにそう考えて、美琴は顔を顰める。最近、上条の事を思えば思うほど、胸が痛むのだ。真綿で胸を締め付けられているようなその感覚は、8月のあの日、鉄橋の上で感じたあの感覚と一緒だった。息も出来ないような苦しさを感じるのは、あの日上条と一方通行の戦いを見た時と一緒だった。「もしかして、アンタが二度と起きないんじゃないか、なんて考えちゃうからなのかな…」今まで、胸に秘めていた思いが、ポロリと美琴の口から零れる。その言葉が引き金となり、堰を切ったかのように、上条への思いが溢れ出す。「ねぇ、アンタ、早く起きなさいよ…!早く起きて、また私の相手をしてよ!ううん、相手なんてしてもらわなくても構わない。なんでもない他愛の無い話もしたいし、肩を並べて寄り添って歩いてみたいし、膝枕もしてあげたい!」「…」「それに…もっと私の事を見て欲しい!誰よりも素直になって、真っ直ぐに物を言えるような子になって、アンタと一緒にこの街を歩きたい!」「…」「もう…限界だよ…。早く、早く起きてよ…。アンタの居ない生活なんて、もう耐えられないよ…」そこまで言って、美琴ははっとする。今自分が紡いだ言葉は何だったのだろう、と。もしかしたら、今までも同じ事は思っていたのかもしれない。だとすれば、押さえつけられていた思いが出てきたことになる。この感情が何なのか、美琴が考えるまでもなかった。「そっか…私、アン…当麻の事が、好きなんだ…」そう思った瞬間、美琴は大声を上げて泣き出した。上条の事が好きだと自覚した瞬間、胸の中にあった感情が爆発したのだ。堪えきれなくなった感情の奔流が、形となって美琴を濡らす。視界がぼやけていく中、上条の顔が少し苦しげに写ったようにも見えた。美琴はそのまま、疲れ果てて眠ってしまった。美琴が目を覚ました時、時計の針は午後6時を指していた。美琴が一旦病室を出てお手洗いに行き、また戻ってきてみると、そこには二人の見知らぬ男女が居た。「あ、あの…」「あ、10年前の私だわ。やっぱり私は可愛いわね」「ああ、そうだな。10年前の『美琴』は可愛いな」「もう、『討魔』ったら酷い!」「悪かったな。『尊』」「あ、あの!」「あ、ゴメンなさい。10年前の私」「へ…?」「私の名前は神上尊。御坂美琴が上条当麻と結婚して、絶対能力者…所謂レベル6になった姿、と言ったら良いかしら。能力的には電撃使いがベースだけど、そっちはカンストしちゃってるから、黒子の空間移動をサンプルにしてデュアルスキルにした事で上のレベルに上がれたってところね」「え?…レベル…6…?」「枝先さんの件でも、一方通行の件でも構わないけれど、『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの』ってのを知ったはずよ」「ま、まさか…」「そう、そのまさか。まあ、私はコイツと色々あって、その結果として付いてきた物だから、アイツらの実験とは全く関係ないけどね」「コ、コイツってなぁ…素直じゃない尊たんもなかなか…」「だからたん言うな」「へいへい。あ、俺は神上討魔。元は上条当麻って名前だったんだ。要はそこで寝てるやつの10年後って訳だ」「…」美琴は何も言えなかった。目の前の超常現象に混乱していたのだ。取り合えず、二人をよく観察してみる。神上討魔と名乗る男性は身長175cm位だろうか。適度に筋肉が付いており、一見するとただのスポーツマンの様に見える。ただ、その顔や首筋にチラホラと見える傷痕が、歴戦の勇者っぽい何かを想像させる。一方、神上尊と名乗った女性。身長は165cm位だろうか。体系的には自分よりも母である美鈴に近い印象を受ける。出ている所の自己主張が激しいが、出て欲しくない所は全く出ていない。理想的な体型と見える。髪を留めているヘアピンのセンスは確かに自分に近い物があるし、口調や性格も似ている気がしないでもない。一応、相手の言うことがあっているという前提の元で、話を進めることにした。「それで、職業は?」「いきなりそれから入るのか…。俺は今は学園都市統括理事長をやってる。巷じゃ『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの』って言われてるらしいけど」「所謂SYSTEMってやつね。というかアンタ、ローマ正教やイギリス清教を配下にしておいて、よくそんな能天気で居られるわね…。本来なら暗殺候補筆頭じゃない…。で、私は専業主婦。家事は元々好きだし、『討魔』のお給料って私でも目が飛び出るくらい有るから、やりたい事が何でも出来るのよね。それに、主婦だから自分の時間が結構取れるし。勿論、『討魔』との間に子供を授かってるから、その子のお守りもしてるんだけど」もう何がなにやら、である。美琴は、一つ溜息をつくと、本題へと切り込んだ。「それで、お二人は何故ここへ?」「んーと、当麻を起こす為、かな」「え…?」「結局のところ、俺が昏睡状態だった理由は解明されないんだ。だから、美琴の可能性に賭けるしかない」「私の…可能性…?」「そう。今日は2月21日。時間は午後6時過ぎ。私の記憶が確かなら10年前の私は、この少し前に『当麻が二度と起きないんじゃないか』って言葉に出してしまって、そこから出てくる思いを抑えきれずに『当麻が好き』って事を自覚したはずなの」これは間違いない。何故なら、自分でもそう思ったのだから。「だから、『当麻が二度と起きないんじゃないか』っていう私の幻想をぶち殺してもらうの」「俺も詳細は良く知らないんだが、要は美琴と10年前の俺の頭を撫でてやれば良いんだと」「そういう事。だって、『討魔』は神よりも上の存在。どれだけ神が当麻と10年前の私で弄ぼうとしたって、パワーバランス的にはこちらの方が上になるから、絶対に『幻想』はぶち殺されるの。そして、『感情』だけが残るのよ」「…え?…え?…え?…」「そうよね、やっぱり混乱するわよね。でももう大丈夫。本当に半年もよく頑張ったね。もう安心して良いよ。当麻は必ず意識を取り戻すから」そう言うと、『討魔』と『尊』は視線を交わし、首を縦に振ってから、『討魔』がこちらに近づいてきた。かなり密着に近い状態で、『討魔』は2,3秒美琴の頭を撫でると、そのまま当麻の方向かい、同じ様に2,3秒頭を撫でた。「これで大丈夫。仕事も終わったし、私達はもう帰るわね。もう少ししたら、当麻は目覚めるわ。後は自分に素直になるだけよ。10年前の私」「え、えっと、今更聞くのもどうかなと思うんですけど、どうやって時間移動したんですか?」「『神上』って苗字はね、神の上に立ってるから貰えたの。後は空間移動でも超能力者になれたってところかな」「えっ…」「黒子が空間移動をフル活用すれば100kg位のものを時速300km位で運べるわよね?それの上位互換になるから、光よりも速いスピードで空間を移動することが出来るの。後はそこに超電磁砲を技術を応用する事が出来れば、時間を遡ることが可能って訳」「ま、これにも限界ってのがあって、時間を遡れば遡るほど『尊』への負担は大きくなるし、そんなに長居することも出来なくなる。こういう会話の時間を含めると、この日が時間移動で遡れる限界って所だな」「そういうこと。じゃあ、そんな訳で私達は帰るわね。バイバイ」「あ…」トンでも理論をぶちまけられた挙句、あっさりと未来へ引き返そうとしている二人にあっけに取られていた美琴だったが、それでも何とかお礼だけでもしようと声を掛けようとするのだが、『尊』に「後は、貴女が今出来る精一杯の愛情表現を彼にしてあげること。唇にキスなんかどうかしら?」と耳元で囁かれてしまい、美琴はただただ顔を真っ赤にしたまま立ち尽くすしかできなかった。バタン、という扉の閉まる音で我に返った美琴は、ベッドに寝る上条の方を見やった。確かに、顔色が少し良くなっているような印象を受けるし、これなら『尊』の言うような展開も期待できるかもしれない。そう考えた美琴の動きは早かった。上条の頭の横まで来ると、あの絶望を味わうこととなった夏の暑い日の様に、上条の顔へと自分の顔を近づける。刹那、音も無く、二人の顔が一つに重なった。実際には数秒の事であったが、美琴にとっては一分にも、十分にも感じる時間だった。美琴は上条から顔を離すと、そっと自分の唇を指で撫で、その感触に酔いしれた。と、ここまでは良かったのだが、ここで美琴ははっとした。何故か目覚めていないはずの上条の心拍数が上昇しているし、心なしか顔が赤い様な気がする。「まさか、自分がキスをする前に目覚めていたのでは?」と思い、恥ずかしさや八つ当たりで感情がごっちゃになった美琴は、思いがけず電撃を放つ準備をしていた。その時だった。上条の目が開いたのは。「み、御坂さん…?」「あ、アンタ…何処から起きてた…の…?」「え、えっと、誰かが近づいてきた時には…」「こ、この…」「ちょ、ちょっと、ストップストップ!」そんな、体を動かせないにも拘らず、何とかしようと慌てる上条を見て、美琴も少し冷静さを取り戻す事が出来た。そして、一歩間違えば病院に大損害を与える事になっていた事実を認識し、少し顔を青ざめる。しかし、そんなのもつかの間の事で、結局は上条が目覚めたことが嬉しくてたまらず、上条へと飛びついた。ベッドが軋み、何やら警報音らしき物が鳴った様な気がするが、今の美琴にはそんな事は何も問題ではなかった。「当麻…当麻ぁ…」上条が目覚めた事が嬉しくて嬉しくてたまらなかった。耐えることが出来なくなりつつあった今の生活に別れを告げられる事が、この上なく幸せだった。上条に対して素直に表情を出すことが出来た事が、喜びだった。自分自身の事をどうすることも出来ずに苦しみ、仲間に迷惑をかけ、家族に心配させてしまった。それ以外にも、この半年間で味わった感情の奔流が、美琴を駆け巡る。何時の間にか、美琴の目からは大粒の涙が溢れ出していた。上条は、いきなり抱きついてきて泣き出した美琴を、どうする事も出来なかった。ふと、視線を横にずらすと、デジタル時計の日付は自分が記憶している最後の日から半年流れている。上条はそれを知って、半年間も寝たきりだった、という事実に愕然としながらも、それでも目覚めれたのは自分の身体の上で泣く少女のおかげだろうか、と考えた。多少記憶が曖昧だったとはいえ、唇に暖かい感触が来た事は間違いない。それに、先ほどから自分の目の前で見せる美琴の表情。一瞬、嬉しそうな顔を見せた時はそうでもなかったが、今はチクリと心が痛む。あの日、あの橋の上で、俺は御坂を泣かせないと決めたのではなかったのか?御坂には笑顔が似合うから、御坂がいつも笑っていられるようにしたいと思ったのではなかったか?なら、何故今御坂は泣いている?今まで俺が寝ていたからではないのか?そうだとしたら、俺はどうすれば良い?そこまで考えていると、美琴が口を開いた。「バカ、バカバカ!寂しかった、辛かった、苦しかった!もう限界だったんだから!」「み、美琴さん?」「アンタがどんな気分で寝てたかなんて知らないけどさ、私は、私はもう、アンタの居ない生活に耐えられなかった!アンタの事が好きで、好きで、大好きで、もう周りの事なんてどうでも良いくらいに!」「…え?」「そうよ、私は、アンタに助けられたあの日から、アンタの事が好きで好きでたまらなかったのよ!今までは素直に言えなかったし、アンタが好きだなんて認めたくも無かったけど、もうそんな意地張るようなことしない!アンタにも真っ直ぐに、ど直球で行くって決めたの!」「…」「…大好き、当麻。だから、もう絶対に、どこにも行かないでよ…」上条は愕然とした。目の前の少女が発した言葉の一つ一つが、寝起きの体に強烈なボディーブローを浴びせてきたのだ。おまけに、「好きだから、何処にも行かないでくれ」と言われたのだ。ノックアウト必至の美琴渾身の一撃に、上条も色々と考えを巡らせる。不幸な出来事ばかり、今まで自分の身に起こったせいか、相手が自分の事を好きだと言ってくれるなど露にも思っていなかった。でも、美琴から発せられた言葉を受け止めて、自分の中でもパズルのピースが嵌っていく音が聞こえた。そうだったのか。俺が御坂には泣いていて欲しくない、いつも笑っていて欲しいと願っていたのは、俺が御坂の事を好きだったからなのか。お互いがお互いの事が好きだったなんて、なんて幸運な事だろうか。もしかしたら、今までの不幸の詰め合わせは、全てこの一瞬の幸運の為だけにあったのではないだろうか。だとすれば、今、自分が選ぶ道は一つしかない。御坂美琴というこの華奢な少女と、一緒に道を歩んでいく。彼女は自分にとって高嶺の花なのかもしれない。もしかしたら彼女にも自分の不幸が舞い降りてくるかもしれない。でも、それがどうしたと言うのだ。そんな物、全て、自分の力で切り開いていけば良い。絶対に諦めずに、最後まで全力を出し切れば、必ず願いは叶う。あの日、超能力者に無能力者が勝ったように、この世に不可能なんて言葉は存在しないのだから。静寂立ち込める空間の中で、上条がおもむろに口を開いた。「この半年間、御坂の身に何が起こったかとか、学園都市でどんな事が起きたのかとかは何も分からないから、今から知って行くしかないわけだけどさ…」「うん…うん…」「俺は御坂美琴と共に歩む。そして、御坂美琴とその周りの世界を守る。そんな幻想だけはぶち殺させねえ、必ず現実にしてやるって、今決めた」「うん、大好き、当麻ぁ…」もう一度、二人の顔の距離が近づく。今度は上条の目も開いている。距離が0になる寸前で、美琴が目を閉じた。上条は、少しの笑みを浮かべると、自分も目を閉じ、美琴との距離を一気に縮める。改めての二人のキスは、ちょっとだけしょっぱい感じがした。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/522.html
美琴の一ヶ月 早朝6時前、目が覚めると美琴はおもむろに携帯を開きメールを確認する。『新着メールはありません』カエルをモチーフにした携帯のディスプレイを見て大きく息を吐く美琴。「今日も着てない……。毎日メールしてるのにアイツからの返信が無い」もうすぐ二人が付き合い始めて半年だ。居候のインデックスがイギリスに戻ったりと上条当麻を中心とした周りは変化していた。だが、半年の記念日が明日だと言うのに当の彼氏である当麻との連絡が途絶えている。美琴は『受信メール』を開き、『上条当麻』と名前が付いたフォルダの中で一番新しいメールを開く。『しばらく連絡できねぇ、訳は次に会った時に話す。……ごめん』このメールが届いたのは丁度一ヶ月程前になる。最初の一週間位は、(まーた何か厄介事なの?)等と思っていたが、一週間経っても連絡は来ない。心配になり、毎日数通のメールを返信を期待しつつ、送っているが未だに一度も返信が来ない。「……もしかして、私捨てられた?」数日前から朝のメール確認が終わると生気を感じない声で告げている言葉。(お姉様……。あの類人猿! 今頃何所で油を売っているのですの!)隣のベッドでは、既に起きているが寝ているフリをしている白井黒子は頭まで布団に被っている。「――様! そろそろお起きになってくださいまし、遅刻してしまいますわよ」白井は既に学生服に着替えているが、御坂はメールの確認後に再びベッドに潜り白井の声に返答を返さない。美琴の状態を知っているが故に、下手な事が出来ない白井は布団を揺さぶるりながら、"憧れのお姉様"である美琴をこんなにしてしまう上条当麻に殺意を混ぜた怒りを懐いていた。「……ごめん黒子。……今日も休む」この二日ほど美琴は学校を休んでいる。理由は無論上条当麻の事だ、一度校内で倒れ早退している、それ故寮監並びに担任もしばらく静養させる事にした。無論、白井もこの案件に付いて寮監達から問われたが、美琴が当麻と付き合っている事は寮監達は知らないはず、その為白井にも『私にも判りませんの』としか答えられなかった。白井は大きく溜め息を吐き、「行ってきますの……」と告げ、部屋を出た。一人になった部屋で顔を布団から出し、天井を見上げていると視界が霞み……声を殺しながら涙を流す。これもまた数日、続けざまに行われている。時間が経ったのだろう、部屋が暗い。泣き疲れて眠っていたようだ。このような形で一日を過ごすようになり、もう数日当麻に送るメールの数も一通だけになっている。白井は居ない、まだ仕事で帰っていないのか、食事にでも行っているのだろう、美琴はもう何日もロクな物を食べてない。"食べたくない"と言っても無理やり食べさせる寮監に"ヨーグルトと一口サイズのパンにキャベツ、ハム、卵を挟んだ物"を2日に一度食べただけだ。「……そうだ、メールしなきゃ」うわ言のような声で呟き、携帯を開き『新規メール製作』を押しメールを打とうとするが、一日泣いて寝ただけの美琴には送る内容などあるはずが無い。親指でボタンの上を撫でるように動かしながらメールの内容を考える。「もし……捨てられたなら。アイツもいつまでもメールされた迷惑よね……丁度明日までに返信が無かったらもうお終いにしよう。……全部」再び視界が霞むが、片手で拭いながらメールを打つ「今日はもう寝るね。おやすみ当麻」(単純な内容しか思いつかなかったわね……)と自虐しながら、ボタンを押す。すると『送信開始』の文字が浮かび、その上に当麻と付き合って初めてのデートの際に撮った写真が浮かび上がった。(――メ! やっぱりダメ! 送りたくない! 当麻と離れたくない!)瞳から溢れる涙を他所に中止ボタンを連打したが、現れた画面は『送信は完了しました』と表示した。「……終わった。私の始めての恋」携帯を閉じた顔はもはや、死人同然とも言えるほど表情に瞳の輝きも失せている。まるで操られているかのようにフラフラと腕をブラつかせベットに入った。メールを送り、どれ位時間が経っているのかも判らない美琴は天井を見続けていると、突然蛍光が付き、入り口には寮監と白井が立っている。白井は盆を持ち、その上にいつものヨーグルトとパン、さらにスープなり何なりと沢山載っている、量にして二、三人分だろうか、一緒に食べようという事なのだろ。「……あ、お帰り黒子。もう食事は済んだの?」上半身だけをゆっくり起し、美琴の顔を見た二人は一瞬にして驚愕した顔になり、白井は手に持つ盆を落としかけ。寮監はカツカツと音を響かせながら美琴に駆け寄り抱き締める。「御坂……一体何があった? 訳を話せ、……無理なら一時的にご両親の元に――」寮監の言葉を遮るかのように、美琴のカエル携帯が『ガ~ガ~ガ~』と鳴り始め、美琴は一気に凶変し、目を大きく開け、瞳に生気が戻り始め、無我夢中にもがき始めた。「携帯……携帯!!!」尋常じゃない様子の美琴を拘束するかのように抱き締め続ける寮監と、静かに部屋の奥にある机に盆を置き、枕元にある美琴の携帯を掴む白井。「黒子!! 私の携帯を返しなさい!!」先ほど以上にもがくが、数日生理現象以外は寝たきりで食事もロクに口にしていない、美琴は寮監から逃れられない。「白井! 御坂に携帯を渡せ!! 早く!」しかし、寮監の命令を受けても白井は携帯を渡す素振りを見せず、それどころか能力を使い何所かに転送してしまう。「お姉様、もう良いじゃないですの。"お姉様には黒子がおりますわ"」「アッ! ……黒子ぉぉぉ!!」「白井、お前……」寮監が一瞬油断した隙を突いて美琴は、白井に駆け寄るが途中で強烈な吐き気と頭痛で寮監と白井の間で倒れる。「急な興奮等は血圧が上昇して身体に毒ですわよ?」「うぅっ! アンタ!私の……ウッ、携、帯どこにやったのよ」吐き気を模様しながら、美琴は口を引き、寮監も美琴の傍に寄り背中を擦り、顎で白井に部屋の外へ促す。顔色一つ変えずに部屋を出ようとする白井を掴もうと動こうとするも、急に動いた事と吐き気により、体が思うように動かない。「ここで待っていろ御坂、白井は私が何とかする。今は横になるんだ」寮監は美琴を以前より痩せた美琴を抱え、ベットに寝かせると、部屋を出て行った。御坂は枕に顔を埋めて泣き始めると、ふと硬い感触を感じる。恐る恐る、片手を枕の下に忍ばせ、"ある物"を掴むと枕から手を引き出す。「私の携帯……」枕の下に在ったのは美琴のカエル携帯だ、白井が転送したのは、実は最初に置かれていた枕元から枕の下に移動させただけだ。不審に想いつつ、携帯を開くと一ヶ月ぶりの"彼"からのメールだ。『もう寝るのか? エライ早いな、上条さんはこれから晩飯を食べる所ですが』と美琴の状況など露と知らずに送られたメールだった。嬉しさ半分、安心した気持ち半分、怒りと憎たらしい気持ちが全開といった美琴の心理状態だが、やはり視界は霞む。――いつもの悲しい涙ではなく、嬉しい涙だ――流れる涙を拭き、メールの返信を打つ美琴。恨み辛み等言いたい事は山のようにあるが、それよりも先に送った返信は、『おかえり! また厄介事とかしてたんでしょ~? 実は今から会いたいかな。 そっちの都合もあると思うけど会いたい。場所はいつも自動販売の前に来て』返信するや否や、携帯を寝間着のポケットに入れ、勢いよく廊下に出ると白井が寮監に正座で説教させられている最中だった。「み、御坂」「お姉様……」美琴の顔を見るや少しの間二人は硬直していたが、美琴はお構いなく、白井に抱き付き「ありがと! 黒子」と涙を流しながら強く抱き締める。メールを返しながら美琴は気づいたのだ、あの時の状況を。もしあの場で寮監の前でメールを開けば事と次第によっては、どうなるか判らなかった。白井は自分が罰なり何なりを受ける覚悟をしてあの策を行ったのだと。あの時の"お姉様には黒子がおりますわ"とは白井は美琴の側に居る事を指していたのだろう。「良かったですわね、ひっく、お姉様」美琴の反応からメールの送り主と内容が美琴にとって良い方向だった事を悟り涙を流しながら抱き返す白井に、寮監はただただ首を傾げて考え、『御坂を回復させる奇策』だったのだと結論付けた。そうと思い込むや否や、寮監は「それじゃ後はちゃんと食事を摂って休むんだぞ」と言い残し、去って行った。白井が持ってきた食事は白井と寮監と美琴の簡素な食事分だけ為、自分の分を美琴に譲るためだったのかも知れない。「――ん~美味しい!」「お姉様~これもお食べになります?」部屋に戻った二人は白井が持ってきた食事を食べているが、実際は殆どを美琴が一人で食べてしまった。「……それにしても優に二人分を食べて、まだ食べるなんて……太っても知りませんわよ?」「んー大丈夫! 大丈夫! さてと、そろそろ行きますか」美琴は最後のヨーグルトを食べ終えると早々と制服に着替え始めるのを見て、白井は大きく溜め息を付くも、(お姉様も元気なられましたし、今日だけは許してあげますわよ、類人猿……明日からは首を洗っておく事ですの)と一人戦々恐々とする事柄を考えニヤケ付くと、美琴の支度が終わったのを見計らい、そっと肩に手を載せ「お気をつけて」と告げると美琴を寮の外へテレポートさせた。すると白井の携帯が鳴り始めて確認すると、美琴からのメールだった。『今日はいろいろとありがとう、さっきは怒鳴ってごめん』それを読んだ白井は自然と微笑みを浮かべ、着替えを持ちシャワールームへと消えた。「かれこれ三十分……たく、ビリビリのやつ。急に会いたいって言ってきた癖に、いつまで待たせるんだ?」上条当麻は、美琴との縁が多い自販機の前で待っており、定期的に携帯の時間と連絡待ちをしているが、呼び出した当人が現れず、つい昔の癖で"ビリビリ"と呟いた為。「誰がビリビリだぁぁぁ!!」声よりも先にビリビリ由来の"雷撃の槍"が飛んでくるが、昔からの癖もあり、常人離れした反応速度で右手を出し、飛んでくる槍を消失させる。「アンタねぇ……い、一応アンタの彼女なのよ! いつまでビリビリ言えば納得すんのよ!」雷撃の槍が飛んできた方向から勢いよく走ってくる音、視界は雷を無効化した際の土煙でまだ相手は見えない。土埃が散っていく最中足音が消えたと思うや否や土煙の中から、当麻に向かい美琴が飛び付いたのだ。咄嗟の事で当麻は仰向けに倒れ、美琴を抱き抱える形になった。「いてて、なにしやがんですか!」と愚痴を溢すも聞えていないのか、美琴はお構いなく当麻の胸の中で泣き喚き始めた。誰も居ない公園の通路沿いにある自動販売機前で、美琴は長い時間泣き続けた。この一ヶ月で流した分だけで一生分の涙を流すかのように。泣き止んだ頃に、当麻は口を開く「また泣かせちまったな。……すまん美琴」その言葉は深い悲しみが感じられ、美琴は顔を上げ、当麻の唇を奪う。「バカ……何で急に連絡取れなくなったのよ。今から洗いざらい喋ってもらおうじゃない。」目にはまだ涙は残ってはいるものの、悪党っぽい笑顔を見せ立ち上がる美琴に、当麻の顔も少しだけ明るくなり立ち上がる。「で! どういう事かキッチリ話してもらうかしら?」これから悪魔裁判か何か始めるかのような雰囲気を醸し出すテーブルに当麻と美琴は向かい合わせに座っている。あれから、当麻は晩飯を食べる前に待ち合わせに出て、美琴も二人分の食事でも満足しなかった為、ファミレスに向かう事になった。払いは急に呼び出した美琴が持つという事になっている、もちろん当麻も出すと言ったが、雷撃の槍を放ったり「ついでにア、――当麻が逃げないようにね」と若干上目気味に見てくるものだから渋々「はい」と答えてしまった当麻は、今から始まるであろう諮問に生唾を飲む。「で? なんで一ヶ月連絡取れなかったの?」左腕で頬杖を付いて、当麻を睨むように見ている。会ったら泣かれ、ファミレスに入れば上目で見つめられ、今は睨みつけられ、(いろいろと忙しいな美琴は)と考えているとそれを読み取ったのか。「早く答えなさいよ!」若干顔を赤らめながら、テーブルを叩く。夜間で人も疎らとはいえ、数組の客は美琴達の方へ視線を向けた。「わかったから! 落ち着けって! まぁ理由はイギリスに行ってたからな――」"イギリス"その言葉で美琴は大きく溜め息を付いた。(やっぱり厄介事じゃない)しかし当麻の言葉は続いてた。「一応統括理事会の依頼があってさ、それで一ヶ月向こうで仕事してた訳、内容は……スマン。口外は硬く禁じられてっから」理由は判ったが、美琴は納得出来ず、怒りを覚えた。「――んで! なんで当麻がそんな仕事する必要があるのよ! もう当麻は――」「美琴!」感情的に喋り始める美琴を当麻は強く名前を呼び、我を取り戻すと。当麻は左手にある小さくラッピングされた四角形状の箱を美琴に差し出した。「……何よコレ」「今は黙って受け取ってくれ、……中身はまだ開けるなよ」(物で私に媚びるつもり?)と考えながら箱を受け取り、開けようとするも当麻の言葉に疑問に思いつつポケットにしまう。「もっと詳しい事は、数時間待ってくれないか? 言葉を纏める時間をくれ!」さらに不可解な事を告げる当麻を睨むが、頭を下げ両手を合わせてまで頼む格好を見て、一応の納得しておく美琴。話が一段落付いたのを見計らってか、店員が注文した料理を持ってきた。「さてと、とりあえず続きは当麻が纏めた後ね。……いったたぎまーす!」一時休戦めいた言葉を言うと、物凄い勢いで料理を食べていく美琴に、当麻は違和感を感じ驚いてみせるが、そんな様子を気にする気配はない。いつもなら『何驚いてんのよ! わ、私だって年頃の女の子で、カロリー消費しているんだからお腹だって空くわよ!』等と言っていた少女が、まるでずっと食事をしていなかったような光景に当麻も美琴の身に何かあったのかと考えを巡らす。「……何、人の食事を見ながら悩んでるのよ」じとっとした視線に気づいた時には、残り少なくなった料理を食べるのを止め、こちらをじっと睨んでいる美琴に、頭を掻きながら直球で告げる事にした。「お前、何があった? 大変な事あったんだろ?」当麻が不意にした言葉で美琴は"キレ"た。「ンタの……、アンタのせいよ!!!」再び客の視線が集まるが美琴は気にする余裕もなく、当麻の胸倉を掴み、この一ヶ月の事を早々と語った。「「ハァ」」二人は人気の無い河川敷を歩いて居た。以前追いかけっこをして居た頃に戦った場所でもある。結局店員と店長の横槍が入り、当麻は殆ど食す事が出来ずに店を出る事になった。美琴も美琴で、人前であんな事をしてしまった事を後悔し、その後に店長達に頭を下げさせた当麻に対する罪悪感等、二人して溜め息しながら夜道を散歩している状態だ。「その……悪い美琴。お前を追い詰める事になっちまって」「もう良いわよ……。私が勝手に自分で追い込んだんだから」この会話も実はもう五回目だ、店長達の横槍でここ数日分しか聞けなかったが、それでも一番傷つけた美琴、嫌な役を背負った白井、迷惑を掛けた寮監及び諸氏の方々へどう詫びるべきかと悩む当麻。「そろそろの十二時ね」携帯を取り出し、時間を見た美琴は河川敷に降りて行き、夜空に輝く星や月を眺めながら口を開く「そろそろ聞かせてほしいんだけど?」と。当麻は口を開かずに携帯を出したのだろう、機械の駆動音が聞え、当麻は「よし」と美琴の横に並んだ。「今回この依頼を受けたのは、まぁ報酬が高額だったのと――」(報酬……お金か。アンタは不幸体質で生活費を紛失したりしてたものね)「――俺を厄介事に巻き込まない事を条件に出したのさ」「えっ」って美琴はゆっくりと横に居る当麻に顔を動かすが、当麻以前として夜空に向いている。「実はさ、美琴と付き合いだした時から、美琴に心配ばかり掛けてばかりだったから、インデックスにも言われたんだ。『私はとうま達の足枷になりたくないんだよ』って言ってステイル達に保護を頼んだ後、イギリス清教からも正式に通達されてきた」「じゃ……あの子が帰ったり当麻の周りが変ったのって」「そういう事。その時イギリス清教の不良神父達に『お前が守るべき相手は誰だ』って言われてさ、その時美琴の事が頭に浮かんで気づいたんだ。"俺が一番守るべき相手は美琴"だって。うちのクラスに統括理事会にコネ持った友人が居て、そいつを通じて先月、さっき言った依頼を完遂する事で学園都市も厄介事を押し付けないって約束させたのさ。まぁ俺の右腕の事とかもあって、全く厄介事に関わる事が無いとは断言できねぇけどな」「そうだったんだ……なんか私も当麻に悪い事しちゃったのかな?」美琴の声は明らかに沈んでる。それに気づいた当麻はようやく、美琴に向き直り真面目な顔になった――あの頃、丁度此処で勝負する事を受けた時の顔だ。「ただ、一つだけ今俺は悩みがある」「何よ? 言ってみなさいよ」「美琴は……"俺と別れた方が"――」(今、何て? 別れる? どうして?)頭の中で疑問文ばかりが浮かび、一気に血の気が引くのを感じると当麻の胸に顔を埋め両手で耳を塞ぎ「嫌! 嫌! 聞きたくない!!」と叫ぶ。頭に当麻の手が載せられ、髪を梳くように撫でられ、手を耳から離し当麻の腰に手を回し外さないようしっかりと掴む。「聞いてくれ美琴。この一ヶ月お前は傷つき、沢山の人に迷惑を掛けた。それは事情はどうであれ俺が起した事だ。……そんな俺に美琴と付き合う資格な、いてっ!」話の最後に腕に力を入れ締め付け、話止めた。当麻は「急になんだ?」と顔を下に向けると、自販機の時と同じく美琴と唇を合わせていた。「んっは、当麻のバカ! 私の唇を奪って、私を泣かせて、危うく廃人になりそうになった責任を放り出して、何勝手に人の付き合う資格とか言ってのんよ!……当麻には、世界中を敵にしても私と付き合う責任があるんじゃないの?」(あのシスターやほかの子達の立場もあるじゃない)と。恐らく鈍感な当麻はそこに気づいているかは判らないが、再び深く悩まれては話がループしてしまう為、美琴は口には出さない。当麻は何かを考える素振りを見せて黙ったままだ、美琴は再び当麻の胸に顔を埋めると、心臓の音が高鳴りをしていて鼓動の数も早い。でもこの音を聞くだけ少しだけ安心出来る。「俺は美琴が好きだ。義務や責任って気持ちじゃなく、俺個人として美琴を愛してる。俺も離れたくねぇ、こんな俺でも美琴は許してくれるのか?」「当麻ったらバカなんだから。本気で責任があるから付き合えなんて言うわけないじゃない。むしろそんな脅迫的な関係ならこっちから願い下げね。……それに私は、御坂美琴は、上条当麻を好き。これからもずっと、あ、愛してるんだから! バカ!!」言葉の最後に照れ隠しか、当麻の腹部に思いっきり頭突きをお見舞いし、当麻は数歩後退りし腹部を抱えて膝を付いている。「ちょ、ちょっと! ごめん痛かった?」やり過ぎたと慌て、心配そうな顔をする美琴に大丈夫と片手を出し、ゆっくり立ち上がる。「……この一ヶ月のお返しよ!! 私の心の傷に比べたら安い位よ!」「上条さんとしても、今まで一番効きましたよ。今の一撃」まだ片手でお腹を擦る当麻に顔色を落とす美琴だったが、突然携帯が振動し鈍い音が聞え、慌てて自分のカエル携帯を確認するが連絡も何もなかった。変わりにポケットから携帯を出した当麻はボタンを押し振動を止めた。「アンタは……! びっくりするでしょ! 何でこんなタイミングで――」「十二時になった。美琴、さっきの包みを開けてくれ。……俺が報酬に惹かれたのは、まぁ不幸体質による家系圧迫もあるが、それに、今日は俺達が付き合って丁度半年だろ? 何かしたいって考えてたんだぜ?」当麻の言うとおりに、ポケットに入れたお詫びの印と思っていた品の袋を開けて中の箱を開けた。(これって……)中身は指輪だ。二人が初デートの移動中に見つけたショウウィンドウに並んでいた、一品で美琴でも手が出ない額の指輪だ。(そういえば確か……)「いいなぁ~これ欲しいな」ショウウィンドウを眺めながら美琴は当麻に聞えるようにワザとらしく言ってみた。美琴が見ているのは、花のような装飾に中央にダイアが埋められている指輪のペアリングだ。「へぇ~ビ、ゴホン! 美琴もそういう物を好んだりするんだな」つい、いつもの癖で"ビリビリ"と言い掛けて訂正したが、美琴は聞えていないようだ。値段をチェックしようとウィンドウを覗くと、顔中に冷や汗が流れ始め素早く離れた。「無理! ビンボー学生の上条さんはこんな高い物買えませんからね!」「判ってるわよ! 私だって無理してもちょっときついんだから! アンタ何かに……当麻に買ってもらおうなんて考えてないわよ!……そうね~いつか、いろいろと決心したら買ってほしいかな"指輪"」「何だよ! いろいろって――」ショウウィンドウを名残惜しそうにしつつ二人は歩いていった。「あの時の覚えてたの?」「まぁ、彼女との始めてのデートだったしな。いくら上条さんでもそう簡単に忘れないですよ」当麻は若干顔を赤らめながら苦笑いしており、その表情が妙に可愛いと思った美琴も赤くなり、指輪を見つめた。「これくれる……のよね?」「こんな時に冗談言うわけないだろ! あの時言ったろ"決心したら指輪買って欲しい"ってな。俺は美琴を守るって、愛するって決めたんだぜ? ここまで決めたらこ、個人的にだぞ! 結婚も視野に付き合いたいっていうか……」当麻の突然のプロポーズに美琴は指輪の入った箱を落とし、当麻は慌ててキャッチして「危ねぇ! 落としたら――」と言いかけた所で美琴の目から涙が溢れて止まらなくなっていた。「ホ、ホントに私で良いの? 私胸無いし、グスッ、中学生で年下だし、それに――」泣きながら次々と自分や当麻が気にするであろう事を喋り始めるとさっきまでとは逆に当麻から美琴の唇を奪う、まるで誓いのキスのような感じに、美琴の心も落ち着きを取り戻した。「俺はお前が好きだ。結婚についてはまぁ、まだお互いの歳も歳だから、二、三年は先になるけど、俺と結婚してくれるか? 美琴」「私の返事は……」言葉の続きに美琴は当麻と同じく誓いのようなキスをし、指輪を薬指に嵌め、月明かりに照らされて光り輝いていた。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/387.html
小ネタ 瞳のこたえ 学園都市の第七学区にある、カエル顔の医者が勤める病院のとある個室。 そこには半ば部屋の主と化したとある少年が、第二二学区での戦闘により大怪我を負って入院している。 御坂美琴は病室のドアを軽くノックし、中にいる怪我人が目を覚まさぬようそっと足を踏み入れ、そのまま足音を立てぬようにベッドのそばまで歩み寄る。 誰かが付き添いでいたようだが今は席を外しているらしく、残っていたのは空のパイプ椅子が一つ。 ベッドの上の上条当麻は、自らがなすべき事を果たしたようなどこか安らいだ笑顔を浮かべ、美琴の来訪にも気づかぬまま眠っていた。 美琴は無言で上条の額に右手をそっと置き、指先に触れる熱で上条の存在を確かめる。 あの夜、美琴と別れた後上条はどこへ向かったのか。何があったのか、とかあの後どうなったのか、とか今ここで叩き起こしてでも上条に聞きたい事は山ほどあった。 第二二学区の第五階層を貫いて聞こえた謎の爆発音と、水が完全に干上がった人工の湖。夥しい破壊の爪痕。破けた人工の天蓋。そして昨日よりも増えた上条の傷跡。 ……聞けない。 聞けばコイツの往く道を妨げてしまう。 美琴は上条の信念を聞いてしまった。芯を知ってしまったから。 ……聞きたい。 私だってアンタの力になれる。 昨日まで目を背けていた心の中の何かに、美琴は気がついてしまったから。 美琴は自分の中心核を揺さぶるものの正体に名をつけてしまった。 美琴の中に眠っていた莫大な感情が目を覚まし、美琴の足元を大きく揺らす。 自分を中心に吹き荒れる暴風の中で上条を見つめたまま、美琴は立ち尽くす。 目の前の景色は何も変わらないのに、何もかもが新しく彩られたように見える。 あれだけ上条に突っかかっていったのも、ムキになったのも、無視される度に腹を立てたのも、誰かが上条の隣に立つ度にやきもちを焼いたのものも、死地へ赴く上条を止めようとしたのも、何もかも全て。 こんなにも。 知っていたもの全てが見知らぬ何かに変わっていくように。完璧に理解していたはずの自分自身を抑えきれぬくらいに。 ―――御坂美琴は上条当麻の事が好きだったのだ。 小さく拳を握りしめ、美琴は思う。 上条が望むなら、今ここで全てを投げ出してもかまわない。この瞬間に能力がレベル0まで戻っても悔やまない。「…………は」 美琴は小さく息を吐いて笑い、首を横に振る。 上条は、決してそんな事は望まない。 望まぬが故に、上条は海原との約束を、記憶喪失を隠し続けたという事を美琴は理解したから。「みさ……か……」 刹那、美琴は身じろぎする。 上条が目を覚ましたのかと思い、美琴は息を止めて上条を見つめた。 それ以上の言葉はなく、上条の右腕が掛け布団の中から少しずつ持ち上がり、空に向かうように伸ばされる。包帯を巻かれた掌が大きく空中で開かれ、天井と水平に構えられた。 夢の中でさえ上条は幻想殺しを使おうとしているのだろうか。 美琴は左手で上条の手首をそっと掴むと、上条の掌を愛おしげに自分の左頬に押し当てる。「私ならここにいるわよ。……こんな時に誰の夢見てんのよ、馬鹿」 そして上条の額に当てた指先を黒い髪に少しだけ絡めた。細い指をはね除けるような固い感触をもてあそび、「馬鹿よ、アンタは……」 しゃくり上げそうになる何かを堪えて、美琴は笑う。 コイツの前で涙は見せたくない。 美琴をあの日救ったヒーローは、美琴だけのものじゃないから。 たった一人で記憶がなくなるまで戦い、ボロボロに傷つき続けるコイツをいつかこの手で救い出す。それが無理なら肩を並べて戦ってみせる。……何があっても。 それが御坂美琴の矜持。 守られるだけでは終わらない。大切なものは自分の手で守ってみせる。 美琴は上条の手から自分の頬を離すと一度だけその手を軽く握り、手首を持って上条の右腕を優しく掛け布団の下に戻した。「アンタが『いらない』って言っても……アンタのピンチは必ず私が助ける。覚えとけ、この馬鹿。それがいやならとっとと目を覚ましなさい」 相手に聞こえていないからこそ言える捨て台詞を吐いて、名残惜しげに上条の前髪から手を離し、まぶたの向こうで眠る黒い瞳に聞きたかった答えを問いかけるその日まで、全てに口を噤んで。(次に会う時は……いや、恥ずかしくて顔なんか合わせられないわよ。あんな事言っちゃったんだもの。気持ちの整理がつくまで無理無理無理無理!) 頬を赤らめたまま、来た時と同じように、足音を立てずに美琴は病室を立ち去った。 一〇月中旬の穏やかな陽気が、病室の窓にかけられたカーテンを音もなく揺らす。 静かに姿を消す美琴を、上条につながれた計器の計測音だけが無表情に見送った。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/3237.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/こぼれ話 大覇星祭こぼれ話 Ⅳ 上条「さて、今回からは超電磁砲【外伝】サイドから見た大覇星ってわけだな」 美琴「と言っても、正確には『2日目』以降で、禁書目録【原作】の補完にしてはそっちよりも大変なことになっちゃってる感があるんだけどね」 ミ妹「そうですね、とミサカはお姉様の言葉を肯定します。【原作】は学園都市が魔術サイドの刺客に乗っ取られるかもしれないというお話でしたが、【外伝】は学園都市が滅亡するかもしれないというお話でしたから、とミサカは少しだけネタばらしします」 上条「え゛……? アレってそんな大事だったの……?」 美琴「そういう事よ。でもまあ、それはもうちょっと後の話だから今回は純粋(?)に大覇星祭の競技を楽しむってことで。というわけで布束さん、自己紹介よろしくねぇええっ!」 布束「私、高校生、あなた、中学生。長幼の序は守りなさい」 美琴「け、けほっ……あ、相変わらずでなんだか嬉しいですわよ? 今のローリングソバット」 上条「(……御坂が蹴られて文句言わないって……?)」 布束「again 私の名前は布束砥信。長点上機学園三年生。生物的精神医学に関しては誰にも負けないつもり。あと妹達の『学習装置』【テスタメント】を作ったのも私。ところで御坂美琴、今回はタメ口でも許容してあげる。あなたには大きな借りがあるから」 美琴「ありがとうございますー」 上条「あっそうか」 美琴「何? どったの?」 上条「この人、初めて会った割にはどっかで見たことあると思ってたんだけど、今のセリフで思い出した。超電目録(前編)んときに御坂に説教してた人だろ?」 美琴「何を今さら?」 上条「いやーあん時はギョロ目だったのに今日はクールな目だろ? だから初めて会ったと思ってしまったんだなぁあっ!」 布束「fool 女性に対してあなたはデリカシーを持ちなさい」 上条「だ、だからってかかと落としは……一瞬白い何かがぁあああっ!!」 布束「……忘れなさい」 ミ妹「今の布束さんの上段回し蹴りはともかく、ところでどうしてこちらの方が呼ばれたのですか、とミサカはお姉様にお聞きします」 美琴「ん? だって布束さんって(私と同じで)アンタたちのお姉さんみたいなもんよ。今のアンタの性格は布束さんが作った学習装置が元なんだし、今回のお話なら、今、アンタがどういう生活をしているかを見てもらうのに丁度良いんじゃない?」 ミ妹「なるほど。という事は今回はミサカのターンという意味なのですね、とミサカは心躍らせます」 布束「……随分、感情を露わにするようになったわね。Maybe ひょっとして一九〇九〇号からミサカネットワークで何か受け取った?」 ミ妹「禁則事項です、とミサカは人差し指を唇に当ててウインクします」 上条「何の話だ?」 美琴「さぁ? 私も知らない話みたい」 「(今このような場に出すのは彼女のためによくないでしょう)今回は辞退させていただく方向で……」 「そ そんなぁー」 上条「実際はどうなんだ? もし出られてたら出てたのか?」 美琴「んー…個人的には、あまり目立つのって好きじゃないから断りたい所だけど…運営委員の事を考えると断りにくいかな……」 ミ妹「確かにもしもお姉様が辞退したせいで代わりにあのアルビノモヤシ変テイロリコンが出たらと思うと薄ら寒いですしね、とミサカはスラスラと毒を吐きます」 布束「question 『変テイ』って何かしら?」 ミ妹「『変態』と『変なTシャツ→変ティー』を掛け合わせた造語です、とミサカは説明します」 美琴「そうなの? 私はてっきり、『変なテイスト』の略だと思ったんだけど」 ミ妹「それも間違いではありません、とミサカはお姉様の案も採用します」 上条「……お前ら、第一位さんの悪口を言う時はイキイキするなぁ…」 「ええ……今年はデモンストレーションを超能力者にやらせる方針とかで…… ですが……」 ―――― 「…失敗だったみたいですねー」 「ええ」 上条「運営委員も大変だな…吹寄も苦労してたんだなぁ……」 ミ妹「そもそも人格破綻者に選手宣誓をやらせるという企画そのものに問題があるのではないでしょうか、とミサカはお姉様を横目で見ながら苦言を呈します」 美琴「な、何だとう!? 私はこれでも、レベル5の中では一番『まとも』だって評判なんだからね!」 布束「一応、多少は変人である事に自覚は持っているようね」 [常盤台中学所属 御坂美琴婚后光子ペアだ!] ミ妹「隣の方とは随分とスペックが劣りますね。主に胸が、とミサカはお姉様のまな板っぷりに含み笑いを隠せません」 美琴「アンタそれ自分の首も絞めてるって分かってんの!?」 ミ妹「ひゃ~~~っ」 布束「pooh! 女性の価値はバストの大きさで決まるわけではないわ…」 上条(上条さんは学習していますよ。この手の話題には下手に触れない方が良いという事に!) [私は本来は参加する側なのだけど『ヘソ出しカチューシャ』でお送りする] 上条(あれ? この声と口調…それにカチューシャって……) 美琴「…? どうしたの? 変に考え込んだ顔して」 上条「いや…この解説の人、多分俺の学校の先輩なんじゃないかな~って」 ミ妹「ちなみにどんな方ですか、とミサカは本当はあまり興味が無いけれど貴方と会話をしたいがために疑問を投げかけます」 上条「えっと、とりあえず胸が大きくてだな…………ハッ!?」 美琴&ミ妹&布束「「「……………」」」 [ふむ……間違えて下着のヒモを切ってしまったようだけど 所詮ケダモノか] [だがへたり込んで動けない様子 これは事実上のリタイアか? ハムスターグッジョブ!!] 上条「ハムスターグッジョブ!!…………ハッ!?」 美琴「ほっほ~う…?」 布束「sigh…全く、男という生物は…」 ミ妹「そんなに下着が見たいのならばミサカがいくらでも見せてあげます、とミサカはスカートをたくし上げようとします。そーれぴらーん」 美琴「それを私が阻止します。アンタねぇ! 乙女なんだから、そのすぐにスカートまくり上げるクセ何とかしなさいよ!?」 布束「Hmm……やはり羞恥心は必要だったかしら?」 ミ妹「別に見られて困るような物ではないでしょう、とミサカは隙を突いて今度はお姉様のスカートをめくります」 美琴「にゃああああああ!!! やめんかいっ!」 布束「but、あなた短パン穿いてるじゃない」 上条(とは言え、これはこれでドキドキするんだよな……短パン云々じゃなくてスカートが捲れ上がるだけで……また怒られるから言わないけど) 布束「あなた今、これはこれでドキドキするんだよな……短パン云々じゃなくてスカートが捲れ上がるだけで……って思わなかった?」 上条「―――!! いやいやいやいやいや! そんなこと微塵も思ってませんのことよ!? と言うか、最近このネタ多いな!?」 ミ妹「片割れの作者が『世界よ、これが日本のクトゥールだ』というラノベが好きだからなのではないでしょうか、とミサカは生パンなのに短パンに負けてがっかりしながら予測します」 美琴「な、何の勝敗よ! 何の!!///」 「ま それで助かったんだし許してよね」 布束「but still あなたの能力って応用力が高いわね。砂鉄をこんな風に使えるなんて」 美琴「まぁ、色々と練習したからね」 上条「俺としては、超電磁砲より砂鉄の剣の方が怖いくらいだもんな」 美琴「へぇ? じゃあ超電磁砲なら、何発ぶっ放しても平気って事ね?」 上条「………堪忍してつかあさい」 美琴「あはは! どうしよっかな~?」 ミ妹「おうコラそこ! なに痴話ゲンカしてやがんだ、とミサカはツッコミを入れます」 布束「(痴話ゲンカって、カップル同士が行う他愛のない喧嘩の事を言うのだけれど…)」 「あ、ママ」 「やっほ――――」 「どうしたの? 待ち合わせまでまだ……」 「「ママぁッ!?」」 上条「まあ、初めて美鈴さんを見た人はそうなるわな」 美琴「うん。こん時の初春さんと佐天さんの驚きぶりも半端無かったわね」 ミ妹「この御方を見ますとミサカはいつかダッダーンボヨヨンボヨヨンになれると思えて、それまではお姉様のクローンである事を悔やんできたミサカに忸怩たる思いを抱かせます、とミサカはここにお姉様に謝罪申し上げます」 美琴「……今のって謝ってるとは言わないわよ?」 布束「surprise 妹達は本当に変わったのね……」 「あーでも言われてみればパーツパーツに御坂さんの面影が…『胸』以外」 「よーし佐天さん、あとでゆっくり話そうか。二人きりで」 布束「そう言えば、私が妹達の姉みたいなもの、という事は、この人は私のお母さんみたいなもの?」 美琴「いや、さすがにそれは飛躍し過ぎ。ていうか、布束さんもボケるのね」 上条「ところで御坂。お前、佐天さんとあとでゆっくり何を話したんだ? 二人きりってことは何か大事な話ってことか?」 ミ妹「あなたのはボケですか? 天然ですか? とミサカは判断にとっても困ってしまいます」 「アイツ? アイツって何? ママ気になるぅー」 布束「それは私の気になるわね。『アイツ』って一体誰―――」 美琴「そのくだりは前回散々やったからっ!!!///」 上条「結局、誰なのかは分かんなかったけどな」 ミ妹(おめーだよ、とミサカは思わず言いそうになりました。あっぶねー) 「いや 御坂さんがいろいろとお世話になってる人みたいで」 「ほほぅ それでそれで?」 「あ 私さっき借り物競争の中継観てたんですけど御坂さんがツンツン頭の………」 てっ……敵が三人……だと!? 上条「…? 借り物競争…ツンツン頭……なぁ御坂、もしかしてこれって―――」 美琴「なああああああぁぁぁぁん!!!!! か、かかか、関係ないからね!? アンタと借り物競争でアンタとゴールした事は全っ然関係ないからねっ!!?///」 上条「えっ? あ、そうなの? 一瞬、俺の事を言われたのかと思ったけど、何だ違うのか…」 ミ妹「ふぃ~…お姉様の性格に助けられました、とミサカは安堵の溜息を吐きます」 布束「あっ、なるほどね。I see、察したわ」 上条(……ん? ちょっと待て。何で俺今、残念だとか思ったんだろう……?) 布束「言葉にしないと伝わらないわよ?」 上条「あなたには読心術の能力でもあんの!?」 ミ妹「? 何を思ったのですか? とミサカは素で問いかけます」 美琴「ま、どうせ、『あの金髪ツンツン頭の人だろ』とか大ボケかまそうとしたんでしょうけど」 布束「……借り物競走であなたが引っ張ったのはそちらの彼じゃなかった?」 ミ妹「これはお姉様も鈍感なのかそれとも相当のトラウマがあるのかどちらなのでしょう、とミサカはちょっと真面目に考えます」 「大覇星祭」 「どこの学校にも所属していないミサカには参加資格がありません」 「ミャー」 「…病院に戻りましょう」 美琴「あ、あ、あ、あ、あ、あ、危っな~~~~~……アンタ……ママや初春さんとカミングアウト寸前だったんだ……」 ミ妹「……そのようですね、とミサカも正直冷や汗を拭います」 布束「Well でも、いずれ話す時が来るわよ」 美琴「そりゃもちろんそうだけど、学園都市が公表していないことを教えるわけにはいかないわよ。私たちはともかく、ママや初春さんたちを危険に晒す真似なんてできないから、まだ無理」 ミ妹「時期早々なのはミサカも認めますが、それでもやっぱり早くミサカ達も公になりたいです、とミサカは近い将来であることを切望します」 上条「まあ……いきなり、こちらが私の妹です、って一〇〇〇〇人も紹介されたらさすがの美鈴さんでも卒倒するわな……」 美琴「だ、だ、だ、だ誰がアンタの義妹だぁぁぁあああああああああ!!///」 上条「……何でそんな話になるんだ? あと何か字面が違いませんこと?」 ミ妹「それが分かる貴方の鋭さは、前の一節のところで発揮させるべきでは? とミサカは至極冷静に分析して指摘します」 布束「false 声色が少し低かったわ」 ??「義妹と聞いてやって来たぜい!」 上条「帰れ、金髪ツンツン頭」 「わたくし…ケンカどころか怒った経験もないもので……」 「それで先程のようなことを… でしたらわたくしも同じ…」 「そーだ!! 泡浮さん わたくしにちょっと怒ってみてもらえませんか?」 「えぇえっ!? え…えと こ こ こらぁ――」 上条「おおう! まさに天然系お嬢様だ…思い描いたようなお嬢様だ! 普段、御坂や白井ばっか見てるから忘れそうになるけど、こういうのがお嬢様って言うんだよな!」 美琴「あ~ら、わたくしにも常盤台生らしい振る舞いくらいできますことよオホホホホホホ!」 上条「とりあえず、ビリビリしながら言っても説得力ないよね」 布束「undoubtedly、あなたは少々落ち着きがないように見られるわね」 ミ妹「つまりお姉さまはガサツだという事ですね、とミサカはそんなお姉様と同じDNAである事に絶望します」 美琴「よっしゃ、アンタら二人ともケンカ売ってる訳ね!? 買ってあげるから表に出ろやコノヤロー!」 上条(まぁ……このお嬢様らしくない自然体な性格も、御坂の魅力って事なのかねぇ……俺からすると御坂の方が接しやすいんだが……) 布束「That said 私からすれば御坂美琴のようなお嬢様らしくない性格の方がかしこまらずに済むので接しやすいわ」 上条「あ、そうそう。俺もなんだよ。だから御坂と一緒だとなんだか居心地良いんだよ」 美琴「――へっ!?」 ミ妹「――!!!?」 布束「あまり深い意味に取らない方がいいわよ二人とも。二人の精神衛生上的に」 上条「?」 「結局また観戦に来てしまいました」 「べっ…別に競技に参加できないのがさびしいわけじゃないんだからねっ! とミサカはツンデレ風に弁明します」 布束「strange 学習装置にツンデレ風なんてプログラムがあったかしら?」 ミ妹「いいえ、学習装置ではありません、とミサカは布束さんの記憶を肯定します」 布束「なら原因は?」 ミ妹「それはミサカもお姉様の妹と言うことでしょう、とミサカは本質をズバッと付きます。ですがミサカはお姉様と違って意中の男性には素直になれますが、とミサカはチラリと横目でここにいる殿方を見つめます」 上条「俺? ああそうか。例えってやつだな。そうだな。これから先、御坂妹にも彼氏ができるといいな――って、あれどうした?」 美琴「……お互い頑張ろうね……」 ミ妹「はい、とミサカはお姉様の優しさに目頭を熱くします……」 布束「angry 妹達の心を傷つける輩は許せない……」 上条「ちょっ! 俺なんか悪いこと言った!? 御坂妹を励ましただけでしょぉぉぉぉおおおおおおおおおっ!!」 布束「サマソー!(↓タメ↑+K)」 美琴「ま、当然の報いね」 ミ妹「サマーソルトキックなんて大技も繰り出せるのですね、とミサカは布束さんの足技のバリエーションに少々驚きを隠せません」 布束「あらそう? thenスピニングバードキック(↓タメ↑+K)もお見せしようかしら」 美琴「…あれ、人間技じゃないでしょ」 上条「それ以前に、やられるのは上条さんなんだからやめて!」 『あっ逃げた!!』 『次の競技あるんでっ』 あの三人から逃げる口実にはなったけど… 上条「御坂にとって、例の『気になる人』の事を言うのはそんなに嫌な事なのか?」 美琴「すっ、すす、少なくともアアアアンタの前で言う義理はないでしょっ!!? って言うか、そもそもそんな相手は本当はいないんだしっ!!!///」 上条「あっ何だ、そうなのか?(ん? 何でホッとしたんだ俺は?)」 布束「I sayこれは、これで誤魔化しきれていると思っている彼女の方がアホなのかしら? それとも、これでもなお気付かない彼の方がアホなのかしら?」 ミ妹「両方です、とミサカはハッキリと言い切ります。もっとも、ミサカにとってはその方が好都合なのですが」 「サイズきつくないですか?」 「運動には支障ありません。むしろ胸部には余裕があります」 美琴「いいの! 私は大器晩成型なんだから!!」 ミ妹「ミサカはまだ生まれて一年経ってませんから、とミサカは多少苦しい言い訳をします」 布束「こうして見ると本当に姉妹のようね。良いことだわ」 上条「女性は胸だけじゃないと思うぞ。それに『貧乳はステータスだ』って有名な格言もあるし」 御坂姉妹「「コロス!!」、とミサカは初めてあなたに殺意を抱きます」 上条「何で!? 俺フォローしたんだけど!?」 布束「それ、フォローじゃなくてトドメよ」 上条「え、えっとじゃあ…… ホラ! 歌でもあっただろ!? ペチャパイはマラソン速いとかTシャツ伸びないとか匍匐前進速いとか、あとは痩せて見えるとか痴漢にあいにくいとか年取っても垂れ…な………あれ~? 何で更に怒ってらっしゃるの~?」 布束「by any chance あなたは馬鹿なの?」 『バルーンハンター』 この競技は、各校から三〇名により、互いの頭に付けた紙風船を指定の球を使って割り合うゲームです。頭の風船が割れた選手はその時点でゲームから除外され、競技時間終了後に生存者の多いチームの勝利となります。競技範囲は広く、スタート地点のグラウンドから表へ出ることも可能です。ただし一般に開放されている道路や屋内へは侵入は禁止です。違反者は即失格となります。 美琴「この競技、本当は私が出るはずだったんけど手違いでアンタが出たやつね」 ミ妹「はい。いよいよここからがミサカのターンです、とミサカは上条さんと布束さんに宣言します」 布束「Well 楽しみだわ」 上条「それにしても相手は三○人なのに、常盤台は一〇人いないのな」 美琴「前の玉入れもそんな感じだったでしょ。五本指の一角ってことでハンデ戦が多いのよ」 布束「少数精鋭ということね。常盤台中学は生徒数200名弱だけれど、butその代わりに全生徒がレベル3以上なのだし」 上条「あー……そういや、俺たちの学校と直接対決になった時も常盤台の人数は少なかったな……つーか、あん時も思ったけど、レベル5のお前がいるだけで反則じゃね?」 美琴「ふふん。私たちがボロ勝ちしたときのやつね♪ 楽勝過ぎて欠伸しか出なかったわ」 上条「くっそぉ! 何かめちゃめちゃ悔しい!」 布束「…なんだか話がズレてきたわね」 ミ妹「構いません、とミサカは特に問題視しないことを告げます。なぜならこの先、お姉様に見せ場はなく、上条さんの目がお姉様ではなくミサカに向くことは確実なので、これくらい許容範囲です、とミサカは存分に余裕を見せつけます」 パァン! ばッ! 「…は?」 「とにかく地の果てまで走り続けろ!!」 「全員生き残れば引き分けだからな!」 「な…なんて消極的な…」 ミ妹「相手の作戦としては適切です、とミサカは彼らを称賛します」 布束「exactly 能力レベル3以上しかいない常盤台が相手では、一般の学校は引き分けに持ち込む以外ないものね」 上条「……」 美琴「ぷぷぷ。アンタたちは私たちに真正面から突撃してきたわね」 ミ妹「それはそれで讃えられる行動ですよ、とミサカは上条さんも称賛します」 上条「……ありがとうな……全然嬉しくないけど……」 布束「勇気と無謀は違うものよ」 「追いますわよ!」「待ちなさい!」 「単身で追撃は危険です。スリーマンセルで行動すべき、とミサカは提案……」 美琴「あー……」 布束「bad 妹達の進言に耳を貸す者がいないのもどうかと思うわ」 上条「まあ御坂――と言うと、今さらだけど、今回も御坂妹と被ってややこしいな――なあ? 引き続き『美琴』でいいか?」 美琴「はへ!? まままままままいいけどさぁぁぁぁあああああああ!!/// でででで何? 何なの? 何かしら?」 上条「? 何キョドってんのお前? まあいいけど。んで話の続きだが、美琴もあんまり作戦なんて考えずに突撃してくるよな? ひょっとして常盤台の校風だったんか?」 美琴「(……なーんか一気に頭が冷めたわね……)ははは。これじゃ否定できないわね。ちょっと能力値に驕ってる人は多いのかも」 ミ妹「俗に言う『自分より強い者と戦ったことが無い井の中の蛙』ですね、とミサカは少し常盤台の制服を着ていることに忸怩たる思いを抱きます」 美琴「……うん……否定しないわ……」 布束「こういったところが長点上機学園に勝てなかった理由なんじゃない?」 「ひぃ~~~ん 嘘っ 嘘ぉ 何でレベル5とバッタリ遭遇しちゃうのぉ~?」 ミ妹「外見がお姉様そっくりですから相手にはミサカがレベル5に見えるのですね、とミサカは少し複雑な心境を吐露します」 美琴「と言っても、能力値の差が絶対的な戦力の差とは言えないから、私の方がレベルは高くても、アンタとサシだとガチでやり合ったら正直勝てるかどうか自信ないんだけどね」 上条「は? 何で?」 布束「modesty 私もあなたが妹達に負けると思わないわ」 美琴「クス。そうかしら?」 ミ妹「その理由はこの先で明らかにされます、とミサカはここに宣言します」 「この路地裏は以前実験が行われた場所ですので 道筋はもちろん身を隠せる場所も狙撃ポイントも把握済みです」 ミ妹「、とミサカは得意げに……? 皆さん、そんな暗い顔してどうかしたのですか」 上条「いや、その…」 美琴「実験…って言うと、ね…」 布束「………」 ミ妹「いやいやいや。被害者真っ只中だったミサカ自身が吹っ切れてるのに何で第三者達が未だに気にしてんだよ、とミサカは久々のシリアスブレイクをしてみます」 「くそっ、やっぱ無理か!」 「あ」 「そこに乗るのは危険ですよ」 「おわぁ」 「言わんこっちゃない、とミサカは嘆息します」 美琴「ああ……まだちょっと思うところがあるけど、アンタが気にしないってんならせっかくのアンタの活躍なんだし、トークしないとね」 ミ妹「はい、どんどんミサカのことを持ち上げてください、とミサカはお姉様におねだりします」 布束「心なしか、目がキラキラしてるわね」 上条「あなたにもそれが分かるのか?」 布束「まあね」 上条「へー御坂妹の感情の起伏を読み取れるのって俺と美琴くらいかと思ってたんだけど――」 ミ妹(☆。☆) キラーン!! 美琴(ぎくっ!) 上条「やっぱそんだけ御坂妹の表情が豊かになってきてるってことだよな。うんうん――って、どうした?」 ミ妹「……いえ何でも、とミサカはこれはお姉様の役どころだろと不満いっぱいに呟きます」 美琴「何でもないわよ何でも」(*⌒▽⌒*)にこにこ 布束「二人とも苦労するわね」 「しかし誰も私と見分けがつかないとは 助かったような寂しいような…」 上条「あ、さっきの御坂妹と同じような事言ってる」 布束「giggling、やっぱり姉妹なのね」 ミ妹「まことに遺憾です、とミサカは頬を膨らませて抗議します」 美琴「何でよ!」 上条「でもまぁ、俺も最初は見分けつかなかったもんな。最近は分かるようになったけど」 ミ妹「ああ。貴方から貰ったこのネックレスのおかげですね、とミサカはお姉様に見せ付けるようにわざとらしく件のネックレスを取り出します」 美琴「ぐっ…ぬ!」 上条「お。まだそれ持ってるんだ。安物なのに大事にしてもらって悪いな」 ミ妹「いえいえ。上条さんのプレゼントでしたら例えメッキだとしてもミサカにとっては純金以上です、とミサカはさりげなく上条さんを持ちあげることで自己アピールに努めます」 布束「プレゼント? 買ってあげたの?」 上条「ああ。ちょうどその日、美琴と携帯の男女限定のペア契約してな。ちょっと美琴が手続きして俺が席を外して待ってる時にたまたま御坂妹と会ったんだけど、当時はまだ見分けつかなくてさ。んで、見分けをつけるために、って意味だったんだけど買ってやったんだ」 ミ妹「……だ、んじょ限定のペア……契約!! とミサカは愕然とします」 上条「まあネックレスのこともあるんだけどさ。でも、最近気付いたんだけど、な~んか美琴の方がいい匂いがする気がするんだよ。いや、匂い自体はそんなに変わらない筈なのに、美琴の方だけ妙にドキドキすると言う…か? あれ、どしたん?」 美琴「!!!!? な、ななな、なに、なに変な事言ってんのよ変態っ!!!!!///」 ミ妹「なん…だと…? とミサカはWパンチに…石化しま…す…」 布束(この場合、私はどちらの応援をするべきなのかしら) 「でも、ま、起きちゃったもんは仕方ないし」 「私の代理で出るんだから思いっきり暴れなさいよね」 布束「Oh ここは本当に姉っぽい発言よ」 上条「なんだかんだいっても美琴は面倒見がいい姉御肌だもんな。お姉さん役というかこういう妹分を気遣うのは嵌っているというか――って、あれ?」 ミ妹「」 美琴「///」 布束「……Oh まだ固まっているようね」 上条「同じ『Oh』でも意味が違うってのがよく分かるな」 「どうやら……ここまで…のようですわね エカテリーナちゃん ネズミは一日一匹まで…… 『そーいうのいいんでさっさとリアイアゾーンに移動してください』 「あらそうですの?」 上条「…ノリいいな。美琴と二人三脚してたこの子」 ミ妹「」 美琴「///」 上条「…で、この二人はいつまで固まっているのでせう?」 布束「yet しばらくはかかりそうね。rather than これはあなたの責任なのだけれど」 「能力が使えなければ僕らと条件は同じ それなら……っ」 「もら――った……アレ?」 「触れるだけで命を失う相手と一万回以上の戦闘を繰り返してきました――ミサカを捉えるのは容易ではありませんよ、とミサカは忠告します」 上条「んな……!」 布束「…………!」 美琴「ふふっ」 ミ妹「どやあ、とミサカはふんぞり返ります」 上条(あっ、二人とも戻ってきた) 『おおおおお―――――っ!!? これはスゴいッ! 御坂選手 群がる無数の手を躱す躱す躱すーッ!!』 上条「ちょ、ちょっとぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお! 何これ凄過ぎるんですけどぉぉぉおおおおおおおおおお!? 一体何人に囲まれてんだぁぁぁあああああああああああああ!?」 布束「surprise……確かに一方通行と比べるならこの程度の相手、何百人来ても手こずることはないけど、能力を使わずにこの動き……私にも予想外よ……!」 美琴「あ~あ。いくら私でも電撃が当たらない相手じゃ自信ないわ」 ミ妹(ふっふっふっふっふ。このミサカの雄姿に上条さんが見惚れています、とミサカは心の中でほくそ笑みます) 「とりあえず勝負より衣服の汚れを優先するのはいただけませんね」 「そうですねえ」 「寮のトイレ掃除を当番制にしましょうか」 「それはいい考えですねえ」 美琴「うっ…! 私は服は汚れるのは何ともないけど、トイレ掃除は流石になぁ……」 上条「え? お嬢様達はトイレなんかに行かないだろ?」 美琴「昔のアイドルかっ! 人間なんだから、物も食べるし排泄もするわよ!」 上条「冗談冗談」 ミ妹「ちなみにミサカは点滴や錠剤が主な栄養摂取方法でした、とミサカは口を挟みます」 布束「……あとから何か奢ってあげるわ」 「警戒を怠り、相手チームの思惑に嵌ってしまいました、とミサカは自らのミスを反省します。お姉様の代理を果たせず…」 「楽しかった?」 「?」 「競技に参加して楽しかった?」 「は…はい」 布束「if it s the case 落ち込むところじゃないわね」 美琴「私もそう言ったんだけど、布束さんもやっぱそう思う?」 布束「Yes 楽しかったのであれば謝る必要はないわ。と言うより、御礼を言うべきかもね。偶然だったけど、御坂美琴に参加させてもらったことに」 ミ妹「……なんだか暖かい気持ちに包まれているようです、とミサカは布束さんの手前、素直に喜びます」 上条「よかったな御坂妹」 「それにむしろ最後は私が出たより粘ったと思うわ さすがね」 ミ妹「むぅ…不覚にもこの時ミサカはお姉様の事をちゃんとした姉っぽく感じてしまいました、とミサカは懺悔します」 美琴「『不覚』とか『懺悔』とか、ちょいちょい馬鹿にしたフレーズが混じってんだけど?」 ミ妹「まぁミサカはお姉様仕込みのツンデレを標準装備してますからてへぺろ、とミサカは誤魔化してみます」 布束「if anything、あなたはツンデレと言うよりもクーデレではないかしら?」 上条「仲いいなぁお前らホント」 「もうすぐ昼休みね。アンタ昼食とってる?」 「いえ」 「これ生徒に配られる屋台の食券ね。よけりゃ使って。せっかくのお祭りなんだしお互い楽しみましょ」 「綿菓子、りんご飴、焼きそばは玉ねぎが入っているかもしれないのでダメですね、はっ、イカ焼きなら――」 上条「……」 美琴「……」 布束「What どうしたの?」 上条「いや……こういう話のときはたいてい、だな……」 ??「短髪! 私にも食券分けてほしいかも!! 分けて分けて!!」 美琴「ああ、やっぱり……」 ミ妹「インなんとかさんが突然出現しました、とミサカは今回のゲストではないので名前を伏せて紹介します」 上条「っと、今回はここまでか?」 美琴「うん……あの子は布束さんが何か奢ってあげるって言ってから一緒に退出したわよ。あと、インなんとかさんも一緒に」 上条「なるほど……だから『ここまで』だったんだな……つか、あいつ、まだ何か食う気なのか? まあそれはそれとして、今回はゲストが落ち着いてる二人だったから、意外といつもよりはゆったりできたな」 美琴「そう、ね。ただその…途中気になる事がちょろっとあったんだけど……」 上条「気になる事?」 美琴「だ、だからその…アアア、アンタが…えと…わ、私の匂いがどうとかって―――///」 上条「え? あーそれはその何と言うか……」 美琴(どきどき///) ??「はぁい、そこまでだゾ☆ 御坂さんには、そんなラブコメった展開力はまだ早いんだからぁ。なんてったってお子様だしぃ」 美琴「って、ゲッ!? 食蜂!? 何でアンタがここにいるわけ!?」 食蜂「何でって言われてもぉ、私が次のゲストだしぃ。という訳で、よろしくねぇ上条さん♡」 上条「あ、ああ。ヨロシク」 美琴「よろしくじゃないわよ! 何、語尾にハートマークなんかつけてんの!? 絶対反対だからね! そしてアンタもアンタで、鼻の下伸ばしてんじゃないわよ!!!」 上条「の、伸ばしてないやい!」 食蜂「やだこっわ~い! ちょっと凶暴力がありすぎなんじゃなぁい? 仕方ないでしょぉ。次の話は私の関与力が高いんだから。それに来月発売の新約11巻は、私と上条さんの過去話がメインだから、宣伝力にもなるしねぇ」 美琴「ぐう! 隙が無ぇ!」 食蜂「だからぁ、次回は私と上条さんがイチャイチャして、御坂さんは蚊帳の外なんだゾ☆」 美琴「スレ違いじゃないのよそれっ!」 ??「そうですわよ! わたくしの目の黒いうちは、そんな事させませんわ! とぉう!」 食蜂「飛んだっ!?」 婚后「婚后光子、ただいま参上いたしましたの!」 上条「あ、美琴と組んでたノリのいい面白い子だ」 婚后「わたくしをお笑い芸人さんのように仰らないでください! これでも次回のゲストですのよ!」 美琴「婚后さんも?」 婚后「ええ。舞台裏で佐天さんと打ち合わせをして、食蜂さんが上条さんと接近したならば仲違いをさせ、そして御坂さんと上条さんが接近したならば応援をする、という作戦になりましたわ!」 美琴「うわ~…嫌な予感……」 婚后「ご安心くださいな。わたくしが来たからには、必ずや御坂さんと上条さんをこ、ここ、こ……恋仲! に! してさしあげますわ! 御坂さんがホの字でご執心なさっている上条さんとっ!!!」 美琴「のあああああああああああいっ!!!!! 声が大きいってばあああああ!!!///」 食蜂「あぁ、大丈夫よぉ。上条さんには、(私に)都合力が悪い事は聞き流すように洗脳してるからぁ」 上条「え? なんだって?」 美琴「難聴スキル発動してる!?」 婚后「くっ! やはり邪智暴虐ですわね食蜂操祈! よろしいですの!? わたくしが来たからには好きなようには―――」 食蜂「あらぁ…残念ねぇ……私、婚后さんとは友達に…ううん。それ以上に『親友力』が築けると思ってたのになぁ…」 婚后「えっ…? し……親、友? し、ししし仕方ありませんわね! わたくしは心が広いですから、今回だけは特別ですわよ!!? 親友…親友、えへへ…えへへへへへへぇ…」 美琴「ちょろい!」 食蜂「(うふふっ…用が済んだらあなたなんてポイなんだけどねぇ…)」 上条「…何だこのシンタローとアラシヤマみたいなやりとりは……」 美琴「ああぁ…やっぱり嫌な予感しかしない!」 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/こぼれ話
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/3217.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/こぼれ話 上条美琴の禁書目録Bサイドこぼれ話 後編 上条「さて、と。そろそろ休憩も終わりか」 ??「きゃー遅刻遅刻」 上条「ん?」 ??「どっしーん」 上条「て、おい!? なんだなんだ!? しかも今の擬音、口で言ったよな!?」 ??「いったぁーい。もう! 急に飛び出してくるんだからぁ!!」 上条「はい!? って、……ん?」 ??「? ――はっ! ど、どこ見てるんよ! この変態!!」 上条「………………で? 何の真似かな佐天さん? ご丁寧に御坂に変装して。制服は御坂から借りたんだろうし、その髪はウィッグだろうし、スカートの中身も短パンだし、声真似も結構うまいと思ったけど、一目でバレバレだよね?(胸とか胸とかあと胸とか)」 佐天「ちちぃ! やはり愛おしい人の振りをしても偽物だと一発で見破られますか。さすがは上条さん、幻想をぶち壊すのをお得意なだけはあります」 上条「意味が分からん。で、何のつもりなの?」 佐天「いや単純に恋が芽生えないかなと。あ、もちろんあたしじゃなくて御坂さんと」 上条「あのなぁ……前編の締めにも言ったけど、こんな使い古したこんな方法で恋が芽生えるわけねえだろ……」 木山「ふむ……つまりはすでに恋に落ちているので今さらこの程度ではドギマギはしない、と……」 上条「いや……飛躍し過ぎです……」 佐天「じゃあ次はアレですね。地球の存亡をかけた鬼ごっこをして、プロポーズしながら、この吸盤銃で虎縞ビキニに扮した御坂さんのブラをはぎ取って――」 上条「……それやったら俺、黒焦げだっちゃ。あとネタが相変わらず古いし、今のご時世でそれをやったらBPOがすっ飛んできて放送禁止になっちゃうよね。で、御坂は?」 木山「彼女ならとっくにスタジオ入りしているよ。そろそろ我々も戻ろう。あ、御坂くん、もう一、二分で戻るから準備してくれないか」 上条「遊んでただけですかそうですか」 『三十秒後』がちゃっ(ドアを開く音) 美琴「!!!!!!!!!!!?!」 上条「!!!!!!!!!!?!!」 上条「み、みさか……こ、ここここれはだな……不可抗力であってわざとでは……!!」 美琴「なななななに堂々と覗いてんのよ! この変態っ!!///」(渾身のちぇいさー!!) 上条「おぶぉわぁ!? 何でお前着替えてんだよぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!」 佐天「御坂さんに『スタジオに戻ったら制服を戻しましょう』という合図を送っておいて、わざと早く着いて、『うっかり鍵をかけ忘れたところで着替えをたまたま覗いてしまうハプニング的出会い』を演出してみたんですけど……」 木山「御坂くんの対応が、まさか上段回し蹴りというのは想像しなかったね」 「おっすー。そっちはお友達?」 「はい。これから一緒に洋服を見に…」 「(ちょっと! あのヒト常盤台の制服着てんじゃない。知り合いなの?)」 「(ええと、風紀委員の方で間接的に…)」 佐天「は? あたしの漫画版初登場シーンやるんですか?」 美琴「ま、いいんじゃない? アニメ版だけど、木山先生の初登場シーンはやったのに佐天さんが無いのは不公平だし」 木山「……ん? この、頭の外がお花畑の子ときみは知り合いだったのかい? 彼女はAIMバーストのときには実にいい働きをしてくれたよ」 佐天「木山先生? 確かテレスティーナの事件のときにあたしも一緒に居ましたよね?」 「しかも、あの方はただのお嬢様じゃないんですよ」 「?」 「『レベル5』!」 「レベル5!?」 「それも学園都市最強の電撃使い! あの超電磁砲の御坂美琴さんなのです!!」 「ウソ…まさか、あの『超電磁砲』?」 「そうですよ。私この間、生で見ちゃいました」 「――――あの…あたし、佐天涙子です!! 初春の親友やってます!!」 「そ…そう、よろしくね」 上条「あれま。佐天さんが顔真っ赤にしてミーハーになってんな」 佐天「この時は本当に心臓バクバクもんでしたよ。だって、あのレベル5の超電磁砲ですよ超電磁砲。もうあたしたち女子中学生の間だと下手な男のレベル5よりも憧れの的です」 上条「そんなもんかねぇ」 木山「この学園都市の学生からすれば『レベル5』はスーパーアイドル並なんだろうね。もっとも、私たち科学者からしても魅力的な研究対象でもある」 上条「その言い方、何かちょっと嫌ですね」 美琴「仕方ないでしょ。学園都市ってそういうところなんだから割り切らないと。まあ置き去り【チャイルドエラー】のアレは酷い話だったけど」 木山「学生からは慕われて、大人からも必要とされる…良いことじゃないか」 美琴(それにしても……この頃の佐天さんは純真で可愛かったなぁ……それが今ではどうしてこうなったのかしら……) 佐天「ん? どうしたんです御坂さん? あたしをちらっと横目で見てから随分と盛大な溜息を吐いたみたいですけど。どうせだったら上条さんの横顔を見て、ウットリしながら吐く溜息の方がいいんじゃないですかどうですか?」 美琴(こういう所がっ…!) 「ウチって外出時は制服着用が義務付けられてるから服にこだわらない人結構多いし」 美琴「まっ、その代わりにワンポイントとかに拘ってる人は多いけどね」 上条「で、そのワンポイントが御坂的にはカエルの」 美琴「ゲっ! コっ! 太っ!!! 何度も言わすな!」 上条「……ゲコ太のグッズな訳か」 木山「しかし妙だね。そのカエルの」 美琴「ゲコ太ですってばっ!!!」 木山「……ゲコ太の関連商品は、私の生徒にも集めている子がいたが、アレは小学校低~中学年向けのキャラクターではなかったか?」 美琴「いいんですよ! 少年じゃなくても少年ジャンプは読みますし、アンパンマンのOPの歌詞だって大人になって初めて意味が深い事に気づくんですから!」 上条「それは意味が違くないか?」 佐天「プリキュアやセーラームーンだって大きなお友達も見てますもんね」 上条「それは更に違う」 「へー『超電磁砲』てゲームセンターのコインを飛ばしてるんですか」 「まあ50メートルも飛んだら溶けちゃうんだけどね」 「でも必殺技があるとカッコイイですよねー」 上条「佐天さんはアレなの? 技に名前とかつけたいタイプ?」 佐天「え~ダメですか~? あたしそういうノリ、結構好きなんですけど」 上条「いや、ダメって事はないけど…」 佐天「多分、憧れもあると思うんですよ。あたしってほら、レベル0で大した能力使えませんから」 美琴「じゃあ佐天さんなら、自分の能力に何て名前つけたい?」 佐天「えっ!!? えっと…あたしの場合、空力使いだから…こう……ソ…ソニックブーム…とか?」 上条「……ビックリする程普通な答えだな」 美琴「きっとコマンド入力は、 ←タメ→+P(右向き時) ね」 木山「ふむ、風の能力か…では天魔剛神斬空烈風拳とか言うのはどうかな。若者向きだし、とても強そうだろう?」 上条&美琴&佐天(((木山先生、まさかの中二!!?))) 「初春 こんなのどうじゃ? ヒモパン!!」 上条&美琴&木山「「「 」」」 佐天「ん? 何ですかみんなしてあたしの方見て。あ、もしかして興味があるんですか御坂さん? 確かにこれを穿いて上条さんにスカートめくらせれば、イチコロですもんね」 美琴「ないからっ!!!///」 木山「ツッコむ所がありすぎて、面倒なので『ないから』の一言で済ませたようだね」 上条(……『命』が二つあったら、ちょっと…見たい……) 「ねね、コレかわ……」 「アハハ。見てよ初春、このパジャマ!! こんな子供っぽいの、いまどき着る人いないでしょ」 「小学生の時くらいまでは、こういうの来てましたけどね」 「そ…そうよね! 中学生になってこれはないわよね」 上条「お前なぁ……もっと自分に素直に生きろよ……」 美琴「う、うるさいわね! 私にだって見栄とか色々あるのよ!! 恥と外聞無神経のコンボで服着ているアンタには分かんないのかもしんないけどさ!!」 上条「酷っ!! 何そのお前的俺評価!!」 木山「…私も趣味は人それぞれだと思うが…」 佐天「このシーン、あたし、ちょっと納得いかないんですけど」 美琴「え?」 佐天「だってほら。夏休みに(初春と白井さんも来ましたけど)御坂さんとリゾート施設のプールに行ったときに、御坂さん、ピンクのフリル付き水着選んだじゃないですか。アレ、あたしも結構気に入ったんだから、あたしがこのパジャマのデザインを否定するとは思えないんですよね」 美琴「は? 夏休みにリゾート施設のプール? 行ったっけ?」 佐天「……」 美琴「……」 佐天「ああ、アレは並行宇宙【PSP『とある科学の超電磁砲』】の話でしたか」 美琴「……ひょっとしてみょんな伏線張ってない?」 木山「並行宇宙か…今でも科学で解明できない謎の一つだな…曰く、宇宙開闢時のビックバンで我々が生きる宇宙とは別の宇宙が誕生して――」 上条「う゛……な、何か嫌な記憶が頭を過ったような……」 (いいんだモン。どうせパジャマんだから他人に見せるわけじゃないし! 黒子は無視) (初春さん達はむこうにいるし、一瞬、姿見で合せるだけだなら) そろ~り (それっ!!) 「何やってんだオマエ……挙動不審だぞ」 「――――――ッ? ――――――ッ!?」 美琴「…………前のアンタって案外、私に気付くのね。しかも、ちゃんと声かけてくるし。タイミングは最悪だけど」 上条「い、いやちょっと待て。それじゃまるで今の俺は普段、お前を見かけてもスルーしてばっかいるみたい……あーごめん、否定できねえわ」 美琴「おんどりゃあああああああああああああああああ!! 地獄が己のゴールじゃあああああああああああああああああ!!」 上条「ば、馬鹿!! やめろ危ない!! 周り見ろ周り!! ここには木山先生と佐天さんが――って、二人ともちゃっかり避難してやがるぅぅぅぅぅううううう!!」 スタジオの外 木山「なんとか喧嘩は犬も食わないについてだが、どことなくその犬の気持ちが分かるね…」 佐天「とばっちりで怪我したくないですもんね。しかも、後から間違いなく、殺意が芽生えそうですし」 「お兄ちゃんって…アンタ妹いたの?」 「ちがう 俺はこの子が洋服店探してるって言うから案内しただけだ」 美琴「……アンタ、ホントに困ってる女の子とのエンカウント率高いわよね……実はわざとなんじゃないの?」 上条「まごうことなき偶然だよ! 第一、こんなちっちゃい子相手に下心なんざ出すかっ!」 美琴「ホントかしら?」 佐天「本当ですかね?」 上条「うわ。すっげえ疑われてる」 木山「まあ類は友を呼ぶ、と言うからね。確か、きみの友人(個人名は本人の名誉のために伏せておく)が真正の幼女好きという話を聞いたことがあるよ」 上条「だからってそんな決め付け!? と言うか、この場に本人がいたらihbf殺wqされますよ!?」 佐天「あれ? その言い方ですと、誰だか特定できるってことですか? あたしは誰かさっぱり分かんないんだけど御坂さんは?」 美琴「本人の名誉のために伏せておかないと、黒翼生やした白いヒョロったモヤシの悪魔が飛んでくるから知らないことにしておくわ」 上条「……お前……本人がいないからって強気だな……」 木山「では、私が駐車場で困っていた時にはどうだったんだい?」 上条「それもないですよ!」 佐天「大覇星祭であたしがお守りを貸した時は?」 上条「それもねーよ。つか、その場合困ってたのは俺の方だし」 美琴「じゃ、じゃあ『あの写真』を一緒に撮る時も、全然下心がなかったっていうの!?」 上条「それは……(ちょっとあった)」 「昨日の決着を今ここで…」 「お前の頭ん中はそれしかないのか?」 佐天「そりゃあ、御坂さんの頭の中には上条さんのことしかありませんから」 美琴「使い方としては、ある意味、間違ってないけど間違ってるわよっ!!///」 上条「えー……お前、まだ勝負に拘ってんの……?」 木山「私には佐天くんの言っている意味は分からないでもないが……どうやら私と佐天くんの見解と、当時と今の君の見解の間には相当の齟齬が発生していると思われるね」 (我ながら見境ないなあ) 佐天「ホント、上条さんのことになると周りを鑑みませんね。さっきとかもそうでしたけど、何でですかぁ?」 美琴「って、何で素で振ってきておいて、最後だけ、好事家みたいにニヤニヤして聞いてきてんのよ!?///」 木山「TPOは弁えた方がいいかもしれないね。時と場所くらいは選んだ方がいいぞ。まあ、二人だけのときならば周りの目を気にする必要はないが」 美琴「絶っっっっっっっっっっっっ対に私と二人の言葉の受け取り方の意味は違いますよね!?///」 上条「何でだろう。頭脳明晰で聡明な木山先生が言うことなのにTPOに関してはまったく説得力を感じられない……」 「どうもアイツが相手だと調子狂うのよね…」 上条「アレで調子狂ってんの? 俺には絶好調にしか見えないんだけど。態度とか電撃の威力とか」 美琴「意味が違うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 木山「では、どういう意味なのかね?」 美琴「え? そりゃあ、コイツと居るとなんとなく私が私じゃないって言うか、落ち着きが無くなるというか、変に意識しちゃうというか……」 佐天(あれあれ? 御坂さんが、あの御坂さんが素で答えてる!? 木山先生の合いの手のタイミングとセリフが完璧だったからかな!!) 上条「俺からすると、俺と一緒にいるときの普段のお前としか思えん発言なんだが?」 美琴「!!!!!!!!!!!!!?!///」 佐天(上条さんの馬鹿あああああああああ!! 何でここでツッコミを入れるんですか!! もうちょっとって御坂さんの本音が引き出されるところだったのに!!) あの時 私の超電磁砲は間に合わなかった 実際に――初春さん達を救ったのは――コイツだ 「ゲ 待ち伏せ?」 上条「おー…俺、こんな事してたのか」 佐天「って、えええええっ!!? そそそ、そうだったんですか!? 初春も白井さんも、勿論あたしも、今まで御坂さんがやったとばっかり………」 美琴「まぁ、黙ってるつもりはなかったんだけど、コイツがやったって言うと、またややこしくなりそうだったし、それに……」 木山「それに…何だい?」 美琴「いや、本人が」 上条「まぁ、誰が救ったとか、別に大した問題じゃないけどな。みんなが無事ならそれでいい訳だし」 美琴「……こんな調子だから///」 佐天&木山「「なるほど」」 「今名乗りだしたらヒーローよ」 「? 何言ってんだ みんな無事だったんだからそれで何の問題もねーじゃん 誰が助けたかなんてどうでもいい事だろ」 佐天「うっひょ~! かーっこいいー!」 木山「ふむ…間近でこんな事を言われたら、それこそイチコロだろうね」 美琴「………///」 佐天「さっきから御坂さん、顔赤いですしね。思い出し笑いとかはありますけど、思い出し赤面って始めて見ました」 上条「やだ…上条さん、昔言った事と同じ事を自信満々に言っちゃった……は、恥ずかすぃ…///」 木山「彼も赤面しているね。理由は全く違うけれども」 「思いっきりカッコつけてんじゃないのよ!! しかも私にだけ!? だぁ――――ムカつく―――!!」 「……………なんか理不尽な怨念を感じる…」 上条「こん時の俺も言ってるけどさ、これ理不尽じゃね? 別にカッコつけてるつもりもないし…いやまぁ、この時の記憶はないから、何とも言えないけど。でも、ドア蹴るほどムカつかれるような事もしてないだろ」 佐天「まぁまぁ上条さん。これはただの照れか《ゴッ!》しですから」 木山「この頃すでに君の事が気にな《ガッ!》始め《ゴッ!》いた彼女は、こうやって気を紛《ゴンッ!》したのだろう」 上条「……あの~御坂さん? さっきから壁を蹴る音で全然話が聞こえないのですが…?」 美琴「いやー! この時の事を思い出してたら、急に壁が蹴りたくなっちゃってー! あっはっはっはっは!///」 上条「何ちゅう迷惑な!」 ――レベル0って欠陥品なのかな……―― 「ごめんね……気付いてあげられなくて……」 ――しょうがないよね……―― 「頑張りたかったんだよね……」 ――力が無い自分がいやで……でも、どうしても憧れを捨てられなくて―― 「うん……でもさ……だったらもう一度頑張ってみよ……こんなところでくよくよしてないで……自分で自分に嘘つかないで――――もう一度!!」 佐天「……」 美琴「……」 上条「どうした? 二人とも?」 木山「きみの能力は確か『天然』だったよね?」 上条「あ、はい」 木山「だったら、きみには二人の気持ちは理解できないかもしれないな。『努力』が必要なかったきみは『栄光』と『挫折』の本当の意味を知らないからだ。二人は友人同士ではあるが『栄光【レベル5】』と『挫折【レベル0】』の典型例でもあるのだよ」 上条「っ!! そんな言い方!!」 木山「事実だ。そして、それは二人の心に常につきまとう呪縛でもある。もっともレベル0でも、本当の『無能力者』でも佐天くんは強い。きみよりもはるかに強い」 上条「どういう意味だよそれ!! それじゃあまるで俺が――!!」 木山「分からないのかい? きみは『能力者』なのだよ。『異能の力を打ち消す』能力を持つ『能力者』だ。しかし、佐天くんには異能の力も物理的な力も防ぐ手段はない。それでも彼女は『能力以外の力』によって苦境を脱する精神力を有している。そしてそれはきみはもちろん、御坂くんにも無い力でもある。『能力に頼ることができる』きみたちには決して到達することができないからだ」 上条「――――!!」 佐天「いえ……それは多分、この時の御坂さんの超電磁砲が私のもやもやを吹き飛ばしてくれたからですよ……」 美琴「そ、そうかな……あ、でも今なら言ってもいいわよね、あの時の言葉を。んで、佐天さんも受け入れてくれるんじゃないかな?」 佐天「レベルなんてどうでもいいじゃない、ですよね? まあ全部ってわけじゃないですけど、今の私なら受け入れられるかな」 「水着のモデル?」 「はい…水泳部がお世話になってるメーカーから、どうしてもって頼まれたんです」 佐天「おお! これはあたし達がモデルやった時の話ですね!? みんなでカレー作ったりして、楽しかったな~」 木山「ほう。俗に言う『水着回』という物だね。サービスシーンも入れやすく、よくテコ入れとして使われる手法だ」 上条「…やけに詳しいですね」 美琴「……………」 上条「? どうした御坂? 黙っちゃって」 美琴「…何か…激しくイヤな予感がする………」 「え~っとぉ………あぁ、これじゃなくて、こっちか。 …おおぉ! う~~~やっほう! ランランランラーララー・ラ・ラーララー・ラ・ラーラーラーラーラーラーラ♪ あー、やっぱこれカワイイー! うはは! そぉ~っれっ! あはっ! ランララー・ラ・ランララー・ラ・ラーラーラーラーラ♪ そぉ~っれぇ~!」 「ビリビリ…何やってんだ…?」 「そぉ~れ、やっちゃうぞ~☆」 上条「………」 佐天「…………」 木山「……………」 美琴「…………………………い……… いいいいいいいぃぃぃぃぃやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!///」 上条「お、落ち着け御坂。この時の記憶は今の俺には無いから」 木山「だが今この映像を見たおかげで、新しく記憶したのだろう?」 上条「あ、はい。それはもうバッチリ」 美琴「いいいいいいいぃぃぃぃぃやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!///」 佐天「て言うか、あの時どうも御坂さんだけいないと思ったら、一人でこんな事してたんですね」 美琴「いいいいいいいぃぃぃぃぃやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!///」 木山「これ以上彼女にとどめを刺すのは、止めた方がいいみたいだね。御坂くんのライフはとっくに0のようだから」 「気にし過ぎ気にし過ぎ気にし過ぎ気にし過ぎ」 佐天「ん? ひょっとして『誰かが見てる』のお話?」 上条「何だそりゃ?」 木山「聞いたことがある。確か、微弱な電磁波のようなものを電撃使いに纏わりつかせて、あたかも四六時中、誰かの視線を感じさせて精神的に追い詰める悪戯のような機材を使った――」 美琴「何で真相まで知っているんですか?」 木山「一応、警備員の施設にお世話になったことがある身なんでね。この時期は、そういった犯罪関連の情報収集には事欠かなかったのだよ。本人からも話が聞けた場合もあったくらいだ」 上条「前科をここまで朗らかに明るく語れるってのも凄い話だ」 「ん? ようビリビリ」 「あんたのぉ~~~仕業かぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!」 「なにぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」 美琴「ねえ? さっきも言ったけど前のアンタは私を見かけるとちゃんと声をかけてくれるわね?」 上条「お前の対応は声をかけてもかけなくても変わんねえことはスル―すんのか?」 佐天「御坂さん、この時はいくら気が立っていたからってこれはないと思いますけど」 木山「まあ、彼の落ち度は今回は皆無だったからね」 上条「『今回は』って……」 「何しやがる!」 「とぼけんな!!」 「あん?」 「アンタでしょ……ここんトコ、私のことをジロジロ見てたのは……アンタだったんでしょぉっ!!」 「あの……一体何の話でしょう……?」 「だから! アンタが私を――!!」 「はぁ……ったく、だいたい何で俺がお前のこと見てなきゃなんねえんだよ」 「んな! ん……何でって……その……それは……」 「顔赤いぞ。熱でもあんのか?」 佐天「記憶を失くす前と後でも上条さんの鈍感さだけはまったくもって変わってませんね」 木山「御坂くんもそろそろ彼には遠回しに言っても届かないことを学習してもいいかもしれないね」 上条「遠回しに言ってることがあるのか?」 美琴「い、いや別にそれはその……///」 佐天「ですから上条さん。御坂さんの発言を言葉通りに取るんじゃなくて、言葉に秘められた意味を御坂さんの表情とか態度から読み取るんですって」 美琴「ちょ、ちょっと!?」 上条「????? 全然分からんのだが?」 木山「一度、きみの頭を切開して特に(感情を司る)右脳をいじくった方がいいのかもしれないな」 佐天「『あっ あっ あっ』ってヤツですね」 上条「え、何? 念能力の6つの系統の、最も簡単な判別方法を言えばいいの?」 「あ、いやぁ……そ、そのぉ……」 「ああ、すみません。ちょっとコイツがじゃれてきただけで……」 「ちょっと! 私は別に!」 「はいはい。分かったから。もうすぐ完全下校時刻よ。早く帰りなさい」 「こちらは異常なし。学生カップルの痴話喧嘩でした」 「かっ……!」 「……痴話喧嘩って……」 「ほら、さっさと帰れ」 「は、はぁ~~~い」 「か、か、か………」ぱたん 木山「ふむ…これが『ふにゃー』の走りというわけか」 美琴「って、何ですかそれ!?///」 佐天「しっかし、見知らぬ警備員から見てもお二人はそういう関係に見えるみたいですけど、上条さんはどう思います?」 上条「どう、って……まあ、最初の挨拶はともかく、俺から見てもそうとしか思えんかったが……」 美琴「ええええええええええええええ!? ななななななな何言っちゃってくれてやがりますかアンタは!!///」 木山「その割には複雑な表情をしているな?」 佐天「へ?」 木山「いや何、上条くんの表情だが、照れているとか戸惑っているとか言うよりも、むしろ何かを滾らせているような感じがしたのでな」 上条「まあ……この時期の記憶が俺には無いですから……」 佐天(おぉ! これはひょっとして嫉妬!? 嫉妬ですか上条さん!! 前の上条さんに嫉妬ですか!?) 美琴「佐天さん? 何悪い顔になってんの?」 佐天「御坂さん!? 気付いてないんですか!?」 美琴「何を?」 木山「上条くんの表情が何かを滾らせているような、がどういう意味かということだよ」 美琴「ん? どうせコイツのことだから、この時の私の態度を鬱陶しく思ってるだけなんじゃないの?」 佐天「えー……」 木山「どうやら鈍いのは彼だけではないようだね……」 「平素、一般へ開放されていないこの常盤台中学女子寮が、年に一度門戸を開く日。それが盛夏祭だ」 佐天「おっ! 次は盛夏祭ですか。寮監さん、心なしか張り切ってますね!」 美琴「ん~…このイベント、ちょっと恥ずかしいから飛ばしてほしいんだけどな…」 上条「何言ってんだ御坂。恥ならさっき、これ以上ないくらいかいたじゃねーか。もう何も怖くないって」 美琴「いいいいいいいぃぃぃぃぃやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!///」 木山「トラウマをほじくり返すのは、どうだろうか」 「別にこの格好でなくても、おもてなしはできると思うんだけど…」 上条「っ!」 美琴「あー、ほらー…変に思われてる……どうせ私にはメイド服なんて似合わないわよ……」 佐天「そんな事ないですよ! めちゃくちゃ可愛いじゃないですか! ねっ、上条さん!?」 上条「あ、あー、まぁ…うん。そう…だな」 美琴「いいわよ別に。無理して褒めようとしなくても」 木山(いや…彼のこの反応はむしろ、ドギマギしすぎて逆に何も言えないように見えるのだが…?) 「は~い、は~い、は~い…いいよぉ…」 「いいねじゃないわよ! 何でアンタが撮ってんのよ!」 佐天「白井さん、ブレませんねー」 美琴「あははははは……ははは…………はぁ…」 木山「ちなみに、この時の写真はまだ残っているのかい?」 美琴「いえ、この後私がビリっておきましたから、多分中のデータもないと思いますよ」 木山「だ、そうだよ少年? 残念だったね」 上条「なななな何がですか!!?///」 「…やば…何か胸がドキドキしてきた……あ~んもう! しっかりしろぉ!」 「あのぉ…」 「…? ………があぁっ! なっ!」 上条「あー、ここかぁ。以前こぼれ話で言ってた、記憶喪失後に初めて会った時って。うん、思い出した思い出した」 美琴「今頃ー!?」 佐天「じゃあ上条さん的には、この時が運命の出会いだった訳ですか!」 美琴「ちょ、だから佐天さんっ!!!///」 上条「運命…(う~ん…確かに、この後の御坂と俺の関係を考えると…)まぁ、そうだな。運命って言えるのかも」 佐天「!!?」 美琴「!!?///」 木山「ついにデレ期かい?」 「お取り込み中すいません…実は、一緒に来た連れと逸れてしまって……こ~んなちっこくて、白い修道服の女の子なんですけd」 「―――…こにいんのよ……」 「はぇ?」 「何でこんなとこにいんのかって聞いてんのよ!!!」 「ご、ごめんなさい。ああぁ、でも、怪しいもんじゃ…あ、ほら! 招待状だってちゃんと―――」 「人の発表、茶化しに来たわけ!? 慣れない衣装笑いに来たわけ!」 「いや…そんな…すげー綺麗だと思いますけ、どぉっ!?」 「バカああぁぁぁ!!!///」 「だあああああ!!!」 「何なのよアイツ! よりによって、人が一番テンパってる時に! ふっ! …あれ?」 佐天「ニヨニヨ」 美琴「な、何なのかしら佐天さん? その、やらしいニヨニヨ顔は…?」 佐天「いっや~? べっつに~? ただあの時、ステージの裏ではこんな事が起こってたんだなーって。あたしも見たかったなーって」 上条「そういや言ったな、こんな事…マジですっかり忘れてたわ」 美琴「アンタが余計な事言ったおかげで、私がどれだけパニクったか…」 木山「そうかな? 私には彼と話したおかげで、緊張が解れたように見えるのだが」 美琴「うっ! ま、まぁ…それはちょっと…無きにしも非ずですけど……」 佐天「でっ、でっ! その余計な事ってのは主にどの部分ですか!? 上条さんが、すげー何て言った所ですか!?」 美琴「もうそれ答え出てるでしょっ!!!///」 木山「では本人に直接聞いてみるとしようか。君はこの時彼女をどう思ったんだい?」 上条「いやだから、すげー綺麗だなって思いましたよ。普通に」 美琴「あああ、改めて言わなくていいからっ!!!///」 木山「と口では言いつつ、体は嬉しそうにクネクネしているね」 佐天「まぁ、御坂さんですからね♪」 上条「あ、でも」 佐天&木山「「?」」 上条「御坂って何着ても綺麗になるんじゃないかな… 勿論、この服が可愛いのもそうなんだけど、例えばモデルの人って、一般人からしたら『これは無いわぁ…』って思う服も自然に着こなしたりするだろ? そんな感じで御坂も、どんな服も似合っちゃうと思うんだよ。そうなると、普段制服しか着れないってのはもったいない気が―――」 美琴「///」 木山「少年、その辺で止めたらどうだろうか。彼女が煙を出し始めている。それ以上彼女の好感度を上げたら、爆発【ふにゃー】する恐れがあるよ」 佐天「いや! ここはあえて止めずに、限界ギリギリまで上条さんのお話を聞きましょう! せっかく本人も無意識に言ってるんですから!」 木山「さて、今回はここまでのようだね」 佐天「あー、もうですか…やっぱり楽しい時間って終わるのも早いですね…」 美琴「私はこの企画をやる度に、毎回何か大切な物を失っていく気がするわ……」 佐天「そうですか? あたしとしては、逆に得るものの方が多いと思うんですけど」 美琴「例えば?」 佐天「上条さんとの距離とか」 美琴「……まるで近づいた気がしないけど…?」 木山「果たしてそうかな?」 美琴「どういう事ですか?」 木山「もし彼の気持ちが全く君に傾いていないとしたら」 上条「―――でもだとしたら、『御坂が着る物なら何でもいい』って事になるのか? いや、それは何か違う気が―――」 木山「あれだけ延々と君の服装について考えたりはしないのではないかな」 佐天「てかまだやってたんですか! どおりで締めに参加してないと思いましたよ!」 美琴「い、いやアレは…普段から何も考えてないから、逆にくだらない事で頭を使ってるだけですよ///」 木山「そうかな。私にはそうは」 上条「あ、そっか! 御坂って元が可愛いから何着ても似合うのか。いや~、我ながら意外な結論……って、ん?」 佐天「木山先生ー! エマージェンシー、エマージェンシー!」 木山「あそこの壁に隠れたまえ! 緊急退避だ!」 上条「え、え、なになに?」 美琴「………………………ふny 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/こぼれ話
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/2970.html
Shall We Kamikoto? 「ちょ、ちょちょ、ちょろ~っとア、ア、アンタに頼みがその…あるんだけど、い、い、いいかしら!!?」「……ごめんなさい」目の前の少女の頼みを、少年は開口一番断った。不幸慣れしているこの少年は、このまま彼女の頼みとやらを聞いたならば、何か大きな不幸に巻き込まれるであろう事を察知したからだ。しかしその直後、光と共に「バリバリバリィッ!!!」という響き渡る。少年が咄嗟に右手をかざすと、『それ』は一瞬のうちに消え去った。「ちょろ~っとアンタに頼みがあるんだけど、いいかしら?」少女はニッコリ笑顔でテイク2である。ただし、頭の上の帯電音は継続中だ。これに対し、少年はというと、「カっっっ、じィ、KO、まっ、ィり、まぁあ、SHI、ぃだっっっ!!!」と『快く』承諾した。どっちみち不幸になるならば、とりあえず問題を先送りしようという、ダメな人の考え方である。「…で? その頼みとやらは、一体何なのでせうかね?」改めて、この少年こと上条は、彼女がどんな厄介事【たのみ】があるのか聞きだす。「はえっ!!? あ、えと……じ、実は今度、ま、学舎の園内の五校共同で企画される、 パ、パパ、パーティーがあるんだけど、そ、そそ、それにアンタも来てくれないかな~って……」「……パーティー?」学舎の園。レベル5二名を有する常盤台中学を筆頭に、五校ものお嬢様学校が共同運営している地帯である。そんな所が開催するパーティーだ。さぞや絢爛豪華で煌びやかな催しである事だろう。庶民代表の上条からすれば、パーティーなんてクリスマスか誕生日などの、子供騙し【こじんまり】サイズのヤツしか想像できない。そんな事を考えていたら、ふとある疑問が浮かび上がってきた。「……あれ? 学舎の園って男子禁制だろ? 俺なんか誘って平気なのか?」「ああ、それなら問題ないわよ。パーティーが行われるのは、学舎の園の中じゃないから。 男性でも入れるように、わざわざ第3学区(外部からの客を多く招く学区。基本的に建物は豪華) の高級ホテルを貸し切ったみたいだし。 それに強制じゃないしね。あくまで希望者だけが参加するパーティーなのよ」「そんな七面倒くさい事してまで、男を招き入れる必要あんのか?」「ああ…『その事』も説明しなくちゃなんないわね……」そう言うと、美琴は上条をジロッと睨んだ。何というか、嫌な予感しかしない。「な~んかこの前さぁ……枝垂桜学園の女子更衣室に忍び込んだ、 馬 鹿 な男がいたらしいのよねー!!!」ギクッ!として、上条は背筋をピーンとさせる。ちなみに美琴は、その馬鹿な男【はんにん】の顔も名前も知っているのだが、『あえて』伏せている。 美琴が言うにはこうだ。意外な事に、あれだけ大騒ぎだった痴漢騒動は、そこまで問題にならなかったようだ。(おそらく精神操作に長けたどこかのレベル5が、何かしらの裏工作をして騒ぎを鎮火させたのだろう)しかしむしろ、あれだけのパニックが起こってしまった事自体は問題になったらしい。勿論、学舎の園に侵入した男を許す事はできないし、セキュリティも更に厳重になった。だがもし、仮に、万が一。今後、同じような事があった時、それも、今回よりも悪質な犯人が侵入した時、またパニックになってしまっては元も子もない。なので運営側は、世間知らずの箱入りお嬢様達に、『対男性用特別談笑訓練』をさせる事にしたのだ。簡単に言えば、「お前らそのままだと社会に出た時苦労すっから、ちったぁ男に慣れとけ」という事だ。それが先程美琴が言っていた、パーティーの全容である。ちなみに招待される男性客は、運営側が厳選した、問題無し【コイツはあんぜん】と認可された者と、パーティー参加者が任意で連れて来る者だけだと言う。と、美琴から一頻りの説明を受けた上条は、「な…な~るほ~どねぇ~……」と呟きながら汗をダラダラ掻いている。そして何故か目も激しく泳いでいる。「そんな訳だからぁ…アンタに断る『権利は無い』わよねぇ…?」「はい!」それはもう、とても綺麗な返事だった。何か後ろ暗い事でもあるのだろうか。と、ここで上条は再び疑問に思う。「…あれ? でも、だとしたら何で美琴まで参加するんだ? お前は相手が男だからって物怖じような性格【タイプ】じゃないだろ?」今度は美琴がギクッ!とする。この男は、いつも肝心な所で鈍感なくせに、たまにこういう鋭いツッコミをする時があるのだ。ただし本人は無自覚で。「えっ!!? あ、あーほら!! せ、せせ、先生方に頼まれちゃったのよー!! い、一応私、常盤台の代表みたいにされちゃっててさー!! こ、断るのも悪いし!? そそ、それにアレよ!! もし問題が起こっても、 私なら能力【ちからずく】で男なんで黙らせられるし!? つ、つつ、つまりボディガードとか用心棒とかSPみたいなものよ!!!」「いや、前半の理由はともかく、後半のは完全に風紀委員とか警備員の仕事だろ。 美琴がレベル5で強いのは分かってるけど、そこまでする必要ないんじゃないか?」「ううううっさいわね!!! べ、べべ、別に何でだっていいでしょ!!!?」「え~…? 何故にわたくしが怒鳴られなければならないのでせう…?」理不尽(?)に怒られる上条。美琴ととしても、本当の理由を言える訳がない。「えっ!? パ、パーティー!? し、しかも好きな相手を選んで連れて来ていいなんて…… も、もも、もし!! もしもよ!!? あ、あああ、あの馬鹿を誘ったら、 一緒に社交ダンスとか!!? しちゃったり!!? って、ててて事は、一緒に手とかも繋いで、一緒に抱き合ったりして、 『美琴のドレス姿…とても綺麗だよ……あ、あれ? 何で俺、今日こんなにドキドキしてるんだ…?』 とかなんとか言われちゃったりなんかしちゃったりして!!!? ………ふにゃー」などと想像していた事など、言える訳がないのだ。そんなこんながあった訳で、その日パーティーが開始される。 パーティー当日。レンタルの礼服を着込んだ上条は、会場から少し離れた所で美琴を待っていた。運営側が選んだ男性は顔パスで入場できるのだが、そうじゃない者は、パーティーに参加する女性と同伴でなければ入れないのだ。故に、上条は美琴が来なければ会場に足を踏み入れる事ができないのである。もっとも、そうじゃなくてもこんな格式高い【ばちがいな】所に一人で入るなど、上条にはできなかったとは思うが。腕時計にチラリと目をやり、「美琴遅いなぁ…」などと考えていると、ある人物が話しかけてきた。「おや? あなたもパーティーに参加を?」「か…垣根!?」垣根帝督…の一人、とでも言うべきか。未元物質から生まれ、自我を持った、元・カブトムシ05。さすがに端整な顔立ち【イケメン】なだけあって、タキシード姿も中々様になっている。……このタキシードも、自分の能力で具現化した【つくりだした】のだろうか。それにしても、彼がこんな格好でここにいる、という事は……「えっ!? お前も参加者なのか!?」「ええ、私は運営に呼ばれたクチでして。おそらく理由は、レベル5という集客力【ブランド】でしょうね。 その証拠に、第一位の彼にもお声がかかったらしいですから。 もっとも、彼は蹴った【ことわった】みたいですけど」「ああ、まぁ……一方通行【あいつ】は呼ばれても来ないだろ…キャラ的に……」最近は丸くなったとはいえ、人格破綻者で有名なお二方【レベル5】に招待状を送るとは。本当に運営側は、ちゃんと厳選したのかと疑いたくなってくる。ちなみに、同じレベル5でも、『あの』ナンバーセブンは呼ばれなかったようだ。彼は少々型破り【はてんこう】すぎて、お嬢様方には刺激が強すぎる、という見解らしい。まぁ、分からんでもない。「では私はこれで」と言い残し、垣根は会場へと入っていった。再び一人となり、待ちぼうけを食らっていると、「お…お待たせ……」待ち人がやって来た。「あー、やっと来たか。遅かっ…た……な…?」思わず見とれた。パーティードレスに身を包んだ美琴は、古くさい言い方かも知れないが、まるで絵本に出てくる姫のようだ。と、上条は思っていた。「ど……どう…かな…?」「…えっ!? あ、あぁ…その……き、綺麗…だ、と思う………」「!!! あ、あああありがと……」「……………」「……………」お互い顔が真っ赤に染まり、気恥ずかしい沈黙が流れる。しかし、いつまでもここで時を止めている訳にはいかないので、「じゃ、じゃじゃじゃあ、そろそろ会場に入るか!!」と上条が美琴の手を取る。偶然かつ無自覚だが、上条がエスコートする形となった。美琴の頬に、ますます赤みが差したのは言うまでもない。 会場に入ってまず目に飛び込んできたのは、おいくら億円なのかも分からない、どでかいシャンデリア。インデックスがいたら目をキラキラさせるであろう、一皿ウン十万の料理の数々。お金持ちオーラが溢れ出ている、紳士淑女の皆々様。上条は思った。「俺、完っ全に浮いとるがな!」と。だが辺りをキョロキョロ見回すと、中には見覚えのある顔もチラホラ。入り口付近には先程の垣根。巡回しながら周囲を監視しているのは警備員で体育教師の黄泉川。奥で女性に囲まれているのは常盤台中学理事長の孫、海原(多分『本物』)。料理を忙しなく運ぶのは、繚乱家政女学校も生徒だ。土御門舞夏や雲川鞠亜の姿もある。上条は思った。「良かった~、知り合いがいて~」、と。と、ここで美琴が俯いたまま黙っている事に気づく。「どうした? 美琴」「………手…」「手?」視線を下にずらす。美琴の手を握る自分の手。「…? ……あっ!! あ、あー…スマン。…嫌だった、か…?」「べ、別に嫌じゃ!! 嫌じゃ…ない…けど……」「えっ…あ……そ、そうか…?」「……………」「……………」再びピンク色の沈黙が流れる。だがここで、この二人だけの空間に割って入る、ちょっと空気の読めない子が美琴に話しかけてきた。「あら? 御坂さんじゃありませんこと?」「…ふぁえっ!!? あ、ああ! 婚后さんも来てたのね!」「当然ですわ! このような催しには、わたくしの様な華が必要ですもの! け、決して『もしかしたら今日、運命の殿方にお会いするかも知れませんわ!』 などと期待した訳ではありませんわよ!?」「そ、そう…?」ちなみに、さすがに一人で来るのは怖いからって、湾内や泡浮も誘った事はここだけの秘密である。その二人は水泳部の都合で少し遅れているらしく、まだ来てはいないのだが。それにしても、と婚后は美琴の隣の男性に目をやる。「それで…その……こ、こちらの御方が御坂さんの…と、殿方ですのね…?」「えっ!!? あ、ちち、違―――」美琴が否定する前に、婚后は上条と握手する。「わたくし、御坂さんのお友達をさせてもらっています、婚后光子と申しますわ。 よろしくお願いいたしますわね」「ああ、こちらこそヨロシクな」「……その…御坂さんを大切にしてあげてくださいね。 もし彼女を傷つける事があったら…わたくしが許しませんわよ」婚后の真剣な眼差しに、上条も真剣に答える。「ああ、約束するよ。美琴とその周りの世界を守るって誓ってるからな」それは海原【エツァリ】との約束の言葉だった。が、その言葉を初めて聞いた婚后は、(い、いいい今! この方さらりとプロポーズの言葉を仰いませんでした!!!?)と勘違いし、瞬時に顔を真っ赤に染める。そして美琴も真っ赤に染める。「お、おほほほほ! し、しし、心配はご無用のようですわね! でででは、わたくしはこの辺りでお暇させていただきますの!」何か急ぐように、婚后はこの場を去って行った。「…急に慌ててたな……どうしたんだ? あの子」「ささささぁ!!? どどどどうしたんでしょうね!!?」ポカーンとする上条とは対称的に、ひたすらテンパる美琴であった。 上条は今現在、初めて食べる原価5桁以上のお食事に、感動しながら舌鼓を打っている。「うおっ!? 美味すぎるだろこれ!! この…えーっと……名前も知らないけど、この魚料理!!」「そ、そそ、そうね!!!」と一応返事する美琴だが、正直、味なんて分からない状態になっていた。度重なる上条からの攻撃に、もはやノックアウト【ふにゃー】寸前だったりするのだ。「もぐもぐ……そういや、飯食った後はダンスして終わりなんだよな? 確か。 何か…意外とシンプルっつーか、あっけないな。 学舎の園主催のパーティーって言うから、もっとド派手でとんでもない事すんのかと思ってたよ」「ま、まぁ、パーティーって言っても、あくまで男性に慣れる為の訓練だからね。 初めての試みだし、軽めのプログラムにしてあるんじゃない?」この、2時間程で終了する短いパーティーのプログラムは、立食及び談笑。終了間際に行われる社交ダンス。その2点のみという、非常に簡素なものだった。美琴の言う通り、徐々に慣らせる為なのだが、世間知らずなお嬢様方にはそれでもかなり刺激的だったらしく、美琴の「軽め」という感想とは裏腹に、割とテンパっている者も多い。主に婚后さんとか。「けど、俺ダンスなんてやった事ないぞ? どうすんだ?」「べ、別に無理してやんなくてもいいわよ……」基本的に、上条に対して素直になれない美琴は、「私に合わせて動くだけで大丈夫よ」とは、言いたくても中々言えない。先日は、「も、もも、もし!! もしもよ!!? あ、あああ、あの馬鹿を誘ったら、 一緒に社交ダンスとか!!? しちゃったり!!? って、ててて事は、一緒に手とかも繋いで、一緒に抱き合ったりして―――」などと妄想していたくせに。と、ここで突然、誰かが上条の右腕に抱きついた。「あらぁ~。それなら、私と一緒に踊ってくれないかしらぁ?」「おわっ!?」「……ゲッ!」「もう御坂さんってばぁ、人の顔見るなり『ゲッ!』だなんて、ちょっと失礼力が高いんじゃなぁい?」誰かが、というか、食蜂が、である。「…まさかアンタまで参加してるとは思わなかったわ…… っていうか、いつまでくっついてんのよ!! とっとと離れなさいよ!!」「そんなの私の自由力でしょぉ? それにぃ、上条さんだってこうされてる方がいいわよねぇ?」「い、いや…それは、その……な、何と言いますか……」「アンタもアンタで!! 何デレデレしてんのよ馬鹿っ!!!」右腕から伝わってくる、とてもやわらか~い感触に、思春期真っ只中の上条さんが何も感じない方がおかしい。「ちょうど退屈力が過ぎるんで帰ろうとしてた所だったんだけどぉ、 上条さんがいるなら話は別なのよねぇ。 しかも御坂さんはダンスに誘わないみたいだしぃ、私と踊ってもいいでしょぉ?」美琴と違ってグイグイ来る食蜂である。こういった経験に慣れていな上条は、ただただ赤面しながらワタワタしている。だが、そんな上条の様子を見て「イラァッ!」としたのと、食蜂への対抗心から、美琴は勢いに任せてこんな事を言い出した。「駄目に決まってんでしょ!!? こいつは私が連れてきた、私のパートナーなんだから!!! ダンスだって私とやるんだから!!! だから絶対に駄目なのっ!!!!!」「うえっ!? さっき無理ならいいって言ってたじゃんか!? 急にどうした―――」「何か文句ある!!?」「―――いえっ! 何にもないッス!!」反論しようとするも美琴にギロリと睨まれ、即座にイエスマンと化す上条である。「ほらっ! もう行くわよ!!」「あっ、いやでも、俺まだこれ食ってる途中―――」「い・い・か・ら・!!!」「―――はいっ! かしこまりました!!」反論しようとするも美琴にギロリと睨まれ、即座にイエスマンと化す上条である。先程とは逆に、今度は美琴が上条の手を取る形で歩き出す。あっけにとられていて、そのまま二人を呆然と見送ってしまった食蜂は、その後ハッ!と我に返ったのだが、その時には既に二人が人混みに紛れてしまっており、運痴な彼女には追いつく事ができなかったのだった。 ズンズンと歩く。「おい、美琴?」美琴は上条の右手をしっかり握り、ズンズンと歩く。「美琴ってば! 聞いてんのか!?」「うっさいわね聞いてるわよ!! 何なのよ!!」「いや、何なのよはこっちのセリフではないでせうか!? 何で急に怒ってんだよ!」「怒ってなんかないわよ馬鹿っ!!!」「…怒ってんじゃねーか」「怒ってないって言ってんでしょ!!?」確実に怒っているように見える。しかし上条には、美琴が不機嫌になった理由が皆目見当もつかない。「いい加減、機嫌直せって。えーっと…ほら! か、可愛いお顔が台無しですぞ~…? なんて……」とりあえず冗談を言ってみる。これで機嫌が直ってくれたら御の字だ。美琴も「可愛い」の一言で一気に嬉しさがこみ上げてきたが、今自分はお怒りモードなのだという事を思い出し、あくまでツンツンした態度を貫き通す。「きゅ、急にそんな事言ったって、べ、別に嬉しくとも何ともないんだから…… アンタに…か、かか、可愛いとか言わりぇても…じぇんじぇん…平気…なんらかりゃ……」ツンツンした態度をとろうと頑張ってはいるのだが、完全にデレッデレである。顔なんかもう、緩みきっているし。完全無敵の電撃姫も、上条さんが相手だと、良く言えば恋する乙女、悪く言えばちょろインと化すのである。しかしそこは鈍感王上条。こんなに分かりやすくデレている美琴を目の前にして、(う~ん…やっぱそううまくはいかないか……どうすりゃ機嫌直すんだ?)などと、とりあえず一発ぶん殴りたくなるような事を考えている。と、ここでどこからともなく、クラシック調にアレンジされた「ムーン・リバー」が流れてくる。きっと社交ダンスの時間が始まったのだろう。たかだか十数分の社交ダンス為に、わざわざオーケストラ楽団を呼ぶあたりは、さすが学舎の園主催と言わざるを得ない。だがこういった雰囲気に全く縁のない上条は、(この曲…ローマの休日でオードリーが歌ったヤツだっけか?)などと、どうでもいい事を考えている。ちなみに、オードリー・ヘップバーンが「ムーン・リバー」を歌った映画は、「ローマの休日」ではなく、「ティファニーで朝食を」だ。しかし今はそんな事を考えている場合ではない。とりあえず今は、美琴の機嫌をどうにかしなければ、後々怖い事になり兼ねない。(美琴的には、実はもうご機嫌だったりするのだが、上条はその事に気づいていない)なので上条は、こんな提案をしてきた。「あ、あのさ! やっぱせっかくだし、踊らないか!? ほ、ほら。周りでダンスってないのって、俺たちだけだしさ。このままだと逆に恥ずかしいし」そう言って、美琴の目の前で手を差し伸べる上条。上条としては、「美琴ってもしかして、ダンスがしたかったんじゃねぇのかな?」と思ったからそう提案した訳だが、鈍感な上条にしては珍しく『半分』も当っている。もう半分は、『上条と』ダンスがしたかった、という所なのだが、さすがにそこまでは気づかない。美琴としても、勿論嬉しい申し出ではあるのだが、あまり乗り気じゃなかった上条からのまさかのお誘いに、一瞬、頭の働きが止まる。そんな美琴を知ってか知らずか、上条はとどめの一言を放ってくる。「えっと…あれだ。シャ…シャル・ウィ・ダンス?」「は……はい…………」何だか頭がポーっとしたまま、美琴はその手を取るのだった。 ぎこちなくステップを踏む男女が一組。上条は元から慣れていないから仕方ないとして、社交ダンスの心得がある美琴までワタワタとしている。「お、おい、次はどうすんだ!?」「え、えと…オーバーターンからターニングロックを―――」「分かんねーよ!! ターンってどっち!? 俺!? それとも美琴!?」てんやわんやである。正直、優雅さの欠片もない。だが周りからは、そんな二人がなぜかお似合いに見えていた。「……ありがとね。無理してついて来てもらって」リードしながら、美琴は今日の事に感謝する。「あーまぁ、気にすんなよ。俺も美味いモン食えたし、こうして貴重な体験もできた訳だしさ」「アンタは…その……た、楽しめた…?」「そうだな。わりと楽しかったと思うぞ?」「なら…良かった」ふっと優しく表情を緩める美琴に、上条は思わず「ドキッ」とする。『それ』の正体が一体何なのか、一瞬上条の頭の中を過ぎったが、頭をブンブンと揺らし、それを振り払う。だがそんな事をしていたせいで、「も、もう少しゆっくり……きゃっ!!?」「おわっ、危ね!!!」上条が美琴のドレスの裾を踏んでしまった。二人はバランスを崩し、そのまま壁にぶつかる。「いってて…わ、悪い美琴! どっか怪我と…か…?」「いったぁ~! もう、ちゃんとしてよ…ね…?」目を開けると、二人の顔は間近に迫っていた。二人はお互いに見つめ合い、ありえないほど心臓をバクンバクンさせていた。この体制から、次に想定される行動は勿論―――(い、いやいやいや!!! 待て待て待て上条当麻!!! 俺のせいで壁に押し付けたあげく、『今考えてるような事』を無理やりしちまったら!!! それはもう、確実にアウトだろっ!!!!!)ふう~~~っと深く息を吐き、理性を取り戻そうとする上条。ゆっくりと美琴から離れようとする。が、「み、美琴っ!!?」「……………」美琴は上条の首に手を回し、何かを決意したかのように、上条の顔を見上げたままギュッと目を瞑る。さすがの上条でも、それが何を意味するかは分かる。ドクン!と上条の中で何かが弾け、そのまま唇を重ねるように―――しようと顔を近づけた瞬間、実は会場に来ていた白井(常盤台生だがパーティーの参加者ではなく、風紀委員として警備にあたっていた)のドロップキックが上条の当頭部に炸裂した。この日、二人のパーティーを締めくくったのは、顔面がめり込む程に激しい、上条と会場床の熱い口付けだったという。ちなみに翌日。「うぅ~…まーだ頭がズキズキするよ…白井のヤツ、思いっきり蹴飛ばしやがって…… そう言や、あの後どうなったんだ? 頭打ったせいか、ダンスからの記憶が曖昧でさ。 美琴なら覚えてるだろ?」「しゃしゃしゃしゃあ!!!? わわ、わらひもじぇんじぇんおびょえてにゃいきゃら!!!!!」「そっかー……な~んか大事な事があったと思ったんだけどなー……」幸か不幸か、『あの時』の記憶をなくした上条はひたすら首を捻り、逆にしっかり覚えている美琴は、暫くまともに会話する事もできなくなってしまったのだった。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/3257.html
とある新米の恋人同士【ウブカップル】 10月25日。木々の葉は鮮やかな紅に染まり、冷たい風が肌に刺さるこの季節、寒さも忘れる程に顔をポカポカさせながら帰宅デートをしている、一組のカップルの姿があった。上条当麻と御坂美琴。二人は現在、プラトニックなお付き合いの真っ最中だ。傍から見ても付き合いたてなのだと分かる程に初々しいその二人は、微妙に距離を開けつつも手はしっかりと握って歩いていた。いや、「手」というよりも「指」と言った方が正確だろうか。二人は、お互いの小指と小指を絡ませて(指切りのような形)いたのである。手は繋ぎたいが、そこまで行く勇気がないのだろう。「あ、あのさ! 寒くはないか!?」「べあっ!!? あ、あああの、その……だ、だいじょぶ……です…」「そ…そっか」上条から話しかけるが、どうも会話が続かない。付き合う以前は友達感覚だったので気軽に話せたのだが、しかし関係が恋人になった今、何だかギクシャクしてしまっているようだ。何しろ二人とも、お互いがお互いに初めての恋人なのだ。どうすればいいのか分からないのである。もっとも間に流れる空気は気まずさだけでなく、心地良い甘酸っぱさも漂ってはいるが。だがその後は結局、無言のままに常盤台の女子寮に着いてしまった。「あっ、じゃ…じゃあ俺はこれで……」彼女を無事に寮へと送り届けたので、そのまま自分の寮へと帰ろうとする上条。しかし回れ右をした彼氏の制服の裾を、美琴はくいっと引っ張った。「え……み、美琴…?」上条が振る向くと、美琴は真っ赤な顔を下に向けながらモジモジしていた。「あっ…あ、の……えと…」きまりが悪そうに口ごもっていたが、やがて意を決したように顔を上げる。勇気を出して上条の目を見つめながら、美琴は言った。「あっ! あの! きょきょ、今日は黒子が風紀委員の仕事で帰ってくるの遅いんだけど! よよよ良かったら! 私の部屋【うち】に寄ってかない!!?」「うえっ!!!?」(美琴としては)かなり大胆なお誘いだ。上条も『彼女の部屋に入る』というのは初めての経験(以前、美琴の部屋には入った事はあるが)で、ドギマギしたが、ここで断ったら男が廃るという物だ。上条は照れ隠しに自分の頬を指でかき、「わ、分かった。けど買い物あるから、す、少しだけな?」と了承する。瞬間、美琴は顔を赤らめたままヒマワリのような笑顔を浮かべ、「うんっ!」と心の底から嬉しそうに返事をした。それを見た上条は美琴に負けず劣らずの赤面して、片手で顔を覆いそっぽ向いた。(くそっ! 反則すぎるだろ、それ!)心の中で、そんな事を思いながら。 美琴のベッドと白井のベッドに挟まれた空間で、上条は正座をしながらキョロキョロと部屋を見回していた。以前来た時は余裕も無かった(というか、それ所じゃなかった)が、改めて見ると、やはり女の子らしく可愛らしい内装をしており、自分の住んでいる男部屋(とは言っても上条の部屋には、女性二人と猫一匹が同居しているが)とは違うな~、と実感していた。「あ、あんまりジロジロ見ないでよ。……恥ずかしいじゃない」口を尖らせてキッチン(寮の厨房ではなく、部屋に備え付けてある簡易キッチン)から出てきた美琴は、両手でトレイを持っていた。トレイの上には、ご丁寧にお茶のセットが乗せられている。カップもポットもソーサーも、その手の目利きが素人な上条でも一目見れば分かる程に、高級感というセレブオーラが溢れていた。上条は自分の不幸で割ってしまったら弁償できないのではないかと、嫌な緊張が走る。もっとも美琴サイドとしては、例えカップを割られた所で何とも思わないのだが。「おいしい茶葉がね、手に入ったの」言いながらカップに紅茶を注ぐ美琴。その横で上条は、トレイの上にティーセット以外の物がある事に気付く。「これ…カップケーキだよな?」お茶請けだろうか、そこには黄金色のカップケーキがちょこんと置かれている。「あ、うん。昨日パンプキンケーキ焼いてみたの。…試作品だけどね。 ほら、もうすぐハロウィンだから友達に配ろうと思って」「へぇ~、美琴の手作りなのか…」試作品とは思えない程の完成度だ。店で売っている物と並べても、おそらく見分けがつかないだろう。「食べてもいいんだよな?」「う…うん、まぁ、その為に持ってきたんだし……あっ、でも美味しくなかったらごめんね…?」不安そうに見つめる美琴。上条はそんな美琴の不安な心を払拭するかのように、「ガブッ!」と勢い良くケーキにかぶりつく。そして一言。「うんまっ!!! 何これ!? マジで手作りなん!?」お世辞でも何でもなく、本心からそう言った。上条の素直で、尚且つ嬉しすぎるリアクションに、美琴は自分の胸を押さえて俯いた。(ズ…ズルいじゃない……そんなの…)心の中で、そんな事を思いながら。しかしやられっ放し(実際には、上条も美琴に『やられている』のだが)なのは癪だ。美琴はここで、ある仕返しに出る。ハロウィンという味方を付けて。「ね、ねぇ……アンタは持って無いの…? …お菓子」「……へ?」紅茶を飲もうとカップに口を付けようとした上条だったが、ふいに美琴からそんな事を言われて、そのまま固まった。「え、いや…持ってないけど……っていうか、ハロウィンはまだ先だろ?」「でも私のお菓子、食べたじゃない」「……まぁ、そうだけど」美琴の持ってきたカップケーキは本番に作る用の試作品で、しかも持ってきたのは美琴自身だ。若干釈然としない気はするが、しかし「お菓子を持っていないのか?」という問いに対しては間違いなく「YES」なので、素直に頷く。「じゃ、じゃじゃじゃじゃあ! イイイ、イタ、イタ、イタズラしなきゃねっ!!!」上条が首を縦に振ったのを合図に、美琴は大声で叫んだ。それは自分自身を鼓舞して、恥ずかしさから逃げ出さないように追い込む為でもあった。「な、何す―――――」 「何するつもりなんだ?」、上条がそう言おうとした瞬間、美琴はイタズラを決行していた。―――ちゅっ…―――上条の唇から数㎜ずれた場所に、美琴の唇が当たっていた。それは所謂、一般的に「口付け」と呼ばれている行為だ。美琴は顔を限界まで赤く染め上げている。手を握る事すら容易にままならないのに、今日は少々勇気のキャパシティを超えているようだ。上条も、美琴同様に顔を茹で上がらせた。「ばっ!!! なな、な、何をしていらっしゃりますかっ!!?」「…だって……イタズラ…だもん………」美琴は今にも泣き出しそうに肩を小さく震わせながら、か細い声を振り絞った。その健気で可愛らしい仕草に、上条は思わず、「っっっ!!!!? ふぇっ!? ちょ、どど、どうしたの急に!?」美琴をギュッと抱き締めていた。「……上条さんからもイタズラです」「な、何でよ! 私は、お菓子、ちゃんとあげたりゃらいの……」心臓がドキドキしすぎて、ろれつが回らなくなってくる美琴。しかし、そんな既にギリギリな状態の美琴に、上条は更なる追撃を仕掛けてくる。「な、なら本番のハロウィンの練習って事で……」「れ…れんひゅう…?」「ああ、本番はその……」上条は美琴の耳元で、トドメの一言を囁いた。「…本番は…もっと凄いイタズラをしてあげますですよ」この直後、美琴は限界に達して「ふにゃー」した事は言うまでもないだろう。 ◇あれから数十分。美琴が気絶から回復した時には、もう白井が帰ってくる時間だった。顔も頭もまだポワポワしているが、お見送りはしっかりとする。「じゃあな」「う…うん、気をつけてね……」他の寮生に見つからないように、美琴の協力の下こっそりと女子寮を出た上条だったが、何を考えたのか「あ、そうだ」と言いながら、正面玄関前で立ち止まった。「どうかした? もしかして忘れ物?」「ん…いや、そういう訳じゃないけど…」上条は「うん、よし!」と何か気合を入れた後、美琴の方に振り向いた。「あのさ、こんな事言うのは上条さんのキャラに合わない気がしてやめようとしたんだけど、 でもやっぱり、どうしても言いたいから言うな」そして上条は。「美琴…大好きだ」シンプルで、ストレートな一言。それだけ言うと、上条も恥ずかしいのか、そそくさと逃げるように帰って行った。取り残された美琴は、徐々に小さくなっていく彼の背中を見つめながら、「……やっぱり…ズルい…」と呟いたのだった。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1290.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/どこにでもあるハッピーエンド 好きの先にあるもの バスに乗ること十分、さらに歩くこと十分、上条達はようやく目的地である御坂家の前に到着した。学園都市を昼過ぎに出発したこともあって、時刻はもう夕方になっている。 「何年ぶりかしら、家に帰ってくるのなんて」 夕日に染まった久しぶりの我が家を見て、美琴が感慨深げに呟く。 「へえ、そんなに帰ってなかったのか」 「うん。長期の休みなんて普段以上に能力鍛えるのに必死で、家に帰るなんて発想自体なかったから、正直言って」 「そっか、本当にお前って努力家なんだな」 「大したことないわよ。でも、ちょっとは見直した?」 「見直すというより尊敬した。まあそんなことよりさっさと家に入ろうぜ」 上条の言葉にこくりとうなずくと美琴はインターホンを押した。しかし、家の中からは何の返事もない。 首を傾げながら美琴は何度かインターホンを押した。だがやはり家の中からは何の返事もない。 「美鈴さん達、俺達が来ること忘れてるんじゃないだろうな」 「そんなわけないでしょ、ちゃんと電車の時間まで伝えたんだから」 「けど返事がないぞ」 「そうね……」 上条達が首を傾げていると、突然彼らの背後に人の気配がした。 気配を察して上条達が背後を見た瞬間、美琴に何者かが抱きついた。 「お帰りー、美琴ちゃーん!」 「か、母さん!? ち、ちょっと、いったい何!?」 美琴は自分に抱きついた人物、母である御坂美鈴に向かって大声を出した。 「あー、この人、相変わらずのテンションだなー……」 美鈴のテンションに上条があきれかえっていると、がちゃりと御坂家の玄関が開いた。上条がそちらに目を向けると、家の中から上条の父である上条刀夜と、母である上条詩菜、そして上条の記憶にない男性が出てきた。 「もう、いきなり何すんのよアンタは!」 「だって美琴ちゃんを驚かせたかったんだもん」 美琴に怒鳴られても反省するそぶりをまったく見せることもなくニコニコと笑っている美鈴を見て、美琴は盛大なため息をついた。 「本当にどうしようもない母親ね。そう思わない、当麻……当麻?」 側にいるはずの上条に話しかけた美琴だったが、その上条からは返事がなかった。訝しげに上条の方を見た美琴は、彼の様子を見てはっと息を呑んだ。 いや正確には上条ではなく、上条が向かい合っている男性を見て、である。 「え、えっと……」 上条は自分の記憶にないただ一人の男性を見た。 見たところ父、刀夜と同じくらいの年齢だろうか。身なりそのものはいいようだが、スーツをラフに着こなすその様や、整った顔立ちに整っていない顎髭を蓄えたその一種独特な風貌から、一見すると裏家業の人間に見えないこともない。 さらにその男性は先ほどから値踏みをするかのように、上条をじっと見ている。 上条はごくりとつばを飲み込んだ。 この男性の正体ははっきりしない。だが御坂家から出てきて自分と美琴を出迎えた人間であるという事実、そして未だ収まらない自分に対する威圧するような視線から上条は男性の素性に目星を付け、ばっと頭を下げた。 「は、始めまして。俺、じゃなくて私、み、美琴、美琴さんとお付き合いさせてもらっている上条当麻といいます。そのこれから、どうぞ末永くよろしくお願いします。あの、美琴さんのお父さん、ですよね?」 しかし男性は何も答えない。 不審に思った上条が頭を上げると、男性は困ったような笑みを浮かべていた。 「まあ年長者に対して名前も含めて自分から名乗るところなんかは礼儀として間違っちゃいないし、この状況で俺が美琴の父親だって判断するのも妥当だな。けど、君のその挨拶って冷静に考えると結構凄い内容だよな」 「へ?」 「だって、まるで『娘さんを僕にください』って言いかねない勢いだったろう、今の君の挨拶って。なにしろ初対面である彼女の父親に、いきなり付き合ってることを言うんだから。普通は始めましてで終わらないか?」 「あ、その、えと……」 「いやいやすまない、少々意地悪が過ぎた。こちらこそ始めまして、美琴の父、旅掛だ」 旅掛は苦笑いを浮かべながら上条に右手を差し出した。 「は、はい、よろしくお願いします」 上条も同じように右手を出し、旅掛と握手を交わす。 「ふむ、否定しないところを見ると、さっき俺が言ったことはまんざらでもないってことか」 「はい?」 「君のことは妻や、そちらにいらっしゃる君の父上から色々聞いていてね、まあいくらか知ってはいるんだがこうして対面すると、改めて色々わかってくる。なるほどな」 「あの、御坂さん?」 状況にまったく付いていけていない上条の疑問をよそに、旅掛は一人納得しながら話をどんどん進めていく。 「ああ、俺のことは『旅掛さん』とでも呼んでくれたらいいから、妻のことも『美鈴さん』で構わない。妻は以前、君にずいぶん世話になったらしいからね、夫の俺が特別に許可しよう。で、俺としては美琴のことなんかも含めて君とは色々話があるんだが」 そこまで言うと旅掛はチラリと美鈴を見た。 美鈴は黙ってうなずく。 「長旅で疲れているだろう、まずは家の中に入ることにしよう。さあ、上条さん達もどうぞ遠慮せずに」 「ほら美琴ちゃん、ちゃっちゃと入っちゃいましょう」 「え、ちょっと母さん、いきなり何を!?」 突然美鈴に背中を押された美琴は家の中に入っていった。それに続く美鈴と旅掛。 そんな三人をぼうっと見ていた上条の肩を、ぽんと刀夜が叩いた。 「ほら、何やってるんだ当麻。私達もお邪魔しよう、もう準備はできているんだ」 「え、準備って?」 「すぐにわかるさ」 上条は訝しげな表情を浮かべながらも渋々うなずくと、御坂家の玄関をくぐった。 「なあ美琴、これってやっぱり」 「それしかないでしょうね、どう見ても」 和室に通された上条は、先に入っていた美琴の側にすっと寄ると小声で話しかけた。 「ということは、旅掛さんがいるからって俺は歓迎されてないわけじゃないんだよな」 「……なんでそういう感想が出るわけよ。どこをどう見ても普通に歓迎されてるでしょ」 「あはは」 上条達は和室の中を見回した。 広めの和室の中央に置かれた大きなテーブルの上にはお寿司などといった料理が並べられており、どう見ても美琴の言う通り客人をもてなす準備が出来上がっている状態だった。 だが上条には一つだけ疑問があった。 「なあ、こういう時って普通家族ごとにかたまるんじゃないのか? なのになんで今回は親達四人並んでるんだ?」 上条家も御坂家もそれぞれ三人家族で合計六人。ならば今回のような場合ではテーブルの一辺に三人ずつ家族ごとに集まって座り、家族同士が向かい合うよう、例えばお見合いのような座り方にするのが普通だと上条は思ったのだ。 けれど今回はテーブルの一辺、部屋の上座に位置する方に親達四人が既に座っており、それに向かい合う形で二人分の座席が用意されていた。 その二人分が自分と美琴の席であることは間違いない。 「なんで?」 「知らないわよ。でもこういう配置ってことは、こう座れってことでしょ」 「だよな」 首を傾げながら席に座った美琴に続いて、上条も美琴の右隣に座った。 「なんか、緊張するな」 「何ビビッてるのよ。気にしたら負けよ」 美琴と二人並んで両親達に向かい合った上条の心は、両親達が何を考えているのかがわからないため、妙な緊張感に包まれていた。 「さあ、みんな揃ったわね」 そんな上条の緊張を知ってか知らずか、二人が座ったことを見て取った美鈴が明るい声を出した。 「それでは、改めてお帰りなさい、美琴ちゃん。そして、お久しぶり、御坂家へようこそ上条くん」 「……ただいま」 「ど、どうも」 憮然とした表情の美琴と緊張した面持ちの上条。 そんな二人を見て美鈴はつまらなさそうに口を尖らせる。 「もう、二人ともノリが悪いわよ」 「仕方ないでしょ、帰ってくるなりいきなりこんな宴会準備OKみたいな場所に通されたんだから。一息つくくらいさせてよね。それにこの座り方、妙な思惑を感じるし」 美琴の反論に美鈴は軽くため息をついた。 「思惑じゃなくて親の気遣いと言ってほしいわね。……まあいいわ。それでは皆さん、これから美琴ちゃんと上条くんの歓迎会をしたいと思うのですが――」 美鈴はここで急に言葉を句切ると、ぐるっと全員を見回した。 「その前に、話しておかなければいけないことがあります」 「話しておかなければ、いけないこと?」 上条と美琴は声を合わせた。 「そう。ちょっと長くなるから、悪いけどその辺は覚悟しておいてね」 上条達は顔を見合わせると互いにうなずきあった。 「まず今日のこの集まりについてなんだけど。初めは電話で美琴ちゃんに連絡した通り、私と上条さんの奥さん、詩菜さんとだけでやるつもりだったの。でもね、美琴ちゃんと話したことを色々考えてたら、やっぱりパパ達にもちゃんと立ち会ってもらった方がいいと思ったのよ。それで無理を言って、パパと上条さんのご主人に日本に帰ってきてもらったの。正直な話、こうしてみんなが揃う機会なんてなかなかないから。それで立ち会ってもらった上でやりたいことなんだけど――」 「奥さん、後は私から言いましょう」 突然刀夜が美鈴の言葉を遮った。 「ですが……」 「気にしないで下さい。職業柄はっきりと物を言って人に憎まれることは慣れてますから」 躊躇する美鈴を手で制すると刀夜は上条と美琴を交互に見やった。 「さて奥さんの話の続きなんだが、その前に。当麻、美琴さん、先に聞いておきたいんだが母さんから聞いた話、あれは本気かい?」 「話?」 「そう。お前達二人が付き合ってるだけじゃなくて、将来は結婚することまで考えているって話だ。どうなんだ、当麻?」 「そ、それは……」 返答に窮した上条は声をつまらせた。正直言って、なんと答えていいかわからなかったからだ。 美琴のことを好きだというのは事実である。 ずっと美琴といっしょに生きていきたいと思っているのもまた事実。美琴以外の女性とそういう関係になりたいなどとは露ほども思っていない。 しかしそれ以上、結婚したいか、などといったことを冷静に問われると、いまいち実感が湧かないのだ。 美琴のことが好きで、愛している。となるとその先には結婚して家庭を持って、と続くのだろうが、改めて問われると上条には自分がいまいち本気になりきれていないように思える。 あのときは心のまま勢いで告白したものの、これから自分はいったいどうしたいのだろう。 問われた以上、何か答えなければいけない。 けれど親の前、そして何より美琴の前でいい加減なことは言えない。いや、言いたくない。 今、自分の心はどこにあるのだろう。 「…………」 上条は半ば無意識にチラと横目で美琴を見た。 ふいに気になったのだ、自分の思考や意志は混濁してわけがわからなくなっているが、美琴の方はどう思っているのだろうかと。 美琴に告白したとき、美琴は上条の告白をプロポーズとみなすと言った。 先ほども美琴は上条のことを「フィアンセ」と呼んだ。 言葉通りに取るなら刀夜の言った通り、美琴は結婚やその先まで考えていることになる。 けれど果たして本当にそうなのだろうか。 美琴の言葉や態度にはどこまでの「本気」が含まれているのだろうか。 美琴は、自分との将来をどう考えているのだろうか。 そこまで考えて上条は小さく頭を振った。 ダメだ。 自分はあの告白のときから何も成長していない。 あのとき、まずは自分自身をしっかり保たなければならないと、自分自身の気持ちを確立しなければならないと悟ったはずではないか。 美琴の気持ちは美琴が考えることだ。 ならば、上条は上条の気持ちを考えればいい。 そして上条が今、御坂美琴という女性に対して思うことは――。 「…………」 上条はごくりとつばを飲み込むと目の前にいる両親達の顔を見た。 すっと細く息を吸うと上条は口を開こうとした。 「今はまだ年齢的に結婚はできません。でも、私は将来必ず当麻と結婚します。当麻以外の男性なんて考えられません」 「…………!」 だが上条のセリフは美琴の凛とした声に遮られた。 その瞬間、上条ははっと息を呑んでいた。 上条がウジウジと悩んでいる間に美琴はきちんと自分の意志を明確にし、はっきりその想いを口にしていたからだ。 そんな美琴に少しでも近づかなければ、上条にそう思わせるほど毅然とした美琴の態度であった。 「そうか。で、当麻は、どうなんだ?」 美琴の言葉に軽くうなずいた刀夜は再び上条を見る。 上条の方も気を取り直して刀夜の目をじっと見返すと、こくりとうなずいた。 「俺もだ。美琴以外の女の子なんて考えるまでもない」 そう、これでいいのだ。 自分がずっと共に人生を歩んでいきたいと思う女性は御坂美琴という女の子ただ一人。そう答えればよかったのだ。 色々頭をよぎる考えはあるし、納得しきれたわけではない。だが少なくともさっきの刀夜の質問に対して上条の心が出す答えとしてはこれで十分だ。 上条当麻は将来必ず御坂美琴を妻にする。 このとき、上条ははっきりその心に誓った。 「そうか、二人とも本気なんだね」 刀夜は何度もうなずいた。 「なら親としてその上で言おう。その気持ち、考え直してくれ」 「な……!」 刀夜の言葉に上条達は絶句した。 慌てて二人は他の親達の顔を見る。 「…………」 そして二人は親達の態度に絶望を味わうことになる。 刀夜以外の親、三人共がすっと上条達から目をそらせたのだ。 「……どうして」 やがて美琴の口がゆっくりと開かれた。 「どうしてそんなこと言うのよ! 私は当麻が好き、世界で一番好き。その人のお嫁さんになりたい、この気持ちをどうして考え直さなきゃいけないのよ!!」 激高する美琴。 だが刀夜はあくまで冷静だった。淡々と言葉を繋いでいく。 「もちろん、ちゃんと理由はあるよ」 「なんだよ、その理由って。もちろん俺だって、考え直す気なんてさらさらないけどな」 上条は刀夜をキッとにらんだ。 「二人とも若すぎるってことだ。若いから世の中がまだちゃんと見えていない。今は確かに付き合い始めたばかりだから、好きな人が世界で一番素晴らしいと思っているだろうけど、これからもっといろんな人との出会いがあるんだ。どう心変わりするかわからない、それなのに今相手を限定して視野を狭くする必要はないんじゃないかな?」 「なんだよ、それ……」 「当麻と美琴さん、二人が互いを『好き』なのがダメなんじゃないんだ。『今』の段階でそれ以上を考えるのが早すぎるんじゃないかって言ってるんだ」 刀夜はここでいったん言葉を句切った。 「『好き』のままじゃ、ダメなのかい?」 「くっ……」 上条はギリッと奥歯を噛みしめた。 刀夜の言うことにも一理ある。いや、未成年の子供に対してなら普通に親が思うことだろう。腹立たしいが、自分達子供のことを思いやっているからこそ出る言葉だ。 けど。 だからといって。 ここで引き下がっては自分のさっきの決意そのものが無意味になる。 あの決意だけは、誓いだけは譲れない。 「んなもん、ダメに決――」 上条は刀夜に食ってかかろうとした。 しかし左手に加えられた力が、左手をぎゅっと握った、荒れ狂う心を包み込むような暖かく柔らかい美琴の手の感触が、上条の行動を制した。 「美琴……」 上条の呟きに美琴はこくりとうなずいた。 自分が答える。 美琴の瞳が、握った手が、そう語っていた。 「ああ」 だから上条も納得した。ここは美琴に任せよう、と。 そして美琴を励ますようにそっと彼女の手を握り返した。 美琴は親達の顔を順番に見ていき、最後に母、美鈴をじっと見つめた。 「『好き』じゃダメ。『好き』のままじゃ、絶対にダメ。私の心は、もう、そんな感情じゃ収まりがつかない段階に達してしまった」 美琴はチラと上条に視線をやった。 「だから私は、この想いが早すぎるとは思いません。私は、私が生涯をかけて愛する人と、14歳の今このときに出会った、ただそれだけ。これからどんな出会いがあっても、私の当麻への想いが変わることはありません。当麻は、もう私の中で、私という存在の一部になっています。だから、この想いが変わる時は、私が、御坂美琴でなくなってしまう時。だから、私は一生当麻を愛し続けます。考え直すなんて、絶対にあり得ません」 凛とした、透き通った声が部屋中に静かに響いた。 上条はぽんと美琴の肩を叩くと、親達の顔を順に見やった。 自分も同じ気持ちだ、これ以上ゴチャゴチャ言わせない、そんな気持ちを込めて。 「…………」 だが、刀夜の顔には反論されたことに対してなんの感情も浮かんでいない。 上条達がその様子に疑問を感じたとき、刀夜が口を開いた。 「美琴さん、当麻をそんなにまで好きになってくれてありがとう。親として心から礼を言うよ」 「上条のおじさま……」 「けど、二人のことを考えたらやはり考え直してほしい」 「な、なんで!」 「親としては子供にはいつだって幸せでいてもらいたい、辛い思いをしてほしくないんだよ」 「そんな。それとこれとなんの関係があるって言うんですか!」 「ある。端的に言うと、住む世界が違うということなんだ」 「住む世界? ……レベルの、ことですか?」 美琴の言葉に刀夜はうなずいた。 「そう。君達二人の間にある厳然とした違い、という奴だね」 「でもそんなの、私達が付き合うことになんの関係があるんですか! それこそ個人の自由じゃないですか!」 「本当にそう言いきれるのかい? 君達二人は学園都市という社会の中で生きている。そしてその影響は君達が学園都市を出た後でも、何かしらの形でずっと続くだろう。そんな君達が、レベル5とレベル0が、付き合ったり、ましてや結婚を考えたりして本当に邪魔が入らないと思うのかい? 天才お嬢様とおちこぼれのラブストーリーを歓迎する人間なんて、どれくらいいるかな」 「だって、私達が付き合ってもう何ヶ月も経つけど、そんな邪魔なんて――」 「今はまだ、なだけかもしれない。君達の様子を伺っているだけかもしれない。少しずつ邪魔はもう始まっているかもしれない。他にも人間関係や修学関係なんかも含めたら、世の中はどこでどんな邪魔をしてくるかわからない」 「だから考え直せって言うんですか? 当麻のことを、諦めろって言うんですか? じゃあ私は同じレベル5で、どこかの御曹司みたいな奴しか好きになっちゃいけないって言うんですか!」 「そうじゃないよ。今はまだそこまで考えるべきじゃないっていうだけさ。君達がもっと成長して、人生経験を積んで、それでもまだ相手のことを想うのなら構わないかもしれない。ただ、覚えておくといい。世の中っていうのはね、君達が考えている以上にその流れに乗ろうとしないイレギュラーな存在に対して冷酷なんだ。卑怯で、狡猾で、最低な存在だ。美琴さんも当麻も、少しは思い当たることはないかい?」 「…………」 刀夜の言葉に美琴も上条も黙ってしまった。 そんな二人に刀夜はさらに言葉を続けた。 「別に意地悪をしたいわけじゃない。ただ現実を考えてほしいだけなんだ。あくまで私や御坂さんの予想だが二人が付き合うとなったら、普通の学生カップルなんかより遥かに苦労するはずだ。私達は親だからね、子供が理不尽な苦労をすることは望まない」 「……あ、く」 美琴は何か言おうと思ったが上手く言葉を繋げることができず、結局再び黙ってしまった。 自分達に向けられた冷静な、それでいて無慈悲な意見。喋っているのは刀夜だが、その内容は旅掛や美鈴や詩菜、両親全員の意見と考えて間違いない。 つまり、皆が自分と上条の交際に異を唱えているということになる。 しかもその意見には親として当然の感情が多分に含まれている。むしろ自分達を心配するからこそ出てきた意見だ。 それに具体的な妨害は今のところないが美琴自身、レベルが評価の全てである学園都市という世界のいやらしさは十二分にわかっている。 学園都市はレベル5の美琴を優遇すると同時に、レベル0の上条をある意味虫けらのように扱う世界である。 それに妹達の件だって、学園都市の残酷さを示す証拠となる。 さらに言えば上条をぞんざいに扱っているにも関わらず、学園都市、というよりその上層部、統括理事会は時が来れば上条の右手を利用しようと考えている。だからそのためとあらば、上条の五体をバラバラにすることさえ連中はいとわないだろう。 そう。上条と結婚する、などと言えば学園都市という魔物がいったい何をしようとするかわかったものではないのだ。しかももし奴らにそのような思惑があるのだとすれば自分達が成長しようとなんの解決にもならない。永遠に自分達につきまとう問題だ。 つまり、自分と上条は決して結ばれてはいけない存在だということになってしまう。 「そ、んな……」 ぽたっぽたっと美琴の瞳から涙がこぼれだした。 やっと想いが叶ったのに、やっと気持ちが通じ合えたのに、なぜこんなことにならなければいけないのだろう。 なぜこんな思いをしなければいけないのだろう。 大好きな人のお嫁さんになる、そんな女の子としてはごく当然の幸せすら自分は願ってはいけないのだろうか。 美琴の瞳からは次から次に涙がこぼれだし、その勢いはとどまるところを知らなかった。 「……いい加減にしろ」 その時、低く静かな、それでいて恐ろしいほど冷たい声が美琴の耳に届いた。 「いい加減にしろ父さん! いや、父さんだけじゃない、母さんも美鈴さんも旅掛さんも、みんなみんないい加減にしやがれ――――!!」 ガタッと立ち上がった上条は怒りで顔を真っ赤にしながら両親達を怒鳴りつけていた。 しかしそんな上条を目の前にしても刀夜はあくまで冷静だった。 「落ち着け、当麻。私だけならともかく、御坂さん達に失礼だろう」 「うるせえ! 失礼も何もあるか! そっちの態度の方が俺に取っちゃよっぽど許せねーんだよ! 予想の話だけでよくもまあ好き放題言ってくれやがったな!」 「お前は予想だと言うが、これは十分考えられる事態だろう。違うか?」 「ああそうだ! でもだからどうした! 学園都市や世の中の根性が腐ってるのは今に始まったことじゃねえ! 生まれついての不幸体質の俺はいくらでもそんなもん味わってきてるんだ!」 「だったら私の言う意味が理解できるはずだろう。それに私達は何も付き合うなとは言っていない。時期が来るまで待てばいいと――」 「父さんの理屈通りならそんな時期なんて永遠に来ねーよ! 俺達が成長したら成長したでそれ相応の嫌がらせをしてくる連中なんだよ、そういう奴らは! 父さん達、それわかってて言ってるんだろう? つまり別れろって言ってるんだろう、結局!」 「…………」 上条の言葉に今度は刀夜が沈黙する番だった。 「ふざけんなよ。俺は美琴が好きだ。相手が学園都市であろうと、世の中そのものであろうと、どんな奴からだって美琴は俺が絶対に護ってみせる! どんなことをしてでもな! だから余計な心配して俺たちを引き離そうとすんじゃねえ!」 上条はぎゅっと右拳を握った。 刀夜はそんな上条を見ながら大きくため息をついた。 「その決意は立派だ。だけど冷静になれ、当麻。私達はあくまで親としてお前達を心配しているんだ。なぜその気持ちを余計なんて言う? 私達はあくまでお前達の味方なんだぞ、なぜそんな私達まで敵に回そうとするんだ。そんなことで美琴さんを守ることができるのか?」 「何が味方だ!」 上条はびっと美琴を指さした。 「見ろ!! 味方なら、親なら、なんで美琴を泣かせた!! どんな理由があったって美琴を泣かせる奴はみんな俺の敵だ!! そんな奴はたとえ親だって許さねえ!!」 「と、うま……」 美琴はしゃくり上げながらぼうっと上条を見つめていた。 上条は両親達をにらみつけながら見回した。 「残念だったな、父さん達の企みは失敗だ。いいか、よーく覚えておけ。俺は美琴に心底惚れてんだ、だから美琴が嫌だって言わない限り、俺の方から美琴と別れることは絶対にない……誰がどんな小細工しようともな!」 「…………」 上条の「惚れてる」発言に美琴は真っ赤になってうつむいた。 「この際だからはっきり言っておくぞ。これからも俺には何を言ってきても構わない。だけどな、二度と美琴を泣かせるようなことだけは言うんじゃねーぞ。もし今度そんなこと言ってきたら、たとえ父さんだって容赦しねえ。いいな!」 「…………」 何も言わなくなった刀夜を見て上条は面白くなさそうにフンと鼻を鳴らし、美琴の腕を掴んだ。 「馬鹿馬鹿しい。帰るぞ、美琴」 「え?」 上条に腕を掴まれた美琴はきょとんとした顔で首を傾げた。 「こんなところにいる理由なんてもうねえ。どこもかしこも敵だっていうんなら学園都市で俺がお前を護ってやる。少なくとも単純にぶん殴れるだけ向こうの方がまだマシだ」 「待て、当麻」 「は? なんだよ」 上条は刀夜をキッとにらみつけた。 その刀夜は上条の視線の先で両手を挙げていた。 「私としてはこの辺でもう勘弁してもらいたいんですが、皆さん、どうですか?」 「何を言ってるんだ、父さん……?」 訝しげな表情を浮かべる上条をよそに、苦笑する刀夜以外の親達三人は、嬉しそうな、それでいて感心したような微妙な表情を浮かべていた。もっとも、ただ一人、美鈴だけはニヤニヤと笑みを浮かべていたが。 「あらあら当麻さん、いつの間にか刀夜さんに説教できるほどにまで成長したんですね。私としては嬉しいと同時にちょっと寂しくもありますね。ですが言葉が汚すぎます、もう少し品性を保って下さい」 「親を相手にあそこまでぶちまけるとはなあ。普通、よっぽど尊敬されてない親でもなければ子供はもう少し臆するもんなんだが。君、結構根性あるじゃないか」 「あらー、もしかして上条くんて、そんな気持ちで美琴ちゃんに告白したわけ? こりゃ美琴ちゃんじゃなくても惚れるわ」 「へ? え?」 突然空気の変わった両親達の様子に混乱している上条に向かって、刀夜ががばっと頭を下げた。 「すまん、当麻、美琴さん! やりすぎた!」 「へ? やりすぎって、どういうこと、だ……?」 「いくら二人の決意の程を確認するためとはいえ、さすがに演技の度を超えていた。本当にすまん!」 「え、んぎ? え、演技って……な、なんじゃそりゃ――!」 それは、今日上条が出した一番の大声だった。 十分後、ふくれっ面をした上条と美琴の目の前のコップに美鈴が苦笑しながらジュースを注いでいた。 「二人ともゴメンてば。ねえ、もう機嫌直してよ」 「…………」 上条は無言で美鈴から目をそらせた。 美鈴はそんな上条を見ながら頭をかくと、今度は美琴の方を向いた。 「こっちはまだダメか。じ、じゃあ美琴ちゃん。美琴ちゃんはもう機嫌直してくれたわよね」 「……私だって怒ってるわよ。あんな酷いこと言って。あれ、母さん達みんなで考えたことなんでしょ。全員同罪、酷すぎるわよ」 そう言って自分をにらみつけた美琴に、美鈴はパンと手を合わせて頭を下げた。 「本当にごめんなさい。悪気はなかったの」 「あったらもっと問題よ」 美琴はコップのジュースをぐいと飲み干した。 美鈴は空になったコップに慌ててジュースを注ぎ足した。 「そうね。でもね、私達がああいうことを心配してたのは本当なのよ。あなた達には幸せになってほしい。だから、あなた達の覚悟や想いの強さを確認しておきたかった。あなた達はちゃんと二人で幸せな未来を掴めるんだって信じさせてほしかったの」 「そういう言い方したって騙したことには変わりないわよ。……でも怒れないじゃない。あーあ、もういいわよ」 美琴はがっくりと肩を落とした。 そしてその呟きを美鈴は聞き逃さなかった。 目をキラキラと輝かせて、ずいと美琴に顔を近づける。 「ほんと? 本当にママ達のこと許してくれるの?」 「本当よ。私達のことを心配してあんなことをしたのは事実だし、これ以上怒ってもいいことないしね。ね、当麻」 美琴に声を掛けられた上条も美琴に続いてがっくりと肩を落とす。 「まあ、美琴がいいって言うんなら俺ももういいです。でも覚えてて下さいね」 「何?」 「本当に二度目はないですからね。悪気があろうとなかろうと、もし今度美琴を泣かせるようなことをしたら、たとえ親でも俺は絶対許しませんから」 「わ、わかってるわよ。もうあんなことは絶対しない」 「約束ですよ」 「約束する。それにしても」 美鈴はチラと上条を見て、はあっと大きくため息をついた。 「あの国宝級に鈍かった上条くんが、まさかあんなにも美琴ちゃんラヴになるなんてね。ちょっと意外かも。それに美琴ちゃんの反応もねー。泣いたり真っ赤になったりもうかわいいのなんの」 「な……!」 「え……!」 美鈴の言葉に上条だけでなく美琴まで絶句した。 二人して顔を真っ赤にしながらわたわたと両手を振りだす。 「だ、だだだだって、俺、美琴のこと大切で、えと、その、頭に血が登って……」 「わた、私は、その、当麻が、絶対護るって言ってくれて、私が泣いたこと、凄く怒ってくれて、だから……」 「はいはい、ごちそうさま」 美鈴は手をぱんぱんと叩くと目で詩菜に合図した。 こくりとうなずく詩菜。その手には紐が握られている。 「さあ、というわけでお二人の機嫌も直ったことだし。本日のメインイベントに行きましょうか。皆さん、手に飲み物を持って下さいね」 詩菜は紐を握った手にぐっと力を入れた。 「美琴さん、当麻さん、お帰りなさい。そして――」 詩菜はぐいと紐を引っ張った。その途端、パンという音と同時に垂れ幕が垂れてきた。 「おめでとう!」 「へ?」 「おめでとう!」 詩菜の挨拶に会わせて親達は次々と手にしたコップをぶつけ合った。 「えっと……」 事態についていけない美琴はゆっくりと垂れ幕の文字を読み始めた。 「えっと、何々? 上条当麻さん、御坂美琴さん。ご、こ、んやく……お、めで、とう!? 何これ!?」 美琴は慌てて美鈴の腕を掴んだ。 「母さん、いったいなんなのこれ?」 一方美鈴はあっけらかんとした表情で答えた。 「何って美琴ちゃんが読んだまんまよ。美琴ちゃん、婚約おめでとう!」 「こ、婚約って、ど、どうしてそんな……」 「だって、美琴ちゃんが電話で言ったんじゃない。上条くん、ううん、もう当麻くんの方がいいわね。当麻くんと結婚を前提に付き合ってるって。それって婚約と同じでしょ?」 「そ、そりゃそうだけど……でも……」 「何よ、嬉しくないの? せっかく両親公認になったっていうのに」 「嬉しいわよ! でもどうして急に……まさか!」 何かに気づいてはっと顔をこわばらせた美琴を見て、美鈴は申し訳なさそうに頬をかく。 「そう、本当は最初っからこうして二人を迎えたかったんだけど、やっぱり親としては二人の仲を認めてもいいっていう、何か確証みたいなのが欲しくてね、それであんなことをして二人の仲を確かめたの。本当、さっきはゴメンね、美琴ちゃん、当麻くん」 「そう、だったの……」 美琴は朱く染まった両の頬にそっと手を当てた。 「婚約……正式に、当麻と婚約。両親に、祝福されて。嬉しい。本当に、嬉しい……」 そのまま瞳を閉じ、美琴はしばし喜びを噛みしめていた。 そんな美琴を美鈴はぎゅっと抱きしめた。 「でしょでしょ!? 美琴ちゃんがこんなに喜んでくれて、ママも嬉しいわ!」 「うん、ありがとう母さん」 麗しい母娘の姿だった。 一方、上条はというと。 「こんや、く……今夜、食う。食事? 夕飯? 夕飯は今からですが……そうそう、こんにゃくはおでんの具として有名ですが上条さんとしては味噌田楽なんかも……」 「当麻、頼むからもう少ししっかりした、逆境に強い男になってくれ……」 「あらあら当麻さん、『あの』刀夜さんの息子とは思えないほどの純情さですね」 脳が完全にオーバーヒートを起こし、両親から呆れられていた。 主人公としての威厳など欠片もない。 結局上条が復活するのを待って、ようやく上条達の歓迎会ならぬ、上条と美琴の婚約パーティが開催された。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/どこにでもあるハッピーエンド